【会社の『営業所・本店・支店』の意味(2種類の『本店』の意味)】

1 会社の『営業所・本店・支店』の意味(2種類の『本店』の意味)
2 『営業所・本店・支店』の意味
3 『本店』に関する会社法の規定
4 会社の『住所』の機能や意義(否定方向)
5 『本店』の概念の種類
6 形式上と実質上の本店の食い違いの適法性
7 定款における本店
8 登記事項における本店
9 (主たる)営業所や本店を基準とする具体的規定(概要)

1 会社の『営業所・本店・支店』の意味(2種類の『本店』の意味)

会社が関係するいろいろな手続で営業所・本店・支店という言葉が登場します。
日常用語としては当たり前すぎるので,あまり細かいことを意識せずに使っていることが多いです。
しかし,法律的には細かい解釈があります。いろいろな手続でこれらの用語の意味が問題となることもあります。
本記事では,解釈の営業所・本店・支店の意味について説明します。

2 『営業所・本店・支店』の意味

営業所・本店・支店の基本的な意味は,日常用語と変わりません。
営業所とは,営業活動の中心(拠点)という広い意味の言葉です。
本店とは,例えば複数の営業所(営業の拠点)がある場合に,指揮系統として最も上位にある拠点という意味です。支店本店による指揮に従う拠点という意味です。

<『営業所・本店・支店』の意味>

あ 営業所

ある範囲・程度において独立の営業活動の中心となる場所

い 本店

全営業を統括し最高の指揮を行う場所

う 支店

本店の指揮に従属する営業所
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p67

3 『本店』に関する会社法の規定

会社の本店については,会社法で会社の住所であると定められています。

<『本店』に関する会社法の規定>

あ 条文規定

(住所)
第四条 会社の住所は、その本店の所在地にあるものとする。

い 旧民法の同様の規定(参考)

削除前の民法50条と同趣旨の規定である

4 会社の『住所』の機能や意義(否定方向)

せっかく前記のように会社法4条で会社の住所本店であると定められているのですが,会社の住所までさかのぼって法律上のいろいろな効果を認める(判断する)ということはありません。そのため,会社法4条は実質的な意義はないと指摘されています。
形式面では役立っているところもあります。

<会社の『住所』の機能や意義(否定方向)>

あ 『住所』『本店』と法律的効果の関係

実際には『会社の住所』に法律的効果を認めることはほとんどない
直接に『本店』や『営業所』に法律的効果を認めるものが多い

い 『住所』(会社法4条)の意義

会社法4条は『本店』について規律するものではない
→この規定の意味はないといえる
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p65

う 手続上の形式面での意義

会社法4条があることによって
各種の手続を定める規定(条文)において『本店の所在地』という表記の省略が可能となっている
※会社法27条5号;定款における発起人の住所の記載
※会社法121条1号;株主名簿における株主の住所の記載

5 『本店』の概念の種類

いろいろな法令で会社の本店が登場することはとても多いです。
ところで会社の本店という時には,2種類の意味があります。形式と実質の2種類の意味があるのです。
公的な記録(定款・登記)として『本店』とされている場所を形式上の本店といいます。
一方,現実の事業活動の統括として機能している場所を実質上の本店といいます。
もちろん,この2つが一致していることが多いのですが,一致していないこともよくあります。

<『本店』の概念の種類>

あ 形式上の本店

定款・登記上の本店
=主観的意義における本店

い 実質上の本店

全事業の統括の場所
=客観的意義における本店

う 形式上の本店と実質上の本店の分離

『あ・い』の2つが分離しているケースもある
例=社屋は移転したが定款変更と登記が未了

え 『本店』の意味の多様化(形骸化)

複数の営業所に本店の名称が付されているケースもある
例;東京本店・大阪本店
※奥島孝康ほか『新基本法コンメンタール 会社法1 第2版』日本評論社2016年p83
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p67

6 形式上と実質上の本店の食い違いの適法性

形式上と実質上の2種類の本店が食い違うことはよくあります(前記)。
このように食い違うことについて,古い見解には役員の業務執行上の義務違反であるという指摘がありました。
しかし現在ではITの飛躍的な進歩により,意思伝達・意思決定の方法には多種多様なものが登場しており,物理的・場所的な拘束の必要がなくなってきました。現在では営業活動を指揮する場所がどこかによって違法となる見解は少数派であると思われます。

<形式上と実質上の本店の食い違いの適法性>

あ 代表取締役の業務遂行場所(古い見解)

代表取締役は形式上の本店において営業活動の指揮・統括を行うべきである
それ以外の場所を営業活動の中心とすること
→業務執行上の義務違反になる
※鈴木竹雄『会社の営業所』/『商法研究2』有斐閣1971年p179

い 罰則の有無

罰則の制裁はない
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p67

7 定款における本店

形式上の本店(前記)としては定款において本店として記載されている場所があります。例えば『渋谷区』というような最小行政区画が記載されていることが多いです。

<定款における本店>

あ 定款の記載事項

定款の記載・記録事項として
『本店の所在地』がある
※会社法27条3号

い 特定の程度

独立最小行政区画の記載で足りる
例;市町村・東京23区の区
※奥島孝康ほか『新基本法コンメンタール 会社法1 第2版』日本評論社2016年p83

8 登記事項における本店

形式上の本店(前記)には,登記に本店として登記(記録)されている場所もあります。定款上の本店と違い,所在地としてフル表記がされています。つまり,地番まで細かく記録されているのです。

<登記事項における本店>

あ 登記事項

『本店の所在場所』が登記事項である

い 特定の程度

地番まで含まれる
※会社法911条3項3号
※奥島孝康ほか『新基本法コンメンタール 会社法1 第2版』日本評論社2016年p83

9 (主たる)営業所や本店を基準とする具体的規定(概要)

以上のような営業所本店の意味が実際に問題となるのは,いろいろな規定(手続)でどの場所が基準となるのか,というものです。
具体的な規定によって基準とする場所は異なります。営業所が基準となる規定も本店が基準となる規定もあります。
詳しくはこちら|会社の『営業所』が基準となる(『本店』を用いない)いろいろな規定
詳しくはこちら|会社の(形式上か実質上の)『本店』が基準となるいろいろな規定

本記事では会社の営業所・本店・支店の意味について説明しました。
これらの規定は,単独で問題となるのではなく,場所を基準とするいろいろな規定や手続(裁判の管轄など)の前提として問題となります。
実際に会社の営業所・本店・支店が関係する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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