【会社の『営業所』が基準となる(『本店』を用いない)いろいろな規定】

1 会社の『営業所』が基準となる(『本店』を用いない)いろいろな規定
2 債務履行の場所と『住所・本店』
3 手形・小切手に関する『住所・本店』
4 民事訴訟法上の場所と『住所・本店』
5 国際私法上の場所と『住所・本店』
6 内国会社と外国会社の区別と『住所・本店』

1 会社の『営業所』が基準となる(『本店』を用いない)いろいろな規定

会社の『営業所』と『本店』『支店』という法律上の概念(用語)があります。日常用語とは使い方(意味)が少し異なります。
営業所本店(や支店)は一致することもありますが,別の概念(意味)です。実際に一致しないことも多いです。
詳しくはこちら|会社の『営業所・本店・支店』の意味(2種類の『本店』の意味)
具体的な規定によって,(主たる)営業所(形式上または実質上の)本店が基準となります。
本記事では,『営業所』の場所を基準とする具体的な規定を説明します。

2 債務履行の場所と『住所・本店』

場所が問題となる代表的な規定は債務の履行場所です。
商行為については当事者の合意が最優先で,これがなければ債権者の営業所となります。
通常はこのどちらかとなるはずなので,これ以外の住所や本店が基準として使われることはありません。

<債務履行の場所と『住所・本店』>

あ 対象となる債務

商行為によって生じた債務について
履行の場所は『い』の優先順序となる

い 履行場所の優先順位

ア 第1順位 行為の性質or当事者の意思表示による
イ 第2順位 債権者の『営業所』
ウ 第3順位 債権者の『住所』
※商法516条1項,2項

う 実際の状況

少なくとも営業所はあるはずである
→『住所・本店』が用いられることはない
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p65,66

3 手形・小切手に関する『住所・本店』

手形・小切手に関しても,支払の場所など,多くの規定で場所が登場します。条文上は住所住所地という記載になっています。
会社の場合であれば営業所(の所在地)のことです。本店や支店が基準として使われることはありません。

<手形・小切手に関する『住所・本店』>

あ 『住所』を基準とする規定

手形法・小切手法において
『住所』を基準とする規定が多くある
※手形法4条,21条,27条2項,52条1項,60条1項
※小切手法8条

い 『住所地』を基準とする規定

『住所地』を基準とする規定が多くある
※手形法2条3項,4条,22条2項,27条1項,48条2項,52条3項,76条3項,77条2項
※小切手法8条

う 会社の『住所・住所地』の解釈

住所(あ)・住所地(い)の意味について
→手形法・小切手法の解釈で定めるべきものである
会社においては『営業所』『営業所所在地』と読み替えるべきである
会社法の『本店・本店』が使われることはない
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p66

4 民事訴訟法上の場所と『住所・本店』

民事訴訟法の中にも場所に関する規定があります。代表的なものは普通裁判籍ですが,それ以外にも多くの規定があります。
規定上は住所と記載されているものも含めて,(主たる)営業所という意味です。
本店や住所が基準となることはありません。

<民事訴訟法上の場所と『住所・本店』>

あ 会社の普通裁判籍

『主たる事務所or営業所』によって定まる
※民事訴訟法4条4項
詳しくはこちら|民事訴訟(と家事調停・審判・訴訟)の土地管轄のうち人的裁判籍

い 訴訟書類送達の場所

『営業所or事業所』によって定まる
※民事訴訟法103条1項

う 不変期間への付加期間の判断

『住所』が基準となる
※民事訴訟法96条2項

え 法人の『住所』の解釈

法人についての『住所』(う)について
→『営業所』と読み替えるべきである

お 民事訴訟法と会社の『住所・本店』

民事訴訟法上の規定(あ〜う)について
→いずれも『住所・本店』が基準となることはない
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p66

なお,これは,会社が当事者となり,会社の外部の者(会社)が相手となる一般的な訴訟が前提です。
会社法が定める会社内部の問題を扱う訴訟では,本店を基準とする専属管轄が定められています。
詳しくはこちら|会社の(形式上か実質上の)『本店』が基準となるいろいろな規定

5 国際私法上の場所と『住所・本店』

国際的な取引に関して適用される法令が日本法なのか相手の国の法律なのかという問題(準拠法)があります。
判断要素は常居所・主たる事務所(の場所)です。住所や本店が基準となるわけではありません。

<国際私法上の場所と『住所・本店』>

あ 法律行為の準拠法

法律行為の準拠法について
『常居所』『(主たる)事業所』が基準となることがある
※法適用通則法8条2項,11条6項1号,2号,12条2項,18条,19条

い 解釈

常居所・事業所(あ)について
→本店・支店などの区分ではなく『営業所』を意味する
→『住所・本店』が基準となるわけではない
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p66

6 内国会社と外国会社の区別と『住所・本店』

内国会社外国会社の判別が必要になることがあります。これは,会社を設立した時に適用した法令がどの国のものかで判定します。
住所や本店が基準となるわけではありません。

<内国会社と外国会社の区別と『住所・本店』>

あ 内国/外国会社の区別

内国会社外国会社の区別について
→設立の準拠法によって定める

い 『住所』との関係

『住所地・住所・本店』の法が基準となるわけではない
※江川英文『国際私法』1972年p172
※実方正雄『国際私法概論 再訂版』1952年p147
※山田鐐一『法人』/『国際私法講座2』1955年p343
※上柳克郎ほか『新版注釈会社法(1)』有斐閣1985年p67

本記事ではいろいろな場面で会社の営業所(の場所)が基準として用いられる具体的内容を説明しました。
実際に会社の場所(営業所・本店・支店)が関係する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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