【死因贈与を撤回(取消)することを認める判断基準(判例の流れ)】

1 死因贈与を遺言で撤回することを認める判断基準
2 死因贈与への『遺言の撤回』の準用
3 昭和47年判例(死因贈与の撤回を肯定)の内容
4 負担付死因贈与の撤回を認める判例(昭和57年)
5 単純な死因贈与の撤回を判断した判例(昭和58年)
6 昭和58年判例の事情の評価の内容
7 死因贈与の撤回の判断基準
8 判例の枠組みで判断した事例(裁判例)

1 死因贈与を撤回することを認める判断基準

死因贈与は遺言と似ているところがあります。しかし死因贈与は当事者が合意して成立する契約です。そのため遺言とは違う特徴があります。
詳しくはこちら|死因贈与の特徴(遺言との違い・仮登記できる・自由に撤回できる)
契約の一般論としては当事者の一方の判断で解消することはできないはずです。
しかし,民法上の規定によって死因贈与を取り消すことが可能です。
ただし,事情によっては例外的に取り消しができないということもあります。
本記事では,死因贈与の撤回ができるかどうかの判断について説明します。

2 死因贈与への『遺言の撤回』の準用

まず民法の条文の文言からは,死因贈与を撤回することができるかどうかがハッキリとは読み取れません。
しかし,判例は一貫して撤回できるという判断をしており,この解釈は確立しています。

<死因贈与への『遺言の撤回』の準用>

あ 問題となる条文の組み合わせ

民法554条によって民法1022条(遺言の撤回)が準用されるかどうか

い 見解(学説・判例)

学説には肯定・否定の見解がある
判例は古くから準用を肯定している
※大判昭和16年11月15日

3 昭和47年判例(死因贈与の撤回を肯定)の内容

昭和47の判例は,死因贈与を撤回することを明確に認めています。
判例自体からは例外がないかのように読めるくらい,ハッキリと撤回を肯定しています。

<昭和47年判例(死因贈与の撤回を肯定)の内容>

あ 理由

贈与者の死後の財産に関する処分については,遺贈と同様,贈与者の最終意思を尊重し,これによって決するのを相当とする

い 結論

死因贈与の取消を認める
(民法1022条は死因贈与に準用される)
※最高裁昭和47年5月25日

う 例外の可能性

判決自体からは例外の余地がないように読める

4 負担付死因贈与の撤回を認める判例(昭和57年)

単純な死因贈与ではなく,負担付の死因贈与の撤回が問題となった判例があります。
贈与を受けた者が負担を履行した後は,贈与した者が自由に撤回できないという結論が示されています。常識的で分かりやすい判断です。
この判例は負担付のものに関するものでしたが,この後の判例で負担付ではない死因贈与の撤回を否定することにつながります(後記)。

<負担付死因贈与の撤回を認める判例(昭和57年)>

あ 撤回を制限する基準

負担付死因贈与について
受贈者が負担の全部orこれに類する程度の履行をした場合には,契約締結の動機,負担の価値と贈与財産の価値との相関関係,契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし,契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと認められる特段の事情がない限り,民法1022条,1023条の規定は準用されない
※最高裁昭和57年4月30日

い 単純な死因贈与への適用

(負担付ではない)単純な死因贈与の撤回についても影響を与えるという指摘もある
※『最高裁判所判例解説民事篇 昭和58年度』法曹会1988年p25

5 単純な死因贈与の撤回を判断した判例(昭和58年)

昭和58年の判例では,負担付ではない死因贈与について,撤回することを否定しました。
昭和47年判例の例外を作ったともいえます。また,昭和57年判例(負担付)を,負担付ではない単純な死因贈与にも拡げて適用した,ともいえます。

<単純な死因贈与の撤回を判断した判例(昭和58年)>

あ 判断の要旨

個別的な事情(後記※1)により
贈与者が死因贈与を自由に取り消すことはできない
※最高裁昭和58年1月24日

い 従来の判例との関係

昭和47年判例に例外があることを示した
取消の要件(基準)については特に触れていない
※『最高裁判所判例解説民事篇 昭和58年度』法曹会1988年p20

6 昭和58年判例の事情の評価の内容

前記のように,昭和58年判例は,個別的な事情を理由にして,死因贈与の撤回を否定しました。
判例には明確にその判断プロセスは示されていません。考えられる判断プロセスをまとめます。

<昭和58年判例の事情の評価の内容(※2)

あ 判断材料

死因贈与が土地の所有権の承認と対価関係にある
効力の発生前から受贈者による土地の占有耕作がある
贈与者はこれを覆すような一切の処分をしないことを確約している
死因贈与が,双方の互譲を本質とする裁判上の和解で行われている

い 実質的価値判断

死因贈与は,負担付き死因贈与と同等orそれ以上に契約としての拘束を受けるべきである
→取消を認めない
※『最高裁判所判例解説民事篇 昭和58年度』法曹会1988年p20

7 死因贈与の撤回の判断基準

前記のように,昭和58年判例には,死因贈与の撤回を否定する判断基準は示されていません。実際に判断している内容を元に可能な範囲で一般化して判断基準としてまとめます。

<死因贈与の撤回の判断基準>

死因贈与の動機,態様,内容その他諸般の事情を総合的に検討し
死因贈与が取り消されてもやむをえないものかどうかを具体的に判断する
※『最高裁判所判例解説民事篇 昭和58年度』法曹会1988年p20

8 判例の枠組みで判断した事例(裁判例)

以上のように,いくつかの判例で,死因贈与の撤回ができるかどうかの判断の枠組みが作られてきました。
実務では,この枠組みを使って撤回できるかどうかを判断しています。その一例として下級審裁判例を紹介します。具体的事案内容は省略しますが,判断プロセスの中に特段の事情が存在することが分かります。

<判例の枠組みで判断した事例(裁判例)>

特段の事情があれば,死因贈与を遺言で撤回することは認められない
個別的事情を元にすると(実質的なプラス・マイナスを考慮している)
遺言によって死因贈与契約を取り消すことが許されないと解すべきほどの特段の事情は存在しない
→死因贈与の取消を認める
※東京地裁平成24年7月27日

本記事では,死因贈与の撤回ができるかどうかの判断について説明しました。
実際には,細かい事情の主張・立証によって結果が決まります。
実際に死因贈与の撤回の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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