【重婚的内縁関係にも適用される法律婚の規定と適用されない規定がある】

1 重婚的内縁関係への法律婚の規定の適用の有無

内縁の関係が認められると,基本的には法律婚に準じた扱いとなります。
詳しくはこちら|内縁関係に適用される制度と適用されない制度(法律婚の優遇)
内縁の関係が重婚のような状況である場合は,法秩序に反するので保護しないという方向性となります。
つまり,法律婚の規定を適用しないという意味です。
とはいっても,内容によっては適用される法律婚の規定もあります。
本記事では,重婚的な内縁関係の法的な扱いを説明します。

2 重婚的内縁の具体例

まず最初に,内縁関係が重婚的となるという意味を説明します。
ちょっと複雑なので,具体例としてまとめます。

<重婚的内縁の具体例>

あ 具体的状況

男性Aと女性Bは結婚(婚姻=法律婚)している
AとBは,長年別居して連絡も取っていない状態である
Aと女性Cは,事実上夫婦のように同居して暮らしている

い 重婚的な関係

AとCは内縁に相当する関係である
しかしAとCの法律婚と重複する(重婚の状態である)

3 重婚的内縁関係における規定の適用の有無

重婚的な内縁関係に適用される規定と適用されない規定があります。
大雑把にいうと,関係を解消する方向性の規定だけが適用されるのです。

重婚的内縁関係における規定の適用の有無

あ 法律婚の規定の適用(全体)

重婚的内縁関係(AとC)の場合
→法律婚の規定のうち適用されるもの(い)と適用されないもの(う)がある

い 重婚的内縁にも適用される規定

法律婚の規定のうち関係を解消する方向の規定について
→重婚的内縁関係にも類推適用される
例=財産分与
※高松高裁松江支部昭和40年11月15日

う 重婚的内縁には適用されない規定

法律婚の規定のうち関係を維持する方向の規定について
→重婚的内縁関係には適用されない
例=同居義務,離婚原因
つまり,一方の意思のみにより関係の解消ができることになる

4 重婚的内縁関係の法的保護の程度

以上のように,法律上の規定(制度)ごとの適用の有無,ではなく,もっと抽象的に,重婚的であることを理由としてどの程度,(内縁の妻の)保護を弱めるかということを示した裁判例があります。
なお,この事案では,内縁の夫が亡くなった後に,その相続人が内縁の妻に住居からの明渡を請求していました。これが権利の濫用にあたるかどうか,という判断の中で保護の程度が使われています。

重婚的内縁関係の法的保護の程度

あ 裁判例

・・・亡A(内縁の夫)と被告(内縁の妻)は,遅くとも,a1工業をたちあげ,2人で家を賃借した平成6年ころまでには,夫婦同様に共同生活を営みはじめ,本件土地建物を取得した平成11年ころには,対外的にも,訴外会社の経営者夫妻として認知されるようになっていたことが認められ,遅くとも同時点までに内縁関係を形成したものと評価できる。
しかし,他方で,前記第2の2の事実及び上記1で認定した事実記載のとおり,亡Aは,法律上の婚姻関係にあった訴外Bとの間での離婚手続きをしておらず,自宅に最低でも1か月に一度以上は戻り,生活費を渡し,訴外B(内縁の夫の戸籍上の妻)や原告(子)らに対しては,夫として,又は父親としてふるまっていたこと,被告もそのような状態を容認していたこと,また,被告自身も,D(内縁の妻の戸籍上の夫)との間での戸籍上の婚姻関係は維持していることも認められる。
このような関係に照らせば,被告は,亡Aの内縁の妻として保護されるが,その関係が重婚的内縁関係にあることに鑑み,その権利の性質に応じ,競合する法律婚の配偶者の権利を不当に侵害し,一夫一婦制の趣旨が没却されることがない限度で保護されるにとどまるというべきである。
・・・(相続人が)本件建物の明渡し及び賃料相当損害金を要求することは,被告が訴外Bの法律上の妻としての権利を侵害している事実を考慮してもなお,権利の濫用として許されないというべきである。
※名古屋地判平成23年2月25日

い 死別における内縁配偶者の居住の保護(参考)

内縁関係の死別のケースで,不動産の所有権を持たない内縁配偶者の居住を保護する解釈については別の記事で説明している
詳しくはこちら|内縁の夫婦の死別における不動産所有権のない内縁者の居住の保護

本記事では,重婚的な内縁関係に適用される法律婚の規定と適用されない規定について説明しました。
実際には,個別的な事情によって解釈や判断は変わってくることがよくあります。
実際に重婚的な内縁関係に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【婚姻していない男女交際の種類(婚約・内縁・事実婚)と法的扱いの全体像】
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