【賭博罪の適用除外となる『一時娯楽物』の判断基準・具体例・判例】
1 賭博罪の適用除外となる『一時娯楽物』の判断基準・具体例・判例
『賭博をした』場合には原則として賭博罪が成立しますが、例外的に、『一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる』場合には賭博罪は成立しません。
詳しくはこちら|賭博罪・賭博場開張図利罪の基本(条文と解釈・具体的種目)
そこで、賭けた物がどのような物、範囲であれば『一時の娯楽に供する物』(一時娯楽物)として適法となるのかが問題となります。本記事では、『一時娯楽物』に関する解釈を説明します。
2 一時娯楽物の基本的な判断基準
『一時娯楽物』については、最高裁判例など、画一的・統一的な公的解釈がありません。
他の事例の判例から読み取れる範囲では、次のような判断基準と言えます。
一時娯楽物の基本的な判断基準
あ 判断基準
『物の得喪』よりも『勝ち負け』の方が主な『興味の対象』となっている
い 主な判断要素
ア 賭けの対象が現金または換金容易な物、ではないイ 賭けの対象(掛金)の金額(評価額)が低額ウ 勝敗決定プロセス自体の遊戯・娯楽要素が多い
いろいろな判例などの解釈の内容・具体例は次に説明します。
3 金銭の一時娯楽物該当性判断(判例)
一時娯楽物の解釈が示された判例を紹介します。
まずは『金銭・現金』を賭けた場合については少額であっても一時娯楽物にはあたらない(賭博罪は成立する)という判断となっています。
金銭の一時娯楽物該当性判断(判例)
『金銭』を賭けた場合は『一時の娯楽に供せられる物』とは言えない
金額が少なくても同様である
※最高裁昭和23年10月7日
※大判大正13年2月9日
4 敗者が品物代金を負担する方式の一時娯楽物該当性
次に、金銭が動いてはいるけれど、賭博罪の成立が否定された判例を紹介します。ポイントは2つあります。
まず、賭けた金額がすぐに購入して消費する飲食物の代金という低額レベルであったことです。
もう1つは、勝者は金銭そのものを獲得していないということです。つまり、敗者が代金を負担したところで金銭の動きは終わっているということです。
少なくとも、裁判所は、この2点を理由として、賭博罪に成立しないという結論を出しています。
敗者が品物代金を負担する方式の一時娯楽物該当性
あ 事案(判決文より)
50銭とか1円という風に金額を決め、翌日の相場の高低を争い、負けたる者が何かご馳走することにして飲食した(一部現代語化した)
い 解釈(判決文より)
偶然の事情により金銭そのものの得喪を争いたるにあらずして、ただ敗者をして一時の娯楽に供すべき物の対価を負担せしむるため一定の金額を支出せしめたるに過ぎざること明白なるときは賭博罪を更正せざるものとす(一部現代語化した)
う まとめ(現代語)
『敗者』のみが『一時の娯楽に供する物』の対価の負担のために『金銭』を支出した場合
例=即時に購入する飲食物の代金
(勝者は金銭そのものを得ていない)
→賭博罪は成立しない
※大判大正2年11月19日
5 金銭・その他の一時娯楽物該当性判断のまとめ
以上のように、一時娯楽物の判断を示した判例があります。最後に、金銭、それ以外の品物の全体についてまとめます。
金銭・その他の一時娯楽物該当性判断のまとめ
| 対象 | 賭博罪の成否 | 判例 |
| 飲食物・煙草・菓子・軽食 | 成立しない | 大判昭和9年4月30日 |
| その場で即時に消費できる範囲を超える品物 | 成立する | 大判昭和12年4月26日 |
| 金銭(原則) | 成立する | 最高裁昭和23年10月7日、大判大正13年2月9日(前記) |
| 金銭(即時に購入する飲食物の代金・敗者負担のみ) | 成立しない | 大判大正2年11月19日(前記) |
6 起訴裁量との関係(参考)
以上の説明は刑法の解釈として、賭博罪が成立するかしないか、というテーマでした。
ところで、現実には、少額の金銭を賭けたので(刑法上は)賭博罪が成立するといって、すべてのケースで刑事裁判が行われ、有罪判決がなされるというわけではありません。
ポイントは、検察官の起訴裁量です。検察官が犯罪が軽いなどと考えた場合には、検察官の判断で起訴すれば有罪になるけど起訴しないという措置(不起訴処分)をとることができるのです(刑事訴訟法248条)。もっと現実を言えば、少額の賭けであれば、警察の段階で事件として立件しない(捜査の対象としない)ことが多いのです。
起訴裁量の条文(参考)
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。。
※刑事訴訟法248条
この起訴裁量(や立件しないこと)と、”刑法の解釈(賭博罪が理論的に成立するかどうか)は別問題です。誤解が生じやすいところですので注意が必要です。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


