1 遺留分|悪意→期間制限なし
2 特定の相手方なし|両方悪意→否定
3 悪意|解釈論|基本
4 客観的な損害の認識|内容
5 将来的な変動可能性
6 損害の認識×主張立証責任
7 1年以上前の贈与×『悪意』|判断傾向

1 遺留分|悪意→期間制限なし

『遺留分算定基礎財産』の計算では『贈与した財産』の金額を使います。
『贈与した財産』の範囲について『悪意』かどうかで違いがあります。
具体的には『相続開始前1年以上前の贈与』について違いがあります。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産|贈与した財産
『悪意』についての解釈や判断は難しいところがあります。
実際にこれについて見解が熾烈に対立することがとても多いです。
本記事では『悪意』の解釈や判断について説明します。
まずは基本的事項をまとめます。

<遺留分|悪意→期間制限なし>

あ 悪意→期間制限なし

被相続人が行った贈与について
当事者の両方が損害発生知っていた場合(※1)
→期間制限なく遺留分算定に含まれる
一般に『知っている』ことを『悪意』と呼ぶ
※民法1030条

い 当事者の両方|内容

次の両方が悪意であることが前提である
ア 贈与者=被相続人
贈与した者のことである
イ 受贈者
贈与を受けた者という意味である

2 特定の相手方なし|両方悪意→否定

『贈与』は拡張的に解釈されています。
『無償の財産移転』も含むという解釈の方向性があります。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産|贈与した財産
その一方『悪意』の判断では間違えが生じやすいです。
注意が必要です。
『当事者の両方』という条件に該当しない『無償行為』もあるのです。

<特定の相手方なし|両方悪意→否定>

あ 前提理論

遺留分算定の『期間制限なし』について
→当事者の『両方』の悪意が要件である(上記※1)

い 特定の相手方なし→適用否定

特定の相手方のない無償処分の場合
例;寄附行為
→『期間制限なし』は適用されない
=相続開始前1年以内のものに限定される
※近藤英吉『相続法論(下)』弘文堂p1119

3 悪意|解釈論|基本

『悪意』の解釈・内容の説明に戻ります。
まずは解釈の基本的部分を整理します。

<悪意|解釈論|基本>

あ 悪意|基本

客観的な損害の認識(後記※2)を持っていること
※大判昭和4年6月22日
※大判昭和5年6月18日
※大判昭和9年9月15日

い 損害の認識|判断基準時点

損害の認識の判断について
→贈与時点を基準とする
※大判昭和5年6月18日

う 遺留分権利者の認識→不要

誰が遺留分権利者かの認識は不要である
※大判昭和4年6月22日

4 客観的な損害の認識|内容

『悪意』の対象は『客観的な損害の認識』です(前記)。
この認識の内容をさらにまとめます。

<客観的な損害の認識|内容(※2)>

あ 基本

『客観的な損害の認識』とは
→次の『い・う』両方の認識を持っていることである

い 客観的な財産状況

遺留分を侵害する事実関係
=次の『ア』が『イ』を超えること
ア 贈与対象財産の評価額
イ 残余財産

う 将来的な変動可能性

将来相続開始までの間において
贈与者の財産に大きな増加がないという予見(後記※3)
※大判昭和11年6月17日

5 将来的な変動可能性

『客観的な損害の認識』の中に『将来的な変動可能性』があります(前記)。
『将来的な変動可能性』の内容をまとめます。

<将来的な変動可能性(※3)>

あ 基本

『将来的な変動可能性』について
→周辺的な事情から判断する

い 判断例|贈与〜相続が長期間

贈与〜相続が長期間である場合
→『損害の認識』を否定する方向に作用する
例;19年間
※大判昭和11年6月17日

う 被相続人の活動能力低下

被相続人の活動能力が低下している場合
例;高齢or病気など
→将来財産が増加する見込みが低い
→『損害の認識』が肯定される方向に作用する
※大判昭和19年7月31日

6 損害の認識×主張立証責任

以上の説明は純粋な要件の解釈でした。
訴訟においてはこの要件の主張・立証責任が問題となります。

<損害の認識×主張立証責任>

『損害の認識』の主張・立証責任について
→遺留分権利者が負担する
※大判大正10年11月29日

7 1年以上前の贈与×『悪意』|判断傾向

上記は理論的な主張・立証責任の分配です。
実務における現実的な判断の傾向をまとめます。
大雑把に言うと,上記の理論的な結論と逆の方向性ということです。

<1年以上前の贈与×『悪意』|判断傾向>

あ 基本

相続開始よりも1年以上前の贈与について
→実務上の判断は次のような傾向がある

い 原則

遺留分算定基礎財産に『算入』する

う 例外

当事者の両方に『客観的な損害の認識(上記※2)』がなかった
このことがハッキリしている場合だけ
→除外する
※最高裁平成10年3月24日