1 不貞の慰謝料は加害者の破産で免責となる可能性もある
2 『積極的な加害意欲』がある場合は破産でも免責されない;非免責債権における『悪意』
3 不貞行為が悪質だけでは慰謝料が免責される
4 不貞行為が配偶者への積極的な加害の意欲,目的がある場合は慰謝料が免責されない
5 恋愛感情に基づく不貞の慰謝料は破産で免責される傾向だが,例外もある

1 不貞の慰謝料は加害者の破産で免責となる可能性もある

まず,破産によって債務を払わなくて良くなることを,正確には免責と言います。
破産をした場合は,原則として免責許可決定がなされます。
免責が許可されないのは,一定の不正な事情があった,という特殊な場合のみです(免責不許可事由)。

免責許可決定,がなされると,原則としてそれまで破産者が負っていた債務は免責となります。
払わなくて良い状態,という意味です。

では,慰謝料も払わなくて良くなるか,というとその事情によって異なることとされています。
慰謝料というのは,不法行為により生じた精神的損害,のことです。
破産法では,『破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権』は免責の対象外(非免責債権)とされています(破産法253条1項2号)。

2 『積極的な加害意欲』がある場合は破産でも免責されない;非免責債権における『悪意』

一般的に,法律の文言で『悪意』というと,知っていたということになります。
善意の逆です。
しかし,破産法253条1項2号(非免責債権)における『悪意』は知っていたという意味だとすると,文章全体の意味が通らなくなります。
そこで,例外的に考えられています。

ここでの『悪意』とは積極的な加害の意図・意欲,という意味として解釈されています(後掲裁判例1)。
なお,この裁判例では,破産法の改正前なので,条文が現行破産法と異なります。ただし,内容は現行法と同一です。
通説としての解釈でも単なる故意を超えて,他人を害する積極的意欲を意味する,と解釈されています(青林書院 大コンメンタール破産法 P1087)。

3 不貞行為が悪質だけでは慰謝料が免責される

不貞行為積極的な加害の意図・意欲,に該当するかどうかの判断を説明します。

不貞行為の目的が被害者(妻)への直接的加害という特殊事情がない限りは免責されると考えられます。
裁判例(前掲)において,不貞の慰謝料の免責が判断されたケースを示します。

<案件の概要>

不貞行為の期間=約5年
特殊性=夫婦が離婚していないのに(不倫の当事者間で)結婚式を挙げた

要するに,『離婚成立後に結婚できる』という常識的ルールを破った,早まった,というものです。
この事例では悪質であると判断されました(裁判例でそのように指摘されています)。
それにも関わらず,結論としては慰謝料は免責となっています。
正確には非免責債権ではないという判断です。
ポイントとなったのは,原告(妻)に直接向けられた加害行為がないというところです。

4 不貞行為が配偶者への積極的な加害の意欲,目的がある場合は慰謝料が免責されない

不貞行為の慰謝料が免責されないということもあります。

次の設例で説明します。

<不貞の慰謝料が免責されない事例>

夫Cと不倫相手の女性Bが不貞行為に及び,妻Aが精神的苦痛を与えられた

Bの不貞行為の目的がAへの積極的な加害意図・意欲,である場合は破産の免責の対象外となります(非免責債権)。
具体的な例としては,次のような事情です。

<不貞行為が妻への積極的加害である例>

ア 不倫自体がAに直接向けられた加害行為である
イ 不倫の目的はAに精神的苦痛を与えることである
ウ Bとしては,Cへの恋愛感情は特にない(好きでもない)

5 恋愛感情に基づく不貞の慰謝料は破産で免責される傾向だが,例外もある

原則として,恋愛感情から生じた不貞行為妻への積極的加害の意欲・意図には該当しないと思います。

しかし,例えば,不貞行為が妻に発覚し,妻から抗議があったような場合は,事情が違ってきます。
そのような抗議・警告があった後も不貞行為を継続している場合は,妻を攻撃する意図と認められる可能性が生じます。

そもそも不貞の目的というものは内心の問題なので,裁判などの公的判断においては,外形的な事情から推察することになります。
そこで,上記のような事情がある場合は,個別的な事案の事実認定として,積極的な加害意欲・意図として認められる可能性があると言えます。
つまり,慰謝料請求権が破産でも免責されないという可能性もあるということです。

条文

[破産法]
(免責許可の決定の効力等)
第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一(略)
二  破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三(略)

判例・参考情報

(判例1)
[東京地方裁判所平成13年(ワ)第23574号損害賠償請求事件平成15年7月31日]
 破産法366条の12但書は「悪意をもって加えたる不法行為」に基づく損害賠償請求権は破産による免責の対象とならない旨を規定するが,正義及び被害者救済の観点から悪質な行為に基づく損害賠償請求権を特に免責の対象から除外しようとするその立法趣旨,及びその文言に照らすと,「悪意」とは積極的な害意をいうものと解される。故意とほぼ同義という原告の解釈は採用できない。
 本件の場合,不貞関係が継続した期間は少なくとも約5年にも及び,しかもAの離婚を確認することなく結婚式を挙げたという事情もあるから,不法行為としての悪質性は大きいといえなくもないが,本件における全事情を総合勘案しても,原告に対し直接向けられた被告の加害行為はなく,したがって被告に原告に対する積極的な害意があったと認めることはできないから,その不貞行為が「悪意をもって加えたる不法行為」に該当するということはできない。したがって,被告の不貞行為すなわち不法行為に基づく損害賠償責任は免責されたということになる。