【スポーツ,音楽ライブの画像を公表は著作権違反か規約違反となる】

街中で,大きなスクリーンでスポーツの試合が中継されていました。
通行人が観戦していたので,公表されたものだと思い,録画して動画サイトにアップロードしようと思いました。
これは違法でしょうか。
スポーツのゲーム会場や音楽のライブ会場についてはどうですか。

1 スポーツの放送番組は『著作物』となる
2 スポーツの番組が写り込んだ場合は適法となることもある
3 スポーツ選手によるプレイ内容は著作物ではない
4 サッカーの試合の撮影は『Jリーグ規約』で禁止されている
5 ミュージックライブ会場の撮影→公表は著作権法違反

1 スポーツの放送番組は『著作物』となる

多くの人がその番組(スポーツの試合)が見られるように動画として配信することは,映像制作者の著作権侵害に該当します。

試合自体を作っているのは個々の選手ですが,撮影・編集(キャメラ切り替え,解説を付ける)しているので,『番組』については『映像制作者』の著作物となります。

著作権法上『映画の著作物』に該当します(著作権法2条3項,10条1項9号)。

そこで,この番組,つまり放送されている動画が映っているテレビ・スクリーンなどを撮影して投稿することは,著作権侵害になります。

具体的には,複製権翻案権公衆送信権送信可能化権などを侵害したことになります(著作権法21条,23条1項等)。

2 スポーツの番組が写り込んだ場合は適法となることもある

<事例設定>

街中で,大きなスクリーンでスポーツの試合が中継されていた
通行人やファンが観戦して,声援が大きく,とても盛り上がっていた

この盛り上がりを多くの人に伝えたいと思い,録画して動画サイトにアップロードした

中継番組自体は,著作物ですから,そのまま録画して公表すると著作権侵害となります。
ただ,撮影対象(メイン)が番組(の写っているスクリーン)ではなく,観客,だと違ってきます。
そして,仮に,撮影した映像中に中継番組のスクリーンが含まれていたとしても,絶対的に著作権侵害になるわけではありません。
時間が一瞬だけ,とか,遠くに小さく見える程度,というように,映りこみがごく僅かである場合は,番組を複製(公衆送信)したということにはなりません。
この類型とは異なりますが,同一テーマの裁判例があります(裁判例1)。
毛筆の書について,カタログ写真中に小さく写っていたケースについて,表現の再現として程度が低い,ということを理由に,著作権侵害(複製等)を否定しています。
動画の撮影についても同様に,写り込みの程度が低い場合は,創作的表現を撮影(複製,公衆送信)された,とは言えない,ということです。
このような場合,著作権侵害ではないということになります。

なお,現在では,著作権法上,一定の写り込みを適法とする規定があります。
内容としては,上記裁判例と変わるものではありません。
別項目;軽微な写り込みを適法とする条文ができた

3 スポーツ選手によるプレイ内容は著作物ではない

楽器の奏者が演奏することは,著作権法上の『実演』に該当します(著作権法2条1項3号)。
著作権が生じるということになります。
スポーツのプレイも『実演』という用語に該当する発想もあります。
しかし,スポーツについては,『実演』に該当しないという見解が有力です。
楽器の奏者などの典型的な適用類型との違いは芸術的性質の有無です(文芸美術;著作権法2条1項1号)。
すばらしいプレイ,という意味で『芸術的だ!』と言うことはありますが,これは比喩(暗喩)という意味あいが強いのです。

4 サッカーの試合の撮影は『Jリーグ規約』で禁止されている

<事例設定>

Jリーグの試合を,会場で撮影して,動画サイトにアップロードしたい

スポーツのプレイは著作権法上の『実演』に該当しないため,著作権の対象とはなりません(著作権法2条1項3号)。
ただし,試合会場に入場している時点で,『Jリーグ試合運営管理規程』が適用されます(Jリーグチケットサービス利用規約個別規定:チケット販売16条)。
この規程の中で,営利目的の写真撮影ビデオ撮影,が禁止事項とされています(Jリーグ試合運営管理規程5条10号)。
また,営利目的ではなくても,大会の音声,映像をインターネット等で配信することも禁止されています(Jリーグ試合運営管理規程5条11号)。
結論として,会場から試合内容の動画を撮影し投稿することは,規約違反となります。

5 ミュージックライブ会場の撮影→公表は著作権法違反

歌手,奏者の歌唱,演奏は,まさに著作物です。クリエイティブな行為です。
具体的には『実演』に該当します(著作権法2条1項3号)。
無断で動画を撮影し,配信サイトに投稿することは録音・録画権送信可能化権を侵害します(著作権法91条1項,92条の2第1項)。
さらに,歌唱,演奏のモトとなっている作詞・作曲についても,『実演』とは別に著作権の対象となっています。
作詞・作曲された楽曲については,作者=著作権者,の公衆送信権送信可能化権を侵害することになります(著作権法23条)。
なお,動画サイト運営者と音楽管理事業者の間で,適切な契約が締結されている場合は,当然,侵害とはなりません。

また,ライブ会場に録音・録画機器を持ち込むことや,録音・録画を行うこと自体について,通常は禁止されています。
正確には,イベントの主催者が定めた約款について,入場者はこれを承諾した上でチケットを購入している,ということです。
このように,録音・録画という行為自体が約款違反になります。

条文

[著作権法]
(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二  著作者 著作物を創作する者をいう。
三  実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
四~二十三(略)
2(略)
3  この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。
4~9(略)

(著作物の例示)
第十条  この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一~六(略)
七  映画の著作物
八~九(略)
2~3(略)

(複製権)
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

(公衆送信権等)
第二十三条  著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2  著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

(録音権及び録画権)
第九十一条  実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。
2(略)

(送信可能化権)
第九十二条の二  実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。
2(略)

[Jリーグ試合運営管理規程]
第5条(禁止行為)
施設に入場しようとし、または入場した者は、運営・安全責任者が特に必要と認めた場合を除き、いかなる施設においても次の各号に掲げる行為をしてはならない。
1~9(略)
10 営利目的で競技、式典、観客等の写真撮影またはビデオ撮影をすること。
11 大会の音声、映像の全部または一部をインターネットその他メディアを通じて配信すること。
12(略)

[Jリーグチケットサービス利用規約個別規定:チケット販売]
第16条:(その他)
1.本個別規定に定める条項のほか、第三主催者が定める約款や規定がある場合は当該規定等も適用されます。本個別規定は、両社の事業内容の変更や第三主催者からの要請等により、事前通告なく条項を変更・追加する場合があります。

判例・参考情報

(判例1)
[東京高等裁判所平成11年(ネ)第5641号損害賠償請求控訴事件平成14年2月18日]
本件各カタログ中の本件各作品部分は、上質紙に美麗な印刷でピントのぼけもなく比較的鮮明に写されているとはいえ、前記(1)ウ、エの紙面の大きさの対比から、本件各作品の現物のおおむね五〇分の一程度の大きさに縮小されていると推察されるものであって、「雪月花」、「吉祥」、「遊」の各文字は、縦が約五~八㎜、横が約三~五㎜程度の大きさで再現されているにすぎず、字体、書体や全体の構成は明確に認識することができるものの、墨の濃淡と潤渇等の表現形式までが再現されていると断定することは困難である。
(略)
限定された範囲での再現しかされていない本件各カタログ中の本件各作品部分を一般人が通常の注意力をもって見た場合に、これを通じて、本件各作品が本来有していると考えられる線の美しさと微妙さ、運筆の緩急と抑揚、黒色の冴えと変化、筆の勢いといった美的要素を直接感得することは困難であるといわざるを得ない。
(略)
したがって、本件各カタログ中の本件各作品部分において、本件各作品の書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分が再現されているということはできず、本件各カタログに本件各作品が写された写真を掲載した被控訴人らの行為が、本件各作品の複製に当たるとはいえないというべきである。

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【映画,テレビ番組,ビデオゲームの動画は著作権が認められる】
【街中・風景の撮影→投稿は著作権侵害の例外|屋外設置物・写り込み】

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