1 先物取引|基本・賭博罪成立可能性
2 先物取引×賭博罪|古い見解
3 先物取引×賭博罪|古い判例・事案|薄張・薄敷
4 先物取引×賭博罪|現在の見解
5 純金相場・為替レート連動取引×賭博罪
6 先渡取引×賭博罪

1 先物取引|基本・賭博罪成立可能性

先物取引という種類の取引があります。
『デリバティブ取引』の1つとして分類されます。
本記事では先物取引と賭博罪の抵触について説明します。
まずは先物取引の基本的事項と問題の所在をまとめます。

<先物取引|基本・賭博罪成立可能性>

あ 基本的内容

将来の一定の期日を履行期とする
取引所において行われる売買取引

い 現実的な仕組み

取引時に一定割合を担保(証拠金)として支払う
→履行期には『差額』だけのやり取りが発生する
反対売買による『差金決済』が一般的

う 法的問題点

差金決済を目的とする先物取引
→『偶然の支配による財産の得喪』に該当する可能性がある
=賭博罪が成立する可能性がある

2 先物取引×賭博罪|古い見解

先物取引が賭博罪にあたるかどうかについて,古い判例があります。

<先物取引×賭博罪|古い見解>

あ 売買契約との違いの判断

相場の変動によって金銭の受渡しが行われた
→売買契約としては認められない
→賭博罪が成立する
※大判明治32年11月21日
※大判明治34年6月25日

い その他の古い判例

賭博罪の構成要件に該当する
※大判大正3年10月7日
※大判昭和5年9月26日
※大判大正12年2月22日
※井上豊太郎『投機取引の賭博性に就て』法学新聞1331号p34〜37

3 先物取引×賭博罪|古い判例・事案|薄張・薄敷

先物取引は,古い判例だと『違法』と判断されていました(前記)。
これらの判例のうち,代表的なものについて,具体的内容を紹介します。

<先物取引×賭博罪|古い判例・事案|薄張・薄敷>

あ 事案内容

東京米穀商品取引所の立会相場を売買標準代価とする
保証金の名目で金銭を賭けた
いわゆる『薄張(うすばり)』『薄敷(うすじき)』

い 裁判所の判断

ア ホスト側
賭博開帳図利罪が成立する
※大判大正3年10月7日
イ ゲスト側
常習賭博罪が成立する
※大判昭和5年9月26日

以上の見解は,古いものです。
現在の主流となる見解とは異なります。
現在の見解は次に説明します。

4 先物取引×賭博罪|現在の見解

先物取引と賭博罪の抵触について,現在の主流と言える見解をまとめます。

<先物取引×賭博罪|現在の見解>

あ 現在|主要な見解

適法=賭博罪不成立という判断が主流である

い 現在の判例

ア 主要な判断
委託玉が商品取引員の自己玉と対当する場合
→これを通知する義務を負う
イ 前提|適法性
目的を考慮せずに,取引が適法であることを前提にしている
※最高裁平成21年7月16日

う 現在の見解

先物取引では,対抗的利害関係・相互条件関係を欠く
→賭博罪の構成要件に該当しない
※井上圓『消費者取引と刑事規制』信山社1991年p358

このように『適法』が原則と言えます。
ただし『取引所による取引』が前提と思われます。
逆に『取引所以外での取引』のケースを次に説明します。

5 純金相場・為替レート連動取引×賭博罪

最近でも『相場に連動する取引』について賭博罪が成立したケースがあります。
取引所による一般的な先物取引とは状況が違いました。

<純金相場・為替レート連動取引×賭博罪>

あ ココ・ロンドン金取引|内容

ココ・ロンドン金取引の性格
→金価格・為替レートの変動により金銭の得喪が生じる

い 賭博罪の成否

偶然の事情により財物の得喪が生じる
→刑法上の賭博に関する犯罪が成立する
ア 賭博罪・常習賭博罪
イ 賭博場等解説図利罪

う 裁判所の判断(結論)

不法行為責任を認めた
※京都地裁平成20年8月8日

6 先渡取引×賭博罪

『先渡取引』という種類の取引があります。
『先物取引』の中の特殊な方式,とも言えます。
この取引の内容と賭博罪との抵触・解釈論をまとめます。

<先渡取引×賭博罪>

あ 先渡取引|内容

将来の期日を履行期とする売買契約
履行期に現物と代金の授受を行って決済するのが一般的である
反対方向の売戻し・買戻しにより差金決済とすることも可能である
※山下友信・神田秀樹『金融商品取引法概説』有斐閣2010年p45

い 賭博罪との関係

現物が動く=『差金決済』ではない
→売買の性格が強い
→賭博罪の構成要件に該当しない
※須藤純正『デリバティブと賭博罪の成否(1)法学志林109巻4号』p40