1 学術論文の『不正・ねつ造』が『真実であったため』違法性なしとされた事例
2 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|事案概要
3 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|基本部分
4 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|違法性阻却
5 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|結論

1 学術論文の『不正・ねつ造』が『真実であったため』違法性なしとされた事例

学術論文に不正・ねつ造疑惑に関する『名誉毀損』が問題となったケースを紹介します。
概要は,記者会見において『不正』とされた著者からの責任追及です。
結論としては,公共性・公益目的・真実性のいずれもが認められました。
その結果として,慰謝料請求等は棄却されています。
内容について次に説明します。

2 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|事案概要

<学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|事案の概要>

あ 事案

X(原告)が,Yら(被告)と共同で論文を執筆し,医学雑誌に投稿した
その後,Yらが記者会見を開いて,『Xが論文をねつ造した』などと発表した

い 著者Xの請求(主張)

名誉が毀損された
→慰謝料1000万円を請求する
※大阪地裁平成20年12月26日

3 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|基本部分

<学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|基本部分>

あ 『ねつ造発言』→該当しない

B医学部長は,記者会見において『学部生がねつ造した』旨の発言をした
しかしこれは個人的コメントなので,Y(学校等)の責任対象外である

い 『意図的な不正』の趣旨の発言→名誉毀損に該当する

不正が『意図的である』趣旨の発言
→Xの社会的評価を低下させる(名誉毀損)
→違法性が認められる
=不法行為が成立する

う 名誉毀損に該当する表現内容

『筆頭著者が論文データの重複を一部意図的に行ったことを認めた』
『筆頭著者の実験ノートに実際のデータが欠落していた』
『本件マウス1が当初から存在しなかった可能性が生じている』
※大阪地裁平成20年12月26日

4 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|違法性阻却

この訴訟の請求は民事的な損害賠償ですが,違法性の判断で,名誉毀損罪の規定と同じ枠組みが使われています。
詳しくはこちら|名誉毀損罪(構成要件と公共の利害に関する特例)

<学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|違法性阻却>

あ 公共性→あり

論文は,雑誌に掲載されて,公表されていた
論文は,社会的関心も高く,マスコミで大きく取り上げられた
論文の著者らは,人の生命,身体又は健康を預かる医師や医師になろうとする者等である
→著者の医師としての適正が問われることにもなる

それらの行為を行った者が誰であるかを含めて,公共の利害に関する事実に当たる

い 公益目的→あり

(上記『あ』に加えて)Y1は,記者会見の中で,自らの管理責任を認めて謝罪した

公益を図る目的によってされたものであることは明らかである。

う 真実性→あり

1つの論文の中で,10か所以上にわたり画像が重複使用されている
さらに,それらの画像が次のような手を加えられている
ア 上下左右を反転・逆転させる
イ 画像の縮尺を変更する
ウ コントラストを変える

これらの重複使用は意図的にされたものと認めざるを得ない

Xが論文データの重複を意図的に行った事実が認められる
同旨のY1の記者会見における発表内容は真実であったと認められる
※大阪地裁平成20年12月26日

5 学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|結論

<学術論文『ねつ造』×名誉毀損事件|裁判所の判断|結論>

Yらの各『発言(名誉毀損)行為』には『違法性』がない。
→慰謝料請求は認められない
※大阪地裁平成20年12月26日