【原状回復義務|通常損耗/特別損耗の判断|クロスの張り替え→割合的判断】

1 『通常損耗/特別損耗』の区別は『原状回復義務』の判断に直結する
2 『畳・フローリング張替え』→『通常損耗』となる
3 『タバコのヤニ』→期間・程度により『通常/特別損耗』が分かれる
4 『非常に小さい損傷』→『通常損耗』の傾向
5 原状回復義務|クロスの毀損→張り替える範囲の見解は分かれる
6 原状回復義務|建物の毀損→『元々賃貸人負担とされる相当額』が控除される
7 原状回復義務|建物の毀損|耐用年数×原状回復義務|関係・傾向
8 原状回復義務|建物の毀損|経年劣化の程度×原状回復義務|計算方法

本記事では建物賃貸借における『通常損耗/特別損耗』の区別について説明します。
これが関係する『原状回復義務』についての基本的事項は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|原状回復義務|基本|通常損耗は含まない・特別損耗・契約違反による損傷は含む

1 『通常損耗/特別損耗』の区別は『原状回復義務』の判断に直結する

建物の賃貸借の原状回復義務の内容は単純ではありません。
『通常損耗』は含まれますが『特別損耗』は含まれません。
これは別記事で説明しています(リンクは冒頭記載)。
これを前提として,実務上『通常損耗・特別損耗』の区別・判別がよく問題になります。
判例を元にした判断基準や具体的な判断の例を説明します。

2 『畳・フローリング張替え』→『通常損耗』となる

『畳やフローリング』は,居住する上で必須の根本的な要素です。
これらの経年劣化・自然損耗は当然の想定内です。
賃料によってまかなわれるべきというものの代表例です。
一般的には『通常損耗』として,賃貸人の原状回復義務の範囲外となります。

3 『タバコのヤニ』→期間・程度により『通常/特別損耗』が分かれる

タバコのヤニで壁や天井が汚れることは多いです。
この場合のクリーニングが原状回復義務として賃借人が負うべきかどうかの問題が生じます。
期間と程度によって違ってきます。

<タバコのヤニ・臭い|『通常/特別』損耗の判断>

あ 経年劣化の範囲内→『通常損耗』となる事情

賃貸期間が長く,汚れの程度が軽い
※東京地裁平成19年11月29日
※東京地裁平成19年1月26日

い 経年劣化ではない→『特別損耗』となる事情

短期間でひどく汚れた
※神戸地裁尼崎支部平成21年1月21日

4 『非常に小さい損傷』→『通常損耗』の傾向

例えば『画鋲によって壁に小さな穴が空いている』ということがあります。
厳密に考えると,壁に鋲を打つということは賃借人が意図的に行ったものです。
『経年劣化・自然損耗』には該当しないように思えます。
しかし,仮に鋲を売っていないとしても,クロス貼り替えが必要だった,と言えることもあります。
そこで『損傷』が非常に小さい規模のものであれば『自然損耗』と同じように考えられます。
『クロスの毀損』については次に詳しく説明します。

5 原状回復義務|クロスの毀損→張り替える範囲の見解は分かれる

賃借人の故意,過失により壁や天井のクロスが損傷するケースもあります。
この場合,クロス貼り替えは原状回復義務に含まれるのが原則です。
ここで,原状回復義務は『どの範囲のクロス貼り替えか』という問題が生じます。

<張り替えるクロスの範囲|見解>

あ 毀損箇所を含む『一面』全体

既存部分だけを張り替えると,他の部分との色,模様が異なってしまうため
要するに『ツートン』になってしまう,という配慮である
※伊丹簡裁平成17年2月23日
※国土交通省ガイドライン,再改訂版p20(後述)

い 1平方メートル単位

一般的な市販の壁紙が1メートルの幅とされていることを考慮
※東京簡裁平成14年7月9日
※大阪高裁平成16年7月30日
※神戸地裁平成16年9月9日

う 部屋全体

部屋全体でのクロスの色,模様の統一,を最大限重視した
※春日井簡裁平成9年6月5日

現在の判断の趨勢としては,『あ』が有力です。
ただ,別の見解が取られる可能性も十分にあります。

6 原状回復義務|建物の毀損→『元々賃貸人負担とされる相当額』が控除される

<問題となる具体例>

・壁紙クロスを,賃借人の過失により損壊してしまった
(→壁1面のクロス張り替えが原状回復義務とされている)
・クロス貼り替えの金額は10万円
・入居期間は3年だった

クロスは損壊がなくても元々老朽化していた
→これをどう考慮するのか

このケースでは『原状回復のコスト』の中に『賃借人の毀損』と『経年劣化』が混ざっていると言えます。
というのは,壁紙クロスの常識的な耐用年数は短いのです。
そこで『一定期間ごとに(毀損がなくても)交換を要する』と言えます。
この考え方で,原状回復義務の算定上考慮する方法が主流です。
一方で,耐用年数が比較的長いものは『減価分』の考慮をしないことが多いです。

7 原状回復義務|建物の毀損|耐用年数×原状回復義務|関係・傾向

賃借人が毀損したものの原状回復義務の計算では『耐用年数』が関わります(前述)。
その解釈・計算の方向性をまとめます。

<耐用年数と原状回復義務の算定上の考慮との関係>

あ 耐用年数が比較的短い

原状回復義務算定上,一定割合を控除する方向
例;壁,天井クロス

い 耐用年数が比較的長い

原状回復義務算定上,考慮(控除)しない方向
例;建具,フローリング

8 原状回復義務|建物の毀損|経年劣化の程度×原状回復義務|計算方法

実際に原状回復義務を金額として算定する場合『経年劣化の程度』も影響します。
計算方法をまとめます。

<賃借人による毀損→原状回復と経年劣化の考慮>

原状回復義務の算定上,修繕費用から『経年劣化相当割合を控除』する
『オーナー負担割合』は,会計処理で用いる『法定耐用年数』を流用して算定する
※大阪高裁平成21年6月12日
※千葉地裁平成17年5月19日
※東京地裁平成25年3月28日
※国土交通省ガイドライン,再改訂版p16(後述)

<参考情報>

月報司法書士 14年4月号p32〜38

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