1 目隠し設置義務の規定
2 目隠し設置義務の発想と趣旨
3 民法改正による変更と趣旨
4 窓・縁側・ベランダの判断基準
5 サービスバルコニーの判断事例
6 通路の判断事例
7 目隠し設置義務が否定される慣習の例
8 不明確な調停による2次トラブル誘発事例

1 目隠し設置義務の規定

境界に近い場所に窓があると,お隣を至近距離から見ることができてしまいます。そこで民法上,目隠しの設置が義務付けられています。
まずは,目隠し設置義務の規定の内容をまとめます。

<目隠し設置義務の規定>

あ 規定の内容

窓・縁側・ベランダについて
次の『ア・イ』の両方に該当する場合
→目隠しを設置する義務がある
ア 境界線から1メートル未満の距離にある
イ 他人の宅地を見通すことができる
※民法235条1項

い 例外

その地域の慣習の方が優先される(後記※1)
※民法236条

この規定についての細かい解釈論もあります。後述します。

2 目隠し設置義務の発想と趣旨

目隠し設置義務の解釈(後述)の中で,規定の趣旨が関係してきます。そこで,目隠し設置義務の発想と趣旨をまとめます。

<目隠し設置義務の発想と趣旨>

あ 発想

隣の家から自宅の敷地を眺めることができる場合
→見られることを防ぎたい

い 趣旨(プライバシー保護)

隣地居住者がプライバシー侵害のおそれを感じないようにする
安心して精神的に平穏な生活ができるように保護する

う 趣旨(土地利用者の利益保護)

目隠し設置を義務付けることについて
→隣接地の利用者(設置義務者)に強いる負担として過大である
→一定範囲以外は設置する義務がないことを明確にする
※大阪地裁昭和55年11月17日

目隠しの設置をした側は当然,視界・眺望が悪くなります。眺望の利益の問題と真逆のマターと言えます。
詳しくはこちら|眺望権は権利として認められない|『眺望地役権』設定は有意義

3 民法改正による変更と趣旨

目隠し設置義務は平成16年の民法改正で条文が変わりました。解釈に影響するものです。最初に法改正による変更と趣旨をまとめます。

<民法改正による変更と趣旨(※2)>

あ 改正前の規定

平成16年の民法改正前において
『窓・縁側』だけが規定されていた
『ベランダ』は規定されていなかった

い 改正前の解釈

『縁側』にベランダが含まれる裁判例が支配的であった
※名古屋高裁昭和56年6月16日
※名古屋地裁昭和54年10月15日
※東京地裁平成5年3月5日;前提として

う 法改正

平成16年の民法改正によって
条文上『ベランダ』が含まれることが明示された
当時の建物の構造やその呼称の変化を受けた改正である
実質的な内容に変化はない
※東京地裁平成19年6月18日
※吉田徹『改正民法ハンドブック』ぎょうせいp26

4 窓・縁側・ベランダの判断基準

目隠し設置義務の対象となるのは,条文上『窓・縁側・ベランダ』と規定されています。実際にはこれに近い設備があります。そこで,この解釈論があります。『建物の内部』とその延長がこれに該当するという基準になっています。

<窓・縁側・ベランダの判断基準>

あ 前提事情

ベランダ(など)に該当するかどうかが明確でない設備もある
→次の基準に該当する設備をベランダと同じように扱う

い 判断基準

建物の内部の延長というべき設備である
日常的・恒常的に他人の宅地を見通すことができる
外部に通じる通路ではない
客観的に判断する
※東京地裁平成19年6月18日

実際に『窓・縁側・ベランダ』に該当するかどうかが判断された具体例を以下説明します。

5 サービスバルコニーの判断事例

いわゆるサービスバルコニーについて『ベランダ』に該当すると判断された実例があります。ただし,ごく一般的な『ベランダ』よりも人が立ち入る頻度が低いので,設置すべき目隠しのサイズは小さめで良いと判断されています。

<サービスバルコニーの判断事例>

あ 設備の状態

境界線から1メートル未満の距離に次の設備がある
通路状となっているバルコニーである
『サービスバルコニー』『室外機置場』と呼んでいる
エアコンの室外機置場として利用しているに過ぎない
日常的な利用を予定したものではない
出入口は高さ約150センチメートルの小さいものである

い 設備のサイズ

ア 幅
狭いところは約55センチメートル
広いところは1メートル以上
イ 長さ
3メートルを超える

う 裁判所の判断(『ベランダ』該当性)

一旦バルコニーに立ち入ればそこに滞留できる
共用の通路とは異なる
容易に隣地のマンションの室内を眺望できる
→『ベランダ』に該当する

え 裁判所の判断(設置する目隠しのサイズ)

設置義務の内容について
設置すべき目隠しの大きさはある程度小さいものとした
原告の主張よりも小さめの大きさの範囲で請求を認めた

お 目隠しの具体的内容

ア 目隠しのサイズ
3階のバルコニー
→手すり上部に1メートルの高さの範囲
4階・5階のバルコニー
→バルコニー床面から2メートルの高さの範囲
イ 目隠しの材質
中等の品質の材質をもって足りる
→アルミ形材と同等のもの
※東京地裁平成19年6月18日

6 通路の判断事例

建物の通路は目隠し設置義務の対象ではないと判断されます。

<通路の判断事例>

あ 設備の状態

境界線から1メートル未満の距離に次の設備がある
区分住宅(マンション)の共用の通路である
階段から各戸につながる通路である
各住宅の一部ではない

い 裁判所の判断

独立の通路である
居住空間の延長とみることはできない
通路は『縁側』には該当しない
※大阪地裁昭和55年11月17日

う 補足説明

判決当時は条文に『ベランダ』の規定がなかった
しかし当時も解釈上『ベランダ』は含まれていた
法改正による解釈の変更はないと言える(前記※2)

7 目隠し設置義務が否定される慣習の例

目隠し設置義務については『慣習』が優先されます(前述)。実際に次のような地域では,目隠し設置義務が否定されます。

<目隠し設置義務が否定される慣習の例(※1)>

境界から1メートル以内の窓に目隠しが設置されていない
このような建物が非常に多いエリアについて
→地域の『慣習』と言える
→目隠し設置義務は否定される
ただし,実際にはこのような慣習はあまり存在していない

8 不明確な調停による2次トラブル誘発事例

目隠し設置義務では『具体的な措置』が不明確になりやすい特徴があります。2次トラブルに発展した事例を紹介します。

<不明確な調停による2次トラブル誘発事例>

あ 前提事情

境界から至近距離に,隣家を眺望できる窓があった
目隠し設置を求める調停が申し立てられた

い 成立した調停内容

『目隠しのために曇りガラスを使用する』

う 建物所有者の対応

窓を不透明にするために『フィルムを貼付』した
『曇りガラスへの交換』を拒絶した

え 慰謝料請求訴訟提起

隣家所有者は慰謝料を請求する訴訟を提起した

お 裁判所の判断

ア 結論
慰謝料請求は認めない
イ 理由
成立した調停内容では『特定』が不十分であった(次項目)

か 具体的に特定すべき事項

種類・品質・不透明度の程度
※東京高裁平成16年3月31日

交渉や調停・訴訟では『現実的なガラス・遮蔽物の内容』をしっかり特定すべきです。