固定合意により合意した評価額(証明額)と贈与税評価額が違う場合はどのようにすべきでしょうか。

1 固定合意と贈与税の問題の背景
2 『生前贈与時点の評価額>贈与税株式評価額』という場合→評価通達尊重
3 『生前贈与時点の評価額<贈与税株式評価額』という場合→『真の価値』を用いる
4 『生前贈与時点の評価額<贈与税株式評価額』の場合,暫定的な申告,納税は2通りある

1 固定合意と贈与税の問題の背景

(1)固定合意を利用する場合生前贈与が行われる

中小企業経営承継法における固定合意を利用した場合に贈与税について問題が生じることがあります。
固定合意は,推定相続人間で,例えば,株式の評価額を特定し,固定する制度です。
その上で,生前贈与として,事業主から子などの後継者候補に株式を承継します。
ここで,税務上,贈与税の課税対象となります。
税法上,あくまでも時価を基準とすることになっています(相続税法22条)。

(2)株式の『時価』の評価が画一的に決まらない場合がある

ところで,税務上の評価,というのはある程度類型的,形式的に評価方法が決まっています。
具体的には,相続税・贈与税の評価通達です。
この点,評価通達は万能ではありません。
この通達による贈与税評価額実際の(実質的)価値と乖離していることもあります。
この場合,課税上,見解が分かれるポイントが生じます。

2 『生前贈与時点の評価額>贈与税株式評価額』という場合→評価通達尊重

<事例を元にした評価額のまとめ>

あ 事例設定

贈与税株式評価額=100
生前贈与時点の証明額=200

い 贈与税評価

贈与税申告では,『100』を用いるべき

生前贈与時点の証明額は,あくまでも当事者間限りの取り決めです。
非公開会社の株式は,財産の中でも特に個性が強いものです。
当事者の考え方で,価値評価は変わってきます。
当事者の考え方(価値観)によって,課税上の評価が変わるというのは不合理だと言えます。
『実際の価値は贈与税評価額(評価通達)よりも高い』,と主張した税務署が敗訴した裁判例があります(後掲裁判例1)。
要するに,評価通達を尊重する,というものです。
もちろん,例外はあるでしょうけど,極力評価通達を用いるべき,という判断です。

3 『生前贈与時点の評価額<贈与税株式評価額』という場合→『真の価値』を用いる

<事例を元にした評価額のまとめ>

あ 事例設定

贈与税株式評価額=100
生前贈与時点の証明額=50

い 贈与税評価

贈与税申告は,実際の価値に基づくべき
『50』とすることも『100』とすることも両方考えられる

原則として,贈与税の算定においては,評価通達が用いられるべきです。
しかし,この事例のように証明額がそれよりも低い,ということは,評価通達の算定方法が不合理ということも考えられます。
つまり贈与税評価額が実際の価値(時価)から乖離して『独りよがり』になっているということになります。
仮にこのような状態であれば,法律上,贈与税の算定では評価通達を用いず,実際の(真の)価値を用いるということになっています。

4 『生前贈与時点の評価額<贈与税株式評価額』の場合,暫定的な申告,納税は2通りある

このような評価額の大小関係にある時は,申告の方法は悩ましいです。

理論的には実際の価値時価なのであるから,これが用いられる,という理論はハッキリしています。
しかし,この実際の価値は,自然科学のようにハッキリと算定できるものではありません。
どうしても再現性はイマイチなのです。
評価通達の算定方法を用いない場合は,税務署の判断と異なるリスクを残します。

仮に,事後的に税務署から修正申告を要請された場合,差額を追加納付すれば済む,ということにはなりません。
ペナルティとしての加算税まで余分に払うことになります。

具体例を用いて,具体的対応をまとめます。

<安全策;還付請求方式>

申告→100で行う
その後,更正の請求を行う(=50を主張する)
うまくいけば還付請求ができる(50が還付される)

この方法の場合,『事実上,納税者が価値を100と認めた』という体裁になります。
事後的に『50である』という主張をする上で不利に働くことはないとは断言できません。

<リスクテイカー方式>

申告→50で行う
税務署から修正申告を要請される可能性がある。
その場合,単に差額だけではなく,加算税を課せられるリスクを負う

条文

[相続税法]
(評価の原則)
第22条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

判例・参考情報

(判例1)
[東京地方裁判所平成15年(行ウ)第214号贈与税決定処分取消等請求事件平成17年10月12日]
しかしながら,本件株式のように取引相場のない株式については,その客観的な取引価格を認定することが困難であるところから,通達においてその価格算定方法を定め,画一的な評価をしようというのが評価通達の趣旨であることは前説示のとおりである。そして,本件株式の評価については,評価通達の定めに従い,配当還元方式に基づいてその価額を算定することに特段不合理といえるような事情は存しないことは既に説示したとおりであるにもかかわらず,他により高額の取引事例が存するからといって,その価額を採用するということになれば,評価通達の趣旨を没却することになることは明らかである。したがって,仮に他の取引事例が存在することを理由に,評価通達の定めとは異なる評価をすることが許される場合があり得るとしても,それは,当該取引事例が,取引相場による取引に匹敵する程度の客観性を備えたものである場合等例外的な場合に限られるものというべきである。