有責当事者の離縁請求をめぐる判例の経過|否定の確立と認容例
1 有責当事者の離縁請求をめぐる判例の経過|否定の確立と認容例
裁判で離縁が認められるかどうかは、民法814条1項3号のもとで養親子関係が客観的に破綻しているかどうかで判断されるのが原則です。そのうえで、破綻の原因が自分の側にある当事者から離縁を求めることができるのかという問題が、裁判離縁をめぐる判例の中心的なテーマになりました。
この記事では、有責の当事者からの離縁請求について裁判所がどう動いてきたのかを、最高裁の判決を年代順に追い、認容した下級審の例まで含めて説明します。
有責の当事者からの離縁請求が否認される法理そのものの位置づけ、学説の対立、否認が限定される場面については、別の記事で説明しています。
2 最高裁の裁判離縁の判例=有責当事者の離縁請求否認の態度が確定
有責の当事者からの離縁請求をどう扱うかは、裁判離縁の判例の中心的なテーマになりました。新版注釈民法は、最高裁の裁判離縁に関する判例はすべてこの問題をめぐって展開されたとしたうえで、その到達点を次のように述べています。
有責当事者の離縁請求は許されないとの態度の確定
そしてその態度は、破綻主義の原則に立ちながらも、いわゆる有責当事者の離縁請求は許されないとすることに確定したとみることができる。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p530
(1)最判昭和39年8月4日|有責者から無責者への離縁請求→許されない
有責の当事者からの離縁請求を正面から否定したのは、最高裁昭和39年8月4日の判決です。新版注釈民法は、この判決が、離婚の訴えに関する民法770条1項5号と異ならない法意によるものとして、有責当事者の離縁請求を否認する態度を打ち出したとしています。
引用中の「(→3カb)」は、同書の中の別の箇所を指す相互参照の記号です。以下の引用にも同じ形の記号が出てきます。
有責者が無責者の意思に反して離縁を請求することは許されない
まず前掲の最高裁昭和39年8月4日判決(→3カb)が、「『重大な事由』は、必ずしも当事者双方または一方の有責であることに限られるものではないけれども、有責者が無責者を相手方として、その意思に反して離縁の請求をなすことは許されないものと解するを相当とするのであって、その法意は、離婚の訴に関する同法〔民法〕770条1項5号と異なるところがないのである」と述べて、有責当事者の離縁請求否認の態度を打ち出した。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p530〜531
(2)否認の根拠は判示されず=離婚判例の側に求める問題
もっとも、この判決は、なぜ破綻主義が有責主義によって制約されるのかという根拠については、離婚の規定と法意が同じであると述べるにとどまっています。新版注釈民法は、その根拠を離婚判例の中に求めることが問題として残ったとし、離婚の側では最高裁がその理由をさまざまに説いてきたことを付記しています。
否認の根拠は示されず、離婚判例に求める問題が残った
しかし、破綻主義法理に対する有責主義的制約の根拠については、770条1項5号の法意と同じであると述べるだけで、何も示しておらず、したがって離婚判例にそれを求めることが問題として残った(有責配偶者の離婚請求拒否の根拠は、判例において色々に説かれている。
最判だけでも、昭27・2・19民集6・2・110、昭29・11・5民集8・11・2023、昭29・12・14民集8・12・2143などで、「ふんだりけったり」とか「吾人の道徳観念」とか「離婚権の濫用」とか述べられている)。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p531
(3)最判昭和40年5月21日|有責性のより大きい者からの離縁請求も否定
否認の根拠を言葉にしたのが、最高裁昭和40年5月21日の判決です。この判決は、養親子関係が客観的に破壊された場合には、破壊の原因が解消を望む当事者側にある等「身分法を貫く正義の原則」に著しく反する特段の事情がない限り離縁が認められる、という枠を立てました。
新版注釈民法は、この枠から、無責の相手方に対する離縁請求だけでなく、相対的に有責性の大きい者からの離縁請求も否定されることが明示されたと読み取っています。双方に責任があるときでも、有責性の比較で大きい側は自分から離縁を求められない、ということです。
この判決が何をどう判断したのかは、別の記事で説明しています。
(4)最判昭和59年11月22日|無責の養子が離縁を望まない→養親からの請求は不可
破綻の原因がすべて養親の側にあり、無責の養子が離縁を望んでいない場合について判断したのが、最高裁昭和59年11月22日の判決です。新版注釈民法は、この判決が従来の判例の態度を確認したものだとしています。
無責の養子が離縁を望まないとき、養親から離縁は求められない
さらに、最高裁昭和59年11月22日判決(家月37・8・31)(本判決につき、伊藤昌司「養子縁組の解消と破綻主義」判タ613号〔昭61〕103)も、養親子関係の破綻した原因がすべて養親の側にある場合において、無責者である養子が離縁を望んでいないときは、「たとえ縁組を維持させることが〔養子に〕酷な結果を招来するとしても」養親から離縁を求めることはできないとして、従来の判例の態度を確認した。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p532
(5)最判昭和60年12月20日|有責当事者の離縁請求否認の判例法理を是認
最高裁昭和60年12月20日の判決は、破綻をもたらした主たる責任がどちらにあるとも決め難いとしたものですが、新版注釈民法は、これも有責当事者の離縁請求は認めないという判例法理を是認した上に立つ判決だとしています。
有責当事者の離縁請求を認めない法理を是認した上での判決
また、前述の最高裁昭和60年12月20日判決(→3カd)は、「原審が確定した事実関係のもとにおいては、本件養親子関係の破綻をもたらした主たる責任がX1ら、Yのいずれにあるとも容易に決し難いのであって、少なくとも縁組破綻の責任がもっぱら又は主としてX1らにあるものとすることはできない」(家月38・5・53)と判示しているが、これは、有責当事者の離縁請求は認めないとの判例法理を是認した上に立ってなされた判決である。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p532
(6)新潟地高田支判平成4年5月21日|有責当事者の離縁請求→認容の例
以上の流れの中で、有責の当事者からの離縁請求を認めた下級審の判決があります。新潟地方裁判所高田支部の平成4年5月21日の判決で、新版注釈民法はこれを「大変興味ある判決」として紹介しています。
新版注釈民法によれば、同じ当事者の間で先に起こされた離縁の訴えが、破綻の原因は専ら原告にあるとして棄却され確定した後、約10年6か月を経て、被告の生活が安定し原告が高齢になっているという事情のもとで、離縁の請求が認められたという経過です。
有責当事者の離縁請求を認めた下級審の判決
ところが最近、新潟地裁高田支部は大変興味ある判決(平4・5・21家月45・2・175)を出している。
※中川 善之助・山畠 正男編『新版 注釈民法(24)』有斐閣2010年 11月p532
3 おわりに
最高裁は、昭和39年8月4日の判決で、有責者が無責者を相手方としてその意思に反して離縁を請求することは許されないという態度を打ち出し、昭和40年5月21日の判決で、相対的に有責性の大きい者からの離縁請求も否定されることを明らかにしました。昭和59年11月22日と昭和60年12月20日の判決もこの法理の上に立っており、有責の当事者からの離縁請求は許されないという態度は判例として確定しています。
もっとも、否認の根拠そのものは最高裁が判示しておらず、離婚判例の側に求める問題として残りました。また、新潟地方裁判所高田支部の平成4年5月21日の判決のように、先の訴えが棄却されて確定した後に10年以上を経た事情のもとで、有責の当事者からの離縁請求を認めた例もあります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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