【同時死亡の推定(民法32条の2)(解釈整理ノート)】

1 同時死亡の推定(民法32条の2)(解釈整理ノート)

たとえば大災害で複数人がほぼ同時期に亡くなったが、正確な先後(順序)は分からない、というケースがあります。相続やその他のルールでは、亡くなった順序(時刻)によって結論が違ってきます。そこで民法32条の2に、同時死亡の推定のルールが定められています。本記事では、同時死亡の推定について、その規定といろいろな解釈を整理しました。

2 民法32条の2の条文

民法32条の2の条文

第三十二条の二 数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
※民法32条の2

3 同時死亡の推定の適用範囲

(1)民法32条の2の基本要件

民法32条の2の基本要件

民法32条の2の同時死亡の推定は、数人の死亡者の間でその死亡の先後が明らかでない場合に適用される
共同の危難のケースに限らない(後記)

(2)民法32条の2の適用範囲→限定なし

民法32条の2の適用範囲→限定なし

あ 共同の危難

共同の危難(同一の災害)で複数人が亡くなった場合が典型ケースである

い 同一の危難によらない死亡

例=ほぼ同じ時期に一人は登山で遭難し一人は水泳で溺死したケース

う 場所的に離れている死亡

例=親が内地で病死した日時は明白だが、子がシベリアの抑留所で死亡しその日時が明確でないケース

4 死亡時刻の証明(推定の覆滅)

(1)推定を覆す証明方法・具体例

推定を覆す証明方法・具体例

同時死亡の推定を覆す立証は、死亡の先後について異なる心証を得ることができればよい
年齢、性別、体力の差、泳ぎの巧拙、時計の止まった時刻、救命具の有無、死体発見場所、死体の状態よりの法医学的推定などが判断資料となる
十分明確な反証がない限りこの推定は破られない

(2)戸籍上の死亡時刻の証明力→検案書由来の場合は低い傾向

戸籍上の死亡時刻の証明力→検案書由来の場合は低い傾向

戸籍の死亡時刻記載一応の証明力を持つが、検案書を元にした記載である場合には、戸籍記載の死亡日時分の推定的証明力を否定し、民法32条の2による同時死亡の推定を認め、同時死亡でないことを主張する者が挙証責任を負うという解釈が妥当である

5 同時死亡の効果(具体的な法的扱い)

(1)相続関係→相互にすでに死亡していた扱い

相続関係→相互にすでに死亡していた扱い

あ 相互の相続→なし

同時死亡者相互の間には相続関係は生じない
それぞれ「もう一方は過去に死亡している」扱いとなる

い 代襲相続→あり

親子が同時に死亡した場合、孫があれば孫が代襲相続する
民法887条2項により孫の代襲相続権が明らかになっている

う 遺贈→なし

遺言者と受遺者とが同時死亡の場合、遺贈の効力は生じない(民法994条1項)

(2)相続手続後に死亡の先後が判明→相続回復請求権

相続手続後に死亡の先後が判明→相続回復請求権

同時死亡の推定によって相続がなされた後、死亡の先後が明らかになったときは、相続人は相続回復請求をなすべきである

(3)死亡保険金→受取人がすでに死亡していた扱い

死亡保険金→受取人がすでに死亡していた扱い

あ 生命保険(死亡保険金)の例

夫(父)A(生命保険契約者で被保険者)と妻(母)B(保険金受取人)と子Cが同時死亡の場合、Bの保険金請求権が発生せず、Bの相続人が受取人となると解される

い 簡易生命保険金のルール

受取人に指定された者が同時死亡の場合は、被保険者の遺族が受取人となり、保険金受取人の指定のない場合は一定の順位(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、被保険者死亡当時その扶助で生計を維持していた者、被保険者の生計を維持していた者)で遺族が受取人となる

(4)弔慰金・損害賠償→権利者が先に死亡していた扱い

弔慰金・損害賠償→権利者が先に死亡していた扱い

交通事故等による弔慰金・損害賠償については、同時死亡と推定して(権利者となるべき者が先に死亡していたものとして)、支払を受ける債権者が定められるべきである

(5)相続債務弁済後に死亡の先後が判明→不当利得による処理

相続債務弁済後に死亡の先後が判明→不当利得による処理

同時死亡の推定によって非権利者に弁済した者が免責されて、真の権利者の非債弁済受領者への不当利得返還請求を認めるべきかが問題となるが、弁済者を保護する意味においてこれを肯定すべきである
同時死亡の推定による権利者としての受領者は善意の推定を受け、現存利益を返還すればよい(民法703条)

6 参考情報

参考情報

谷口知平・湯浅道男稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p491〜494

本記事では、同時死亡の推定について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【成年後見人報酬金額の実態と相場分析(裁判所基準と実務運用)】
【遺産評価の基準時は遺産分割・特別受益・寄与分で異なる(実務上の問題・実例)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00