【被保佐人が不動産の賃貸借をする場合の制限(保佐人の同意の要否・民法13条)】

1 被保佐人が不動産の賃貸借をする場合の制限(保佐人の同意の要否・民法13条)

被保佐人は、判断能力が低いため、一定の重要な行為については、単独で完全に有効な契約(取消をされることがない契約)を締結することができません。行為能力が制限されている、といいます。
その制限の中に、不動産の賃貸借(貸すこと)があります。本記事では、被保佐人が不動産の賃貸借をする場合の制限について説明します。

2 民法13条1項の条文

被保佐人が制限されている行為は10項目ありますが、このリストは、民法13条1項に挙げられています。その中で不動産の賃貸借に関係あるものだけを確認しておきます。

民法13条1項の条文

(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
・・・
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
・・・
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
※民法13条1項

3 不動産賃貸借の扱い→長期は同意必要・短期は同意不要

(1)新注釈民法→1号=原則・9号=例外

このテーマに関して、まず新注釈民法の説明を紹介します。
賃貸借をすることについてはまず、1号の元本の利用にあたるので、同意必要になっています。ただしこれは原則であって、その例外が9号です。9号は、民法602条に定めてある期間を超えない賃貸借(短期賃貸借)であれば例外的に同意不要(取消ができない)とする、という規定です。
なお、この説明の中で「管理行為の範囲にとどまる」ということが理由として出てきていますが、もともと「管理行為イコール同意不要」という枠組みはありません。「要同意行為リスト」は、単に政策的に行為能力を制限した方がよい(ほどの重要性がある)行為をリストとして作った(指定した)というものであって、「管理」「変更」「処分」の分類(該当性)と直接結びつかないと思います。

新注釈民法→1号=原則・9号=例外

あ 1号=原則・賃貸は同意必要

(注・1号について)
元本の利用とは、利息付消費貸借による金銭の貸付け、不動産の賃貸等のように、法定果実の取得を目的とする行為をいう。
ただし、不動産の賃貸は9号に定めがある。
※小賀野晶一稿/山野目章夫編『新注釈民法(1)』有斐閣2018年p523、524

い 9号=短期賃貸借は例外的に同意不要

短期賃貸借(602条)に定める期間を超えない短期の賃貸借であれば、管理行為の範囲にとどまるので保佐人の同意を要しないと解されている。
※小賀野晶一稿/山野目章夫編『新注釈民法(1)』有斐閣2018年p526

(2)新版注釈民法(民法13条)→3号(+1号)=原則・9号=例外

次に新版注釈民法の説明を紹介します。ちなみに、現在の民法13条は、この文献の出版時点では民法12条でしたが、不動産の賃貸借に関する条文(号)の内容に違いはありません。
不動産の賃貸借契約は3号の「不動産・・・に関する権利の得喪を目的とする行為」や、1号(前述)にあたる(同意必要となる)可能性がある、と指摘しています。その上で、9号の反対解釈で、民法602条に定めてある期間の範囲内であれば例外的に同意不要となる、という解釈が示されています。
なお、その理由として、民法602条に「処分の能力を有しない者」(制限行為能力者)が書いてある、ということが指摘されています。しかし、平成27年改正で、民法602条からこの文言は削除されています。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)
ただ、このことを考えなくても、単純に9号の反対解釈という理由でこの解釈に至るので問題はない(現在でもこの解釈は生きている)といえます。

新版注釈民法(民法13条)→3号(+1号)=原則・9号=例外

あ 3号=原則・賃貸は同意必要

また、売買・担保権設定・賃貸借(この場合には、12I9(注・当時の12条は現在の13条である)と複合適用される場合もあろう)は、本号(注・3号)の適用対象でありうる、といえよう。
※鈴木禄弥稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p359

い 9号反対解釈=短期賃貸借は例外的に同意不要

(注・9号について)
賃貸借をすることは、賃料取得のための元本利用として本条1項1号に該当し、また、目的物が重要な財産であれば、その権利の得喪として本条1項3号に該当する、といえなくはない。
ただ、602条所定の期間内の賃貸借(いわゆる短期賃貸借)は、処分の能力を有しない者もそれをなしうるとされているから(注・現在は削除されている)、本項9号の反対解釈として、かかる賃貸借は、保佐人の同意がなくとも、被保佐人はこれを取り消しえないものとして締結することができる、と解すべきであろう。
※鈴木禄弥稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p361

(3)新版注釈民法(民法864条)→1号=原則・9号=例外

さらに、新版注釈民法の民法864条の説明の箇所でも、民法13条の解釈が出てきます。なぜ出てくるのか、については後述します(後記※1)。
民法13条の解釈の内容は以上のものと同じです。

新版注釈民法(民法864条)→1号=原則・9号=例外

あ 1号=原則・賃貸は同意必要

(注・民法13条1項について)
元本の利用とは、不動産の賃貸・利息付消費貸借のごとく、法定果実の取得を目的とした行為をなすことである。
元本の利用は、後見監督人の同意を必要とする・・・
※中川淳稿/於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年p443

い 9号=短期賃貸借は例外的に同意不要

602条所定の期間とは、樹木の栽植・伐採を目的とする山林については10年、その他の土地については5年、建物については3年、動産については6カ月である。
この期間を超えない賃貸借については、後見監督人の同意が必要でない
(2)で述べた元本の利用行為例外である。
※中川淳稿/於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年p445、446

4 借地借家法(法定更新)適用による長期扱い

(1)新版注釈民法→借地借家法適用による長期扱い

以上のように、被保佐人であっても、短期賃貸借(民法602条の期間の範囲内)については、同意不要となる、つまり、後から取り消されないものとして契約できる、ということになります。
ここで、借地借家法(の法定更新)が適用される賃貸借についてはどうでしょうか。たとえば期間2年の建物賃貸借は、(賃借人から終了させない限り)法定更新によって現実には3年どころか延々と契約が続きます。また借地契約(建物所有目的の土地の賃貸借)は、原則として最低30年(法定存続期間)となります。
そこで借地借家法(の法定更新)が適用される場合には、一律に長期扱い、つまり、同意必要とする見解があります。

新版注釈民法→借地借家法適用による長期扱い

・・・期間の定めがない賃貸借や、一応は602条所定の期間を超えない賃貸借であっても、借地借家法(借地借家3・6・26・28)の適用によって賃貸借の継続が保障されている場合には、かかる賃貸借を賃貸人として締結するためには、被保佐人は、やはり、保佐人の同意を要する、と解すべきである。
(注・借地借家法3条=借地の存続期間、6条=借地の更新拒絶の要件、26条=借家の法定更新、28条=借家の更新拒絶の要件)
※鈴木禄弥稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p361

(2)他の規定における借地借家法適用の影響(概要)

ところで、賃貸借の長期、短期の判別で、借地借家法の適用がどう影響するか、という問題は保佐人に関する民法13とは別の規定でも登場します。
共有に関する民法252条4項、処分権限をもたない(管理権限だけもつ)者に関する民法602条、強制管理の管理人に関する民事執行法95条、以前の短期賃貸借保護制度に関する平成15年改正前民法395条などです。
これらでは、前述の共有とは別の解釈がとられるものもあります。たとえば、民法602条に関しては、借地契約の最低期間30年のルールが適用されず、5年間の借地契約として有効となる、などです。別の記事で、他の規定も含めて横断的に比較しつつ説明しています。
詳しくはこちら|「管理」権限者による賃貸借・用益物権設定の範囲(共有者・各種管理人・被保佐人など横断的まとめ)

5 後見監督人がいる場合の後見人への適用

以上は民法13条についての解釈の説明でしたが、民法13条は保佐人とは関係ない局面でも使われます。たとえば、後見監督人がいる場合の後見人についても、民法864条が民法13条のリストを使っています。以上で説明した解釈はそのままあてはまります。

後見監督人がいる場合の後見人への適用(※1)

(後見監督人の同意を要する行為)
第八百六十四条 後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない。
※民法864条

本記事では、被保佐人が不動産の賃貸借をする場合の制限について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に法的な制限のある者が関与した、など、不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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