1 信託財産となる財産の3要件と具体例(権利・無体物・情報)
2 信託法の改正による財産『権』の文字の削除
3 信託財産とすることができる財産の3要件
4 積極財産性の要件
5 処分・移転可能性の要件
6 信託財産となる財産の種類
7 情報の信託財産としての扱い

1 信託財産となる財産の3要件と具体例(権利・無体物・情報)

信託によって受託者が受け取って管理する財産を信託財産といいます。信託財産にできる財産には一定の限度があります。
本記事では,信託財産とすることができる財産の内容を説明します。

2 信託法の改正による財産『権』の文字の削除

信託法には,信託財産とすることができる財産が何かを定める規定はありません。この点,以前の信託法では『財産権』と表記されていたので,権利だけが対象となると考えられるものでした。しかし法改正によって,現在は『財産』という表記に変更されています。つまり『権』が削除されたのです。そこで,権利に限定されないということが分かります。

<信託法の改正による財産『権』の文字の削除>

あ 法改正による変化

信託法の中の信託財産の定義について
旧信託法では『財産権』と表記されていた
→法改正で『権』が削除された(『財産』に直された)
※信託法2条3項

い 権利という限定の否定

権利とまではいえなくても,金銭的価値に見積り得るものすべてが含まれていることを意味する
※田中和明著『詳解 信託法務』清文社2010年p47

3 信託財産とすることができる財産の3要件

信託財産となることができる財産の種類については,今でも信託法で定められていません。信託の性質を元にした解釈によって,3つの要件に整理できます。
金銭に換算できる(金銭的価値がある)積極財産であり,処分や移転が可能なものという要件です。

<信託財産とすることができる財産の3要件>

あ 金銭換算性

信託の対象となるのは財産である
→金銭に見積もることができるものでなければならない

い 積極財産性

積極財産でなければならない(後記※1)

う 処分・移転可能性

委託者から移転または分離可能なものでなければならない(後記※2)
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p30
※神田秀樹ほか著『信託法講義』弘文堂2014年p34

4 積極財産性の要件

前記のように,信託財産積極財産である必要があります。
この点,事業そのものは,積極財産と消極財産の集合です。そこで事業をそのまま信託財産とすることはできません。
ただし,積極財産だけを信託(移転)して,これとは別に消極財産の債務引受をするという組み合わせによって,結果的に事業の信託といえる状況を実現することはできます。

<積極財産性の要件(※1)>

あ 積極財産性(基本)

信託財産は積極財産でなければならない

い 事業そのものの信託(否定)

事業について
積極財産と消極財産(債務)の集合体として運営されている
→信託することはできない
※神田秀樹ほか著『信託法講義』弘文堂2014年p34

う 事業の信託と同じ状態の実現方法

信託の設定時において
信託行為の定めをもって,事業の積極財産を信託する
さらに,事業の消極財産について受託者が債務引受をする
→委託者の負担する債務を信託財産責任負担債務にすることができる
※信託法21条1項3号
→この組み合わせによって実質的に事業の信託をした場合と同様の状態となる
※神田秀樹ほか著『信託法講義』弘文堂2014年p34,35

5 処分・移転可能性の要件

信託財産にできる財産は処分や移転が可能な財産でなくてはなりません。もともと信託財産受託者が管理・処分する財産なので,このような制約が生まれるのです。

<処分・移転可能性の要件(※2)>

あ 処分・移転可能性(基本)

信託財産は処分・移転が可能でなければならない

い 信託事務執行による帰属

信託設定後の信託事務執行により,移転できない権利が信託に帰属することはありえる
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p30,31

6 信託財産となる財産の種類

以上のように,信託財産になることができる財産には3つの要件があります。
実際に信託財産になる財産の典型例は,金銭を含む動産,不動産,権利です。ただし,人格権や身分に関する権利は原則的に信託財産にはなりません。

<信託財産となる財産の種類>

あ 典型的な信託財産(有体物)

金銭,不動産,有価証券

い 無体物(含む)

物理的に形のないもの(無体物)でも信託財産になる
例=著作権,特許権,特許を受ける権利,鉱業権など

う 情報(含む)

情報も信託財産となることがある(後記※3)

え 身分権(人格権)(含まない)

人格権などの身分権は信託することができない
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p30
※神田秀樹ほか著『信託法講義』弘文堂2014年p34

お 人格権(信託事務執行による帰属)

信託設定後の信託事務執行により,人格権が信託に帰属することはありえる
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p30,31

7 情報の信託財産としての扱い

情報も,金銭的価値があるものであれば信託財産となることがあります。営業(利益)につながる情報が典型的です。

<情報の信託財産としての扱い(※3)>

あ 当初の信託設定時(可能)

排他的管理が可能であり,一般的に金銭的価値が認められるものであれば情報を当初の信託財産として信託を設定することも可能であろう

い 信託財産とする情報の具体例

仕入れ・販売ルートに関する情報,製造のノウハウなど

う 信託事務執行による帰属

信託設定後に,受託者が信託事務執行の過程で得た情報について
信託財産に属する財産である

え 信託財産に属する情報の処分

信託財産に属する情報が存在する場合
→受託者はこの情報を処分することができる
→この処分による利益は信託財産に属する
具体例=情報を第三者に売却して得た代金
※信託法16条1号
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p33

お 制限的な見解

情報のうち,一部の限られた関係者だけが金銭的価値を見出しているものは含まないと考える
単独で一般的に売買できない情報は信託財産ではないと解する
※田中和明著『詳解 信託法務』清文社2010年p48

本記事では,信託財産となる財産の種類や内容を説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証の方法によって結論が変わってくることがあります。
実際に信託財産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。