【信託の変更の内容の制限(信託内容を変更できる限界)】

1 信託の変更の内容の制限(信託内容を変更できる限界)
2 信託の目的の変更の可否(肯定)
3 委託者・受託者・受益者の変更の可否(肯定)
4 信託財産の追加信託の可否(肯定方向)
5 限定責任信託の新設・廃止の可否(肯定)
6 受益証券発行・目的信託の定めの変更の可否(否定)

1 信託の変更の内容の制限(信託内容を変更できる限界)

信託契約は,作成・調印した後に内容を変更することが可能です。
詳しくはこちら|信託の変更の基本(信託内容を変更できる要件のバリエーション)
信託の内容の変更については,一定の限界(制限)があります。
本記事では,信託の変更の制限について説明します。

2 信託の目的の変更の可否(肯定)

信託の目的は,信託契約の根本的なものです。そのため,原則として委託者の同意が必要となります。

<信託の目的の変更の可否(肯定)>

あ 信託の目的の変更の可否自体

信託の目的は信託の内容の1つである
信託の目的を変更することは可能である
※信託法103条1項1号参照

い 委託者の同意の必要性

信託の目的の変更信託の目的に反する
委託者の同意を得ずに変更することはできない
信託行為の別段の定めによって委託者の同意を不要とすることができる
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p639,640

3 委託者・受託者・受益者の変更の可否(肯定)

信託の3つの立場の者(当事者)を変更することは可能です。
ただし,この場合,法律的には信託の変更の規定は適用されません。委託者・受託者・受益者の3者それぞれについて,人を変更することに関する規定があります。こちらが優先的に適用されるのです。

<委託者・受託者・受益者の変更の可否(肯定)>

あ 当事者の地位の変更の規定

委託者・受託者・受益者の変更とは
その地位の移転である
→信託法に規定がある
(委託者→146条,受託者→56条〜,受益者→89条)

い 地位の移転の規定の優先扱い

信託の変更ではなく,地位の移転の規定(あ)によるべきである
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p640

4 信託財産の追加信託の可否(肯定方向)

信託財産を後から追加するということも可能です。
ただし,信託の目的と合致しないものは変更として認められないこともありえます。

<信託財産の追加信託の可否(肯定方向)>

あ 追加信託の意味

当初予定されていなかった信託財産を追加信託すること

い 信託の変更の該当性(肯定方向)

追加信託は信託の重要な要素の変更である
信託の変更にあたる可能性がある

う 否定方向の見解

信託財産が,信託の目的との関係でどのように位置づけられているかにより,追加信託が信託の変更にあたるかどうかが決定されるという指摘もある
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p640

5 限定責任信託の新設・廃止の可否(肯定)

信託の設定の1つとして限定責任信託があります。
詳しくはこちら|限定責任信託の要件(手続)と効果(不法行為責任への適用除外)
信託契約の成立後に,この規定を新たに設定することや廃止することは可能です。
ただし,新たに設定した場合にも,設定前(責任限定なしの時期)に取引した者には責任限定は適用されません。

<限定責任信託の新設・廃止の可否(肯定)>

あ 限定責任信託の廃止の可否

限定責任信託の定めを廃止すること
→可能である
※信託法221条参照

い 限定責任信託の新設の可否

限定責任信託の定めを新設すること
→明文の規定はない
→一般原則により可能である
ただし,変更前の債権者に対して責任限定を主張できない
※信託法219条,220条参照
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p640

6 受益証券発行・目的信託の定めの変更の可否(否定)

信託の特殊な方法(種類)として,受益証券発行信託目的信託があります。
これらは,信託の当初から一貫していることが要求されます。そこで,信託契約の成立後に新設や廃止することはできません。

<受益証券発行・目的信託の定めの変更の可否(否定)>

あ 受益証券発行信託の定めの新設・廃止

受益証券発行信託の定めを新設or廃止すること
→禁止されている
※信託法185条3項,4項

い 目的信託の新設・廃止

目的信託の定めを新設or廃止すること
→禁止されている
※信託法258条2項,3項

本記事では,信託の変更の制限について説明しました。
実際には,信託契約の設計の段階で,いろいろな状況変化を見越して変更に関する規定をしっかりと作っておかないと,後で思うように変更できずに困ることになります。
実際に信託契約の利用をお考えの方や,既に作成した信託に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【信託の変更の基本(信託内容を変更できる要件のバリエーション)】
【複数の受益者の意思決定(原則は全員一致・特段の定めによる多数決など)】

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