1 成年後見・保佐・補助×判断能力|基準は段階的
2 後見・保佐・補助開始の審判|鑑定実施の有無は裁量による
3 後見・保佐・補助開始の審判|それぞれの鑑定実施の傾向
4 鑑定費用の相場は10万円が目安
5 鑑定費用の納付者は申立人
6 鑑定費用の最終的負担者は被後見人
7 成年後見など×鑑定実施に関する統計|利用しやすくなった

1 成年後見・保佐・補助×判断能力|基準は段階的

本人の判断能力が低下している場合に,成年後見,保佐,補助の制度を用います。
行為能力を制限することによって,法律行為の効果を否定し,本人を保護する趣旨の制度です。
それぞれの制度における意思能力低下の程度の基準は別に説明しています。
別項目;意思能力;行為能力;基本,2重効

次に,家庭裁判所が,本人の判断能力の低下の程度を審査するプロセスについて説明します。

2 後見・保佐・補助開始の審判|鑑定実施の有無は裁量による

家庭裁判所におけるそれぞれの審判では,本人の判断能力の低下の程度を審理,判断します。
申立の段階で,医師の診断書が必要とされます。
例えば本人の判断能力が低下していて『後見相当』という内容が診断書に記載されるのが通常です。
家事審判の一般的な扱いとして,裁判所は,判断に必要な範囲で『鑑定』を実施します。
後見人選任の申立に関しては,医師に判断を発注する,ということになります。
つまり,申立時に提出した診断書を作成した医師とは別に,改めてご本人の判断能力についての判断を行う,ということになります。
この点『診断書』と『鑑定』で判断が重複することになります。
結局は『鑑定』を行うか,省略するかは,担当の裁判官(審判官)の裁量,ということになります。

3 後見・保佐・補助開始の審判|それぞれの鑑定実施の傾向

実務上,鑑定を実施するかどうかは,ある程度の傾向があります。
理由を含めてまとめます。

<鑑定実施の傾向・理由>

あ 後見開始

傾向=実施しない
理由=判断能力ゼロ(に近い)という基準がハッキリしているから
→医師によってあまり判断は変わらない

い 保佐開始

傾向=実施する
理由=判断能力が『著しく不十分』という基準が曖昧だから
→医師によって判断が微妙に異なる可能性もある

う 補助開始

傾向=実施しない
理由=本人が同意しているから
※民法17条1項,2項
→本人の自由裁量(処分権)を尊重

<違いを生じる背景>

・いずれも,申立時に診断書の提出がなされている
・『判断のハードルの高さ』に違いがある
・『本人の関与の程度』に違いがある

4 鑑定費用の相場は10万円が目安

成年後見(保佐,補助)の審判で,裁判所が鑑定を行う場合の費用は10万円前後が多いです。
逆に,特に関係者間で主張が熾烈に食い違っており,より詳細な判断を求める,というような特殊事情があれば,鑑定の費用は通常よりも高額になりましょう。

5 鑑定費用の納付者は申立人

当然ですが,鑑定が実施される場合,医師が料金を受領します。
鑑定の費用(=鑑定料)は,裁判所が立替えてくれるわけではありません。
申立人が予納金として裁判所に納付します。

6 鑑定費用の最終的負担者は被後見人

本質的に考えると,後見(保佐,補助)開始の審判は,本人(被後見人)のためです。
判断能力が不十分な状態で,一定の取引を行う,とか,不利な取引をしてしまうことを避ける,というものです。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
一方,申立人は言わばきっかけです。
便宜的に鑑定費用を出す人がいないので,申立人が負担しますが,本来的な主人公は本人(被後見人)です。
このように,形式的な当事者と実質的な当事者がズレているのがポイントです。

申立に関する費用は,最終的には実質的な当事者(主人公)である被後見人が負担するのが合理的です。
そこで,申立手続費用の負担を命じる上申(書)という方法があります。
裁判所に要請すると,裁判所が必要な範囲で被後見人の負担を命じてくれます(非訟事件手続法28条)。
つまり,申立人が立て替えた鑑定費用を被相続人の財産から返してもらえる,ということです。

7 成年後見など×鑑定実施に関する統計|利用しやすくなった

鑑定実施に関する統計上のデータをまとめます。
全体を通して『利用しやすい』方向性・傾向が読み取れます。

<成年後見・保佐・補助×鑑定実施に関する統計>

あ 鑑定の期間

『1か月以内』の件数割合

平成13年度 39.4%
平成22年度 53.8%
平成26年度 55.7%

→短縮・短期化の傾向と言える

い 鑑定の費用

『5万円以下』の件数割合

平成13年度 30.0%
平成22年度 66.9%
平成26年度 63.0%

→低額化の傾向と言える

う 鑑定実施率
平成19年度 37%
平成22年度 17.7%
平成26年度 10.8%
え 統計のまとめ

成年後見の制度が使いやすくなりつつある
※最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況』