1 自筆証書遺言における『日付』の規定と趣旨
2 日付の自書を欠くことによる無効の具体例
3 日付の記載の具体例と記載場所
4 年月日以外での日時特定と『日付』該当性
5 『日』を欠く→『日付』に該当しない
6 『吉日』→『日付』に該当しない
7 日付の誤記と有効性判断基準
8 日付の漢数字の誤記と有効性判断事例
9 日付の余分な漢数字と有効性判断事例
10 元号の誤記と有効性判断事例
11 元号の書き忘れと有効性判断事例
12 遺言作成の際の『日付』の注意点(概要)

1 自筆証書遺言における『日付』の規定と趣旨

自筆証書遺言では厳格な方式が決められています。
詳しくはこちら|自筆証書遺言の方式・要式性(全体・趣旨・有効性判断の方針)
方式のうち1つが『日付』です。実際に『日付』に該当するかどうかで見解が対立するケースは多いです。
まずは『日付』の基本的事項についてまとめます。

<自筆証書遺言における『日付』の規定と趣旨>

あ 規定

自筆証書遺言の記載について
→『日付』を自書することが要件となっている
※民法968条1項

い 趣旨(概要)

遺言者の死後は遺言者自身に確認ができなくなる
→全文の自書は,遺言者の意思の検証につながる
詳しくはこちら|自筆証書遺言の方式・要式性(全体・趣旨・有効性判断の方針)
撤回・変更の順序→遺言の有効性の判断にもつながる
詳しくはこちら|遺言の変更・撤回・書き換え|遺言の破棄・目的財産の破棄

2 日付の自書を欠くことによる無効の具体例

日付の自書は形式的なルールです。
しかし,これに違反があると遺言全体が無効になることがあります。

<日付の自書を欠くことによる無効の具体例>

あ 日付の記載がない例

自筆証書遺言に『日付』の記載がない場合
→遺言は無効となる

い 日付が自書ではない例

日付印を用いて日付を表示した場合
→『自書』に該当しない
→遺言は無効となる
※通説
※太田武男『現代の遺言問題』有斐閣1979年p83

3 日付の記載の具体例と記載場所

日付の記載の具体例を紹介します。
また,通常は遺言の内容の最後に日付や氏名を記載し押印もします。
ただし,日付の記載場所は決められていません。
本文中の日付の記載により,無効となることを避けられたケースもあります。

<日付の記載の具体例と記載場所>

あ 一般的な日付の記載方法

『平成29年9月9日』
『2017年9月9日』
※中川善之助『注釈相続法(下)』有斐閣1955年p39参照;西暦について

い 最低限の記載

『年』『月』『日』という文字を必要とする規定はない
『平成29.9.9』という記載について
→有効と思われる

う 日付の記載場所

日付の記載の場所は定められていない
末尾が普通である
本文中でも有効である
※中川善之助『注釈相続法(下)』有斐閣1955年p38
※太田武男『現代の遺言問題』有斐閣1979年p83

4 年月日以外での日時特定と『日付』該当性

自筆証書遺言には通常,『年月日』で日付を記載します(前記)。この点『年月日』以外の表現で作成時点を記載するケースもあります。このようなケースでの判断についてまとめます。

<年月日以外での日時特定と『日付』該当性>

あ 年月日以外での日付特定の例

『(私の)80歳の誕生日』『第80回誕生日』
『還暦の日』
『(私の)定年退職の日』
※中川善之助『注釈相続法(下)』有斐閣1955年p38
※青山道夫『改訂 家族法論2』法律文化社1980年p9

い 『日付』該当性

特定の年月日であることが明確である場合
→『日付』として認める傾向である
特定できない場合は遺言が無効となる

う 日付の特定性判断の例

遺言者が,過去に複数の会社に勤務していた
→『定年退職日』が複数存在する
→『定年退職日』では日付が特定できない

5 『日』を欠く→『日付』に該当しない

遺言の日付の記載として『日』が欠けているケースがありました。判例は『日付』として認めていません。

<『日』を欠く→『日付』に該当しない>

あ 事案

遺言に『年月』は記載されていた
『日』が欠けていた
例;『平成28年10月』

い 裁判所の判断

『日付』に該当しない
→遺言を無効とした
※最高裁昭和52年11月29日

6 『吉日』→『日付』に該当しない

遺言というのは感慨深い気持ちを伴うのが通常です。そこで,日付として『平成28年10月吉日』のようなスタイルにする発想があります。判例ではこの表記を『日付』として認めていません。

<『吉日』→『日付』に該当しない>

あ 事案

遺言に『昭和四拾壱年七月吉日』と記載されていた

い 裁判所の判断

『日付』に該当しない
→遺言を無効とした
※最高裁昭和54年5月31日

7 日付の誤記と有効性判断基準

遺言の日付は,慎重に,正確に記載することが望ましいです。しかし,誤記が生じるケースもたまにあります。日付に誤記があっても,遺言が無効となるとは限りません。
日付の誤記についての遺言の有効性の判断基準をまとめます。

<日付の誤記と有効性判断基準(※1)>

あ 日付の誤記

遺言に記載された日付が真実の作成日と相違する

い 有効となる条件

『ア・イ』の両方が容易に判明する場合
→遺言を無効にするものではない
遺言証書の記載その他から判断する
ア 誤記であること
イ 真実の作成日
※最高裁昭和52年11月21日

この基準を前提に判断した具体的事例を,次に説明します。

8 日付の漢数字の誤記と有効性判断事例

遺言の日付の漢数字に誤記があったケースを紹介します。最高裁は,前記の基準に個別事情を当てはめ,有効と判断しました。

<日付の漢数字の誤記と有効性判断事例>

あ 事案

記載された文字=『昭和二十八年』
真実の作成時期=『昭和四十八年』

い 裁判所の判断

有効となる条件(前記※1)に該当する
→遺言は有効である
※最高裁昭和52年11月21日

9 日付の余分な漢数字と有効性判断事例

日付の誤記ではありますが,前記の事例とは少し違うものもあります。
余分な漢数字『拾』を書いてしまい,正しい日付の記載とはいえない記載だった事例です。
結果的に有効と判断されています。

<日付の余分な漢数字と有効性判断事例>

あ 事案

記載された文字=『昭和五拾四拾年』
真実の作成時期=『昭和五拾四年』(昭和54年)

い 裁判所の判断

明らかな誤記である
→遺言は有効である
※東京地裁平成3年9月13日

10 元号の誤記と有効性判断事例

遺言の日付の元号に誤記があったケースを紹介します。元号が違うと示す時期が数十年単位で異なります。明らかに誤記であったと判明します。一般的に無効とはならない傾向が強いです。

<元号の誤記と有効性判断事例>

あ 事案

記載された文字=『正和』
真実の作成時期=『昭和』

い 判断の傾向

有効となる条件(前記※1)に該当する
→遺言は有効である
※大阪高裁昭和60年12月11日
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/『判例タイムズ1194号』p52;同趣旨

11 元号の書き忘れと有効性判断事例

元号についてミスがあった別の事例があります。
これは,元号自体を記載しなかったというものです。
結果的に有効と判断されました。

<元号の書き忘れと有効性判断事例>

あ 事案

記載された日付=『四〇年八月四日』
真実の作成日=明治40年8月4日

い 裁判所の判断

容易に日付を特定できる
→遺言は有効である
※大判大正4年7月3日
※成毛鐵二『遺言 解説と文例書式 改訂増補』日本加除出版1993年p283

12 遺言作成の際の『日付』の注意点(概要)

以上は,遺言の日付についての純粋な解釈論の説明でした。
実際に遺言を作成する際は,解釈の問題が生じないように工夫することが望ましいです。

<遺言作成の際の『日付』の注意点(概要)>

あ 不完全による紛争発生

遺言の『日付』が確実なものでない場合
→以上のような『日付』の解釈の紛争につながる
例;『日付』を欠くため無効であるという主張で裁判となる

い 遺言作成の際の注意(概要)

遺言作成の際は確実・万全に方式に適合させることが好ましい
詳しくはこちら|遺言作成や書き換えの際の注意・将来の紛争予防の工夫