【遺言の実質的内容×有効性|公序良俗違反・判断要素・判例|正妻vs婚外交際】

1 遺言の実質判断|理論的構成
2 遺言の実質判断|公序良俗・判断要素
3 遺言の実質判断|婚外交際維持目的→無効
4 遺言の実質判断|婚外交際→無効
5 遺言の実質判断|婚姻破綻後の婚外交際→有効
6 遺言の実質判断|婚外交際相手への包括遺贈→有効

1 遺言の実質判断|理論的構成

一般的に遺言の有効性が争われるのは『形式面』が多いです。
これについては別記事で詳しく説明しています(リンクは末尾に表示)。
一方で『遺言の内容・実質面』が理由で『無効』と判断されるケースもあります。
まずは遺言の実質面の判断の理論的な部分をまとめておきます。

<遺言の実質判断|理論的構成>

あ 実質面による無効判断(概要)

遺言の内容・実質面が『公序良俗に反する』場合
→無効とする
※民法90条
詳しくはこちら|遺言への民法総則(意思表示の瑕疵)の適用と実益・ハードル

い 形式面は関係ない

形式的な有効性とは完全に別の判断である

2 遺言の実質判断|公序良俗・判断要素

実際に遺言の内容・実質面による有効性判断では『婚外の交際』が関係しています。
実質面での有効性判断の考慮する事情を整理します。

<遺言の実質判断|公序良俗・判断要素>

あ 正妻保護の必要性

正妻との婚姻の実態の有無・程度

い 婚外交際保護の必要性

婚外交際・内縁関係の密度・程度

う 目的×婚外交際

遺言の目的が『婚外交際』の維持であるかどうか

え 相続人保護の必要性

遺言内容が相続人の生活基盤に影響を及ぼす程度

このような判断の背景には『法律婚』の強度な保護という事情があります。
詳しくはこちら|結婚制度の不合理性(婚費地獄・結婚債権・貞操義務の不公平・夫婦同姓など)

具体的な事例における判断・判例については以下紹介します。

3 遺言の実質判断|婚外交際維持目的→無効

<遺言の実質判断|婚外交際維持目的→無効>

あ 遺言作成経緯・目的

遺言者と受贈者との間の情交関係の維持継続のため

い 遺言内容

全財産を遺贈する
財産の中に『正妻居住の不動産』も含まれていた

う 裁判所の判断

公序良俗に反する
→無効と認めた
※東京地裁昭和58年7月20日

婚外の男女交際よりも『正妻』を保護する,という要請が判断の基礎にあります。
逆に言うと『婚外の交際』では,財産を実際に取得するまでは『否定される傾向』が強いのです。
詳しくはこちら|男女交際における『民事的違法』;公序良俗違反,不法原因給付,慰謝料

4 遺言の実質判断|婚外交際→無効

<遺言の実質判断|婚外交際→無効>

あ 遺言内容

婚外の交際相手の女性への包括遺贈

い 裁判所の判断

公序良俗に反する
→無効である
※東京地裁昭和63年11月14日

5 遺言の実質判断|婚姻破綻後の婚外交際→有効

次に『遺言が無効とはならなかった』ケースを紹介します。

<遺言の実質判断|婚姻破綻後の婚外交際→有効>

あ 遺言作成経緯

遺言者と妻との婚姻関係が事実上破綻するに至った
その後,遺言者は婚外女性Aと交際した
遺言者・Aは同棲を約10年継続した

い 遺言内容

全財産をAに包括遺贈する
主な財産=婚外女性が居住する不動産など

う 裁判所の判断

公序良俗に反しない
→遺言は有効である
※仙台高裁平成4年9月11日

6 遺言の実質判断|婚外交際相手への包括遺贈→有効

<遺言の実質判断|婚外交際相手への包括遺贈→有効>

あ 遺言作成経緯

遺言者が婚外女性Aと交際していた
遺言者とAは,約6年間,同棲に近い状態であった
遺言者・正妻の関係は実体をある程度失っていた

い 遺言内容

婚外女性へ『財産の3分の1』を包括遺贈する

う 目的

遺言者はAの生計を立てる目的があった
Aとの関係の維持・継続は目的ではなかった

え 相続人への配慮

正妻・実子にもそれぞれ『財産の3分の1』を承継させた

お 裁判所の判断

正妻・実子の生活の基盤が脅かされることはない
→公序良俗に反しない
→遺言は有効である
※最高裁昭和61年11月20日

裁判所が有効と判断した重要な事情は次の点にあると思われます。

<有効と判断したポイント>

『正妻・実子が法定相続未満・遺留分以上』の承継を受けた

遺言作成の際は,形式面で不備がないようにしっかりと注意するのは当然です。
さらに,内容を理由に無効とならないように十分な配慮までが求められるのです。

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