【公正証書遺言の方式に関する規定と法改正による拡張】
1 公正証書遺言の方式の規定の趣旨
公正証書遺言の作成に関しては方式が決められています。
本記事では公正証書遺言の方式についての規定を説明します。最初に、方式のルールの趣旨をまとめます。
公正証書遺言の方式の規定の趣旨
→遺言に遺言者の意思を正確に反映させる
2 公正証書遺言の方式=作成方法(概要)
公正証書遺言の方式の全体をまとめます。要するに作成方法に関する形式的なルールです。
公正証書遺言の方式=作成方法(概要)
公正証書遺言の方式と、証人の欠格事由についての細かいルールや解釈については、別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|公正証書遺言の方式(民法969条)(解釈整理ノート)
詳しくはこちら|遺言の証人・立会人の欠格事由(民法974条)(解釈整理ノート)
3 署名の代行
遺言者の署名は方式の1つとなっています(前記)。そうすると、記述ができない方は公正証書遺言を作成できなくなります。そこで、署名しなくても済むルールもあります。
署名の代行(※1)
→公証人がその事由を付記する
→署名に代えることができる
※民法969条4号ただし書
4 公正証書遺言では『筆記』不要
以上のように公正証書遺言の作成では遺言者自身が筆記する必要はありません。つまり、筆記ができない方でも公正証書遺言を作成できます。このことは、自筆証書遺言との大きな違いです。
公正証書遺言では『筆記』不要
あ 『自書』は不要
公正証書遺言の作成において
遺言者が『自書』する規定はない
遺言内容を公証人に『口授』すれば足りる
※民法969条2号
い 署名は代行が可能
公正証書遺言には遺言者の『署名』が必要である
公証人による代行が可能である(前記※1)
う 具体例
筆記できない方も公正証書遺言を作成できる
例;手が不自由な方
え 自筆証書遺言の『全文自書』(参考)
自筆証書遺言の作成について
遺言者が全文を自書する必要がある
詳しくはこちら|自筆証書遺言の「自書」要件(裁判例と平成30年改正による変化)
5 手話通訳と筆談による口授・読み聞かせの代替(概要)
(1)平成11年の改正の要点→手話通訳と筆談が可能に
公正証書遺言は『筆記』できない方でも作ることができます。これとは別に、公正証書遺言の方式には『口授・読み聞かせ』というルールがあります。遺言内容を伝達する方式です。これらの方式は口や耳が不自由な方には大きなハードルです。
実際に「口授」に該当しないという理由で、後から公正証書遺言が無効と判断された実例もあります。
詳しくはこちら|公正証書遺言の方式(民法969条)(解釈整理ノート)
この点、平成11年の民法改正で「口授」「読み聞かせ」ルールが緩和され、使いやすくなりました。
新ルールの細かい理論については別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|手話通訳と筆談による公正証書遺言の作成方法(民法969条の2)(解釈整理ノート)
以下、新ルールの要点を説明します。
(2)『口授・読み聞かせ』の代替(全体)
口授や読み聞かせという方式については、別の手段で代用することができるようになりました。代替手段の全体をまとめます。
『口授・読み聞かせ』の代替(全体)(※2)
(3)『通訳』による『口授・読み聞かせ』の代替
『通訳』によって口授・読み聞かせを代替することができます。『通訳』の具体的な内容についてまとめます。
『通訳』による『口授・読み聞かせ』の代替(※3)
あ 条文の規定
通訳人の通訳により申述する/伝える
※民法969条第1項、2項
い 手話
典型例は手話である
通訳人の手話のスキルに関して
→何らかの資格・基準は要求されていない
う ジェスチャー
解釈としてはジェスチャーもあり得る
しかし意思の伝達の正確性が不十分となる可能性もある
→事後的に遺言が無効と判断されるリスクが高い
(4)『自書』による『口授』の代替
『自書』によって『口授』に代えることができます。『自書』の内容・解釈をまとめます。自筆証書遺言の条文の『自書』とは異なる解釈です。
『自書』による『口授』の代替(※4)
あ 基本的な解釈
『自書』について
→『文字・視覚を通した伝達』と解釈される
い 筆談
一般的には『筆談』のことである
う デジタルツールの表示による伝達
『手書き』『紙媒体(への筆記)』という限定はない
→ディスプレイ上の文字の伝達も可能である
→デジタルツールも利用できる
例;パソコン・タブレット端末・スマートフォン(iPad、iPhone)
え 自筆証書遺言の方式の『自書』(参考)
自筆証書遺言の方式の規定の1つに『自書』がある(前記)
同じ用語であるが『あ』とは解釈が異なる
本記事では、公正証書遺言の方式に関する規定と法改正による拡張について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言書作成や相続後の遺言の有効性に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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