1 民事再生の申立棄却・却下の事由(手続開始の条件・消極的要件)
2 申立の棄却・却下事由の規定(再生手続開始の条件)
3 清算型手続の優先(2号)の内容
4 再生計画の見込みなし(3号)の内容
5 再生計画案の作成の見込みなしの解釈・具体例
6 再生計画案の可決の見込みなしの具体例
7 再生計画認可の見込みなしの解釈
8 不当目的(包括的棄却事由・4号)の具体例

1 民事再生の申立棄却・却下の事由(手続開始の条件・消極的要件)

裁判所が民事再生手続開始の決定をするためには手続開始原因(積極的要件)手続開始の条件(消極的要件)をクリアする必要があります。
詳しくはこちら|民事再生手続開始決定の判断枠組みと手続開始原因(積極的要件)
手続開始の条件とは,一定の事情がないことです。
要するに,一定の事情がある場合には裁判所が開始決定をしない(棄却・却下する)というものです。
そこで消極的要件とも呼ばれます。
本記事では,民事再生手続開始の申立を棄却・却下する事由について説明します。

2 申立の棄却・却下事由の規定(再生手続開始の条件)

民事再生法の条文では,民事再生手続開始申立を棄却・却下する事由が4つ定められています。
まずは条文の規定の内容をまとめます。

<申立の棄却・却下事由の規定(再生手続開始の条件)>

あ 費用の予納(1号)

再生手続の費用の予納がない
民事再生手続には,国庫仮支弁の制度はない
※破産法23条参照(破産手続では国庫仮支弁の制度がある)

い 清算型手続の優先(2号)

裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属している
+その手続によることが債権者の一般の利益に適合する

う 再生計画の見込みなし(3号)

再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかである

え 不当目的(包括的棄却事由)(4号)

不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでない
包括的な棄却事由である
※民事再生法25条

3 清算型手続の優先(2号)の内容

棄却・却下事由のうち清算型手続の優先(2号)の内容を説明します。
一般論として,清算型手続(破産など)よりも再建型手続(民事再生)の方が債権者に有利です。
そこで破産手続の進行中に民事再生の申立を行うことも可能です。
しかし,状況によっては逆に,清算型手続を維持した方が有利ということもあります。このような場合は,民事再生の手続開始をしない(破産手続を維持する)ということになります。

<清算型手続の優先(2号)の内容>

あ 清算型・再建型の手続の優劣

ア 原則
一般的に,清算型よりも再建型の手続の方が債権者にとって有利である
→原則として,清算型の手続よりも再建型の手続を優先する
この趣旨は清算価値保障原則としても現れている
※民事再生法39条1項参照
イ 例外
破産・特別清算手続の方が民事再生よりも債権者に有利である場合
(条文上は『債権者の一般の利益に適合する』と規定されている)
→清算型の手続を優先する

い 『債権者の一般の利益に適合する』の解釈

債権者全体にとって,弁済率,弁済の時期,期間などが有利になることである
一部の債権者にとって有利,というだけでは足りない

う 『債権者の一般の利益に適合する』の具体例

ア 清算価値保障原則違反
事業の収益性が低い
清算価値以下の弁済計画しか作成できない
イ 手続切替の経済的不利益
清算型の手続が相当程度に進んでいる
→新たに再生手続を進めることが不経済である
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール 民事再生法』日本評論社2015年p62

4 再生計画の見込みなし(3号)の内容

棄却・却下事由のうち再生計画の見込みがないということの内容を説明します。
この内容は細かく分けると3種類があります。

<再生計画の見込みなし(3号)の内容>

あ 条文規定の内容

『い〜え』のいずれか(見込み)が欠けることが明らかな場合
→再生手続を開始する意味がない
→申立を棄却する

い 再生計画案の作成(後記※1)
う 再生計画案の可決(後記※2)
え 裁判所による再生計画の認可(後記※3)

3種類の事由の内容は,以下順に説明します。

5 再生計画案の作成の見込みなしの解釈・具体例

再生計画案の作成の見込みがないことが明らかである場合,民事再生の申立が棄却されます(前記)。
これは,財産のストック・フローがとても低い(少ない)ような状況のことです。

<再生計画案の作成の見込みなしの解釈・具体例(※1)>

あ 『再生計画案の作成の見込みがない』の解釈

債務者の資金残高,資金調達力,事業収益力が著しく低いために弁済計画を立てられないこと
※東京高裁平成12年5月17日

い 『再生計画案の作成の見込みがない』の具体例

ア 優先債権の弁済不能
公租公課や労働債権などの一般優先債権の額が大きい
これらの債権に対する弁済原資すら確保できない
イ 別除権者の反対
事業に不可欠な財産に別除権を有する担保権者が強硬に反対する
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール 民事再生法』日本評論社2015年p63

6 再生計画案の可決の見込みなしの具体例

再生計画案が作成されても,債権者の一定数の同意がないと可決されません。
申立の時点で,再生計画案の可決の見込みがないことが明らかである場合,民事再生の申立が棄却されます(前記)。
特定の債権者の反対が予想されるとか,全体の債権者の大部分が反対されると予想されるような状況のことです。

<再生計画案の可決の見込みなしの具体例(※2)>

あ 債権者の判断の傾向

大口債権者or多数債権者が,債務者に対する不信を示すor再生手続の利用に強固な反対の意思を示す
→再生計画成立に必要な法定多数の同意を得ることが見込めない
※東京高裁平成13年3月8日
※高松高裁平成17年10月25日

い 極端に低い弁済率

見込まれる弁済額が非常に低い
→そのため,債権者の賛同がおよそ見込めない
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール 民事再生法』日本評論社2015年p63

7 再生計画認可の見込みなしの解釈

再生計画案が作成されて,債権者の同意を得て可決しても,その後に裁判所が認可しないと再生計画として成立しません。
申立の時点で,再生計画が認可される見込みがないことが明らかである場合は申立が棄却されます(前記)。
不認可となる事由は,申立が不当であるとか,遂行できないような再生計画であるというようなものです。

<再生計画認可の見込みなしの解釈(※3)>

あ 『再生計画の認可の見込みがない』の解釈

不認可事由(民事再生法174条2項)に該当するような事実がある

い 『再生計画の認可の見込みがない』の具体例

申立自体が違法であり不備を補正できない
再生計画の遂行可能性がない
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール 民事再生法』日本評論社2015年p63

8 不当目的(包括的棄却事由・4号)の具体例

民事再生の申立の目的が不当である場合は申立が棄却されます(前記)。
債権者が不当な目的で民事再生を申し立てるパターンと,債務者が不当な目的で申し立てるパターンに分けられます。典型例を紹介します。

<不当目的(包括的棄却事由・4号)の具体例>

あ 不当目的による債権者申立の具体例

債務者に対する嫌がらせ目的のみに基づいて申立をした
私的整理により自らの債権回収を有利に進めるために,申立の取下を交渉材料にする目的で申立をした
株価操作を目的として申立をした
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール 民事再生法』日本評論社2015年p63

い 不当目的による債務者申立の具体例

ア 保全処分の悪用
保全処分を取得して一時的に債権者からの追及を逃れ,その間に資産隠しをした上で,取下をする目的のみに基づく申立
※東京高裁平成19年7月9日
イ 会社支配権奪取・担保権抹消請求制度の悪用
事業譲渡を通じた会社支配権の奪取のみを目的とする申立
もっぱら担保権消滅請求制度を利用して根抵当権を抹消することを目的とした申立
※東京高裁平成24年3月9日
ウ 否認権行使の悪用
連帯保証債務を免れる方法として否認権行使を利用する目的でなされた申立
※東京高裁平成24年9月7日