【破産管財人の善管注意義務と義務違反による損害賠償責任】

1 管財人の善管注意義務と義務違反による損害賠償責任
2 破産管財人が負う注意義務
3 善管注意義務違反による管財人の損害賠償責任
4 損害賠償責任を負う者
5 管財人の義務違反による損害賠償責任を認めた判例
6 善管注意義務違反への損害賠償以外の対応

1 管財人の善管注意義務と義務違反による損害賠償責任

破産管財人は破産者の財産に関してとても広い権限を持ちます。
詳しくはこちら|破産管財人の権限と自由裁量と例外(裁判所の許可を要する行為)
これに対応して,管財人は高度な注意義務(善管注意義務)を負います。
本記事では,破産管財人が負う善管注意義務と,これに違反した場合の責任について説明します。

2 破産管財人が負う注意義務

破産管財人は職務執行全般について善管注意義務を負います。
大雑把にいうと,注意義務の中でも高度な注意が必要ということです。
この点,管財人はいろいろな立場が混ざっています。
メインは債権者の利益を確保するという立場(任務)であり,同時に破産者の権利義務を承継する者という立場もあります。
実際に生じた義務違反の事例では,債権者の利益の確保を怠ったというものがほとんどです(後記)。

<破産管財人が負う注意義務>

あ 善管注意義務

破産管財人は職務執行に関して善管注意義務を負う
※破産法85条1項

い 注意義務の性質

受任者の負う注意義務(民法644条)と同じ性質の規定である
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』日本評論社2014年p197

う 注意義務の大まかな内容

ア 債権者の利益の確保 破産管財人は,第一次的には破産債権者のために破産財団を適切に維持・増殖すべき義務を負う
イ 破産者の権利義務の承継者 他方で,破産者の実体法上の権利義務を承継する者として,利害関係人との間の法律関係を適切に整理・調整すべき義務を負っている
※最高裁平成18年12月21日(の補足意見)

3 善管注意義務違反による管財人の損害賠償責任

破産管財人が善管注意義務に違反すると,損害賠償責任が生じます。
主に配当(弁済)を受ける債権者が被害者として賠償責任を追及(請求)することになります。

<善管注意義務違反による管財人の損害賠償責任>

あ 義務違反の効果

破産管財人に善管注意義務違反があった場合
→破産管財人は『利害関係人』に対して損害賠償義務を負う
※破産法85条2項

い 利害関係人の意味

破産管財人の職務執行に関して法律上の利害関係を有する者である

う 利害関係人の具体例

ア 債権者(破産債権者,財団債権者)イ 別除権者ウ 取戻権者エ 破産者 ※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』日本評論社2014年p198

4 損害賠償責任を負う者

破産管財人の義務違反により生じる賠償責任は,当然,管財人個人が負います。
この点,破産管財人は公務員の職務執行に準ずるとして国も国賠法によって賠償責任を負うという発想もあります。しかし,このような見解は一般的ではありません。

<損害賠償責任を負う者>

あ 破産管財人

破産管財人に善管注意義務違反があった場合
→損害賠償債務は破産管財人個人が負う

い 国

国は国家賠償法1条による責任を負わない見解が一般的である(有力説)
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』日本評論社2014年p199

5 管財人の義務違反による損害賠償責任を認めた判例

実際に破産管財人の善管注意義務違反があったと判断され,賠償責任が肯定された事例(主な裁判例)を紹介します。

<管財人の義務違反による損害賠償責任を認めた判例>

あ 債権回収の懈怠

破産財団に属する取立可能な売掛債権の回収を懈怠した
消滅時効が完成した
※東京高裁昭和39年1月23日

い マイナスを生む財産の放棄の懈怠

財団債権を増大する無用な財産があった
管理処分権の放棄を懈怠した
※大阪高裁昭和53年12月21日

う 否認権行使の懈怠

否認すべき事実の調査と否認権行使を怠った
※東京地裁昭和36年12月19日

え 税務申告・納税の懈怠

破産財団に所得が発生した
税務申告・納付の義務が生じたのにこれを怠った
※最高裁平成4年10月20日

お 交付要求を見過ごした配当

租税債権について交付要求がなされた
これを無視して破産配当を行った(破産手続が終結した)
※最高裁昭和45年10月30日

か 破産債権への異議の懈怠

届出破産債権について,破産者が異議を述べた
この債権を漫然と承認して確定させた
※名古屋地裁昭和29年4月13日

6 善管注意義務違反への損害賠償以外の対応

以上のように,破産管財人に善管注意義務違反があった場合は,賠償責任が生じます。
これとは別に,裁判所が是正命令解任をするということもあります。

<善管注意義務違反への損害賠償以外の対応>

あ 裁判所の監督権(前提)

裁判所は破産管財人に対する監督権を有する
※破産法75条1項

い 裁判所による是正命令

(破産管財人に善管注意義務違反があった場合)
裁判所は是正を命じることができる

う 裁判所による解任

破産管財人の解任事由となることもある
※破産法75条2項

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