【破産管財人の善管注意義務と義務違反による損害賠償責任】

1 管財人の善管注意義務と義務違反による損害賠償責任

破産管財人は破産者の財産に関してとても広い権限を持ちます。
詳しくはこちら|破産管財人の権限と自由裁量と例外(裁判所の許可を要する行為)
これに対応して、管財人は高度な注意義務(善管注意義務)を負います。
本記事では、破産管財人が負う善管注意義務と、これに違反した場合の責任について説明します。

2 破産管財人が負う注意義務

破産管財人は職務執行全般について善管注意義務を負います。
大雑把にいうと、注意義務の中でも高度な注意が必要ということです。
この点、管財人はいろいろな立場が混ざっています。
メインは債権者の利益を確保するという立場(任務)であり、同時に破産者の権利義務を承継する者という立場もあります。
実際に生じた義務違反の事例では、債権者の利益の確保を怠ったというものがほとんどです(後記)。

破産管財人が負う注意義務

あ 善管注意義務

破産管財人は職務執行に関して善管注意義務を負う
※破産法85条1項

い 注意義務の性質

受任者の負う注意義務(民法644条)と同じ性質の規定である
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』日本評論社2014年p197

う 注意義務の大まかな内容

ア 債権者の利益の確保 破産管財人は、第一次的には破産債権者のために破産財団を適切に維持・増殖すべき義務を負う
イ 破産者の権利義務の承継者 他方で、破産者の実体法上の権利義務を承継する者として、利害関係人との間の法律関係を適切に整理・調整すべき義務を負っている
※最高裁平成18年12月21日(の補足意見)

3 善管注意義務違反による管財人の損害賠償責任

(1)損害賠償を請求できる者(被害者)

破産管財人が善管注意義務に違反すると、損害賠償責任が生じます。
主に配当(弁済)を受ける債権者が被害者として賠償責任を追及(請求)することになります。

損害賠償を請求できる者(被害者)

あ 義務違反の効果

破産管財人に善管注意義務違反があった場合
→破産管財人は『利害関係人』に対して損害賠償義務を負う
※破産法85条2項

い 利害関係人の意味

破産管財人の職務執行に関して法律上の利害関係を有する者である

う 利害関係人の具体例

ア 債権者(破産債権者、財団債権者)イ 別除権者ウ 取戻権者エ 破産者 ※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』日本評論社2014年p198

(2)損害賠償責任を負う者→管財人は肯定、国は否定方向

破産管財人の義務違反により生じる賠償責任は、当然、管財人個人が負います。
この点、破産管財人は公務員の職務執行に準ずるとして国も国賠法によって賠償責任を負うという発想もあります。しかし、このような見解は一般的ではありません。

損害賠償責任を負う者→管財人は肯定、国は否定方向

あ 破産管財人

破産管財人に善管注意義務違反があった場合
→損害賠償債務は破産管財人個人が負う

い 国

国は国家賠償法1条による責任を負わない見解が一般的である(有力説)
※山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』日本評論社2014年p199

(3)管財人の義務違反による損害賠償責任を認めた裁判例(まとめ)

実際に破産管財人の善管注意義務違反があったと判断され、賠償責任が肯定された事例(主な裁判例)を紹介します。

管財人の義務違反による損害賠償責任を認めた裁判例(まとめ)

あ 債権回収の懈怠

破産財団に属する取立可能な売掛債権の回収を懈怠した
消滅時効が完成した
※東京高裁昭和39年1月23日

い マイナスを生む財産の放棄の懈怠

財団債権を増大する無用な財産があった
管理処分権の放棄を懈怠した
※大阪高裁昭和53年12月21日

う 否認権行使の懈怠

否認すべき事実の調査と否認権行使を怠った
→取立をしなかったことが善管注意義務違反にあたる
※東京地判昭和36年9月19日(後記※1

え 税務申告・納税の懈怠

破産財団に所得が発生した
税務申告・納付の義務が生じたのにこれを怠った
※最高裁平成4年10月20日

お 交付要求を見過ごした配当

租税債権について交付要求がなされた
これを無視して破産配当を行った(破産手続が終結した)
※最高裁昭和45年10月30日

か 破産債権への異議の懈怠

届出破産債権について、破産者が異議を述べた
この債権を漫然と承認して確定させた
※名古屋地裁昭和29年4月13日

(4)昭和36年東京地判・債権取立懈怠による賠償責任肯定

紹介した裁判例のうち、管財人が債権の取立を懈怠したことによる責任を認めたものを紹介します。債権取立をしっかりと行えば債権回収が可能であったにも関わらず、管財人は当該債権の債務者に支払意思を確かめただけでそれ以外の具体的アクションを取っていませんでした。その後、消滅時効が完成し、確実に債権回収は不可能となりました。このような経緯から、裁判所は善管注意義務違反、つまり損害賠償請求を認めました。

昭和36年東京地判・債権取立懈怠による賠償責任肯定(※1)

あ 回収可能性→回収可能であった

前顕甲第一二号証、その方式と趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第六号証、証人会田太一の証言により真正に成立したものと認められる甲第五号証に証人橋本長一郎および同桝田光の証言を併せ考えると、破産会社の破産宣告当時における売掛債権とした別紙債権目録第一表ないし第三表に掲げる五二口の債権、その総額四、三五六、三九四円が計上されていたこと、右債権中には相当額の回収を見込み得る債権を含んでいたことを肯認するに十分である。

い 管財人の初動→債権取立の方策を講ずべきであった

従つて、被告としてはその破産管財人に就任と同時に、先ず、為すべき仕事は、右各債権の存否、取立可能額の範囲を確立するとともに、取立可能なものつにいては可及的速やかに取立を実現する方策を講ずべきであつたといわなければならない。

う 管財人の実際の行動→支払意思を確かめたのみ

然るに証人橋本長一郎および同桝田光の証言によれば、被告はその就任中破産会社の代表取締役から概略の報告を徴し、債務者に対し或るものは口頭で、或るものは普通郵便で支払の意思であるかどうかを確かめたのみで、債権の確保、回収のための確固たる手段を執らず、遂に一銭の回収もできなかつたばかりでなく、

え 消滅時効完成→回収不可能確定

すべて消滅時効の完成を許し、現在においてはその取立は全く不可能となつていること、しかも、右破産財団には他に配当の源資なく、破産債権者に対する配当は皆無たらざるを得ないことを認めるに十分である。

お 中間結論→特段の事情がない限り善管注意義務となる

してみれば、右破産財団に属する債権が、いずれも、当時回収の見込がなく、時効中断、取立訴訟等の手段に出ることは徒労に帰することが明らかであつた等の特段の事情の認むべきものがない以上、被告は破産管財人として尽すべき善良なる管理者の注意義務を怠つたものといわれても仕方がないものというほかない。

か 特段の事情の検討→回収不能という判断は妥当ではかった

もつとも、真正の成立を認むべき甲第一〇号証の記載によれば、右破産会社は代表者橋本長一郎の個人企業的な色彩が強く、帳簿の整理も極めて不完全であつて債権額の確立にも困難があり、債務者も零細な個人営業を営む者が多く、無資力の際物的な営業をなすものが大部分であり、また帳簿上は個人名義の取引となつているが実体は会社組織をなしているものがある等債権の取立の困難を思わせるものが多かつたことは認められるけれども、反面小口の債権については全額回収の可能性が強いことも考えられ、取立についても必ずしも多額の費用を要する争訟の手続によらなくても内容証明郵便による催告または支払命令の申立等小額債権に相応する取立の方法もあるのであるから、前記事情があるからと言つて直ちに取立を抛棄するのは当を得たものということができない

き 最終結論→善管注意義務違反肯定

結局被告としてはその善管注意義務を十分に尽さなかつたものといわざるを得なず、これにより利害関係人に対し損失を与えたとすれば、その損害を賠償すべき義務があるものとなさざるを得ない。
※東京地判昭和36年9月19日

4 善管注意義務違反への損害賠償以外の対応

以上のように、破産管財人に善管注意義務違反があった場合は、賠償責任が生じます。
これとは別に、裁判所が是正命令解任をするということもあります。

善管注意義務違反への損害賠償以外の対応

あ 裁判所の監督権(前提)

裁判所は破産管財人に対する監督権を有する
※破産法75条1項

い 裁判所による是正命令

(破産管財人に善管注意義務違反があった場合)
裁判所は是正を命じることができる

う 裁判所による解任

破産管財人の解任事由となることもある
※破産法75条2項

本記事では、破産管財人の善管注意義務と義務違反による賠償責任について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に破産管財人の不当な行為など、破産手続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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