【退職の意思表示(退職届)の効力発生時(撤回期限)と信義則の制限】
1 退職の意思表示の効力発生時=撤回期限
退職届を提出することは、法律的には退職の意思表示に該当します。退職届は提出した時点で効力が発生するとは限りません。法律的な効力が発生する時点について説明します。この点、効力が発生する前であれば無条件での撤回が可能です。そこで、効力発生のタイミングは重大なのです。
退職の意思表示の効力発生時=撤回期限
あ 効果発生時点
退職の意思表示が効力を発生する時点
=『退職の意思表示の受領権限者』(後記※1)が受領した時
効果=一定の時期に退職する
法律的な分類として『解約告知』に該当する
い 意思表示受領前の撤回
『退職の意思表示の受領権限を持つ者』が受領する前
→撤回できる
福岡高裁昭和53年8月9日;昭和自動車事件
名古屋高裁昭和56年11月30日;大隅鉄工所事件
青森地裁弘前支部昭和59年11月1日;紅屋商事事件
う 意思表示受領後の撤回
『退職の意思表示の受領権限を持つ者』が受領した後
→原則的に意思表示を撤回できない
別の事情により意思表示が無効となることはある
詳しくはこちら|退職の強要と意思表示(退職届)の無効(全体・判断基準・紛争予防)
2 退職の意思表示の受領権限者
退職の意思表示、つまり退職届の受領権限を持つ者については、実質的に判断されます。判断の大きな目安と具体例をまとめます。
退職の意思表示の受領権限者(※1)
あ 受領権限者に該当する立場
ア 経営の責任者イ 人事の権限を任せられている者
い 受領権限者の代表例
ア 社長中小企業で社長が直接労務管理を担当している場合
イ 人事の担当者人事マターを扱う部署の担当者
う 受領権限者として認めた裁判例
ア 理事長※大阪地裁平成9年8月29日;学校法人白頭学院事件
イ 工場長※東京高裁平成13年9月12日;ネスレ日本(合意退職)事件
3 特別優遇制度による退職の成立時点
単純な退職以外では退職の成立時点も特殊な扱いとなります。特別優遇制度による退職のケースについてまとめます。
特別優遇制度による退職の成立時点
あ 成立時点
特別優遇制度による合意解約について
募集受付方法欄記載の合意書が作成された時点で成立する
い 撤回
『あ』の合意書が作成される前において
→従業員による応募の撤回が認められる
※大阪高裁平成16年3月30日;ピー・アンド・ジー明石工場事件
4 退職の意思表示の撤回の制限(基準)
退職の意思表示は『受領権限者の受領』までは撤回できます(前記)。しかし、例外もあります。具体的事情によっては信義則により撤回が認められなくなります。まずは基本的事項をまとめます。
退職の意思表示の撤回の制限(基準)
退職の意思表示の撤回について
撤回が信義に反する特段の事情がある
例;雇用主に不測の損害を与える
→撤回の効力は生じない
※民法1条2項
※宮崎地裁昭和61年2月24日;佐土原町土地改良区事件
5 退職の意思表示の撤回の制限(具体例)
上記の裁判例の事案では、結局、退職の撤回は認められませんでした。判断の対象となった事情についてまとめます。
退職の意思表示の撤回の制限(具体例)
あ 退職の申し出
土地改良区の従業員が退職を申し出た
従業員は退職届と誓約書を提出した
い 雇用主の対応
退職による人件費削減を前提として補正予算を作成した
事業改善のための体制を整えた
う 退職の撤回
従業員は退職の意思表示を撤回した
え 裁判所の判断
仮に退職が撤回されると
土地改良区の組合員・役員に大きな混乱と不測の損害が生じる
→信義に反する
→撤回の効力は認めない
※宮崎地裁昭和61年2月24日;佐土原町土地改良区事件
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


