震災後の電車の運休により,通勤・帰宅が非常に困難です。
そのため,従業員が出社できませんでした。
給与や手当を払われるべきなのでしょうか。

1 交通の障害により出勤できない場合は,ノーペイが原則
2 災害による欠勤について懲戒,降格,配転などのペナルティを課すことは違法
3 計画停電による通勤時間増大→ノーペイ
4 交通障害により,電車がまったく動かない→ノーペイ
5 停電で業務困難→ノーペイ
6 災害による障害→労働困難という場合の賃金,休業手当の要否のまとめ
7 休業にするか否かを雇用主が判断せず,従業員に委ねる方法もある
8 休業手当の金額は,通常の60%以上とされるが,規定がないと通常の給与どおりとなる

1 交通の障害により出勤できない場合は,ノーペイが原則

災害その他の事情により,交通機関が動いていないという障害が生じることがあります。
この場合,当然,従業員は出勤できなくなります。
この欠勤について,賃金がどうなるか,という問題があります。
ここでは災害,つまり,従業員,雇用主のいずれの責任もない,という前提です。

就業規則や労働協定,労働契約に給与を支給する旨の規定があればこれに従います。
このような規定がないことを前提にします。
そうすると,大原則はノーワークノーペイ,です。
ただし,個別的な事情によって解釈は異なる場合もあります。
次に説明します。

2 災害による欠勤について懲戒,降格,配転などのペナルティを課すことは違法

<事例設定>

・災害により,従業員が負傷した
・災害により,従業員が通勤することが不可能となった
・このような理由で,従業員の欠勤がしばらく続いた

発想;懲戒処分,降格,配転のようなペナルティを課すことを検討している

このようなケースにおいては,減給,解雇といった懲戒処分はできません。
原因が従業員の個人的な行為にあるわけではありません。
結果的に欠勤したとしても,このような場合は合理的な理由がないと判断されます。
そのため,懲戒処分は懲戒処分権の濫用として無効となります(最高裁昭和58年9月16日)。
同じ趣旨により,降格,配転命令,出向命令,転籍命令も人事権の濫用として無効となります。

3 計画停電による通勤時間増大→ノーペイ

<事例設定>

計画停電により通勤経路の電車の本数が少なく,また快速が運休となっている
通勤,移動のためには,通常よりも多く時間を要する
そのために従業員が欠勤した

(1)原則的にはノーワーク・ノーペイ

この場合,あくまでも通勤は可能です。
時間がいつもよりも長くかかるのは従業員が負担すべきリスク,となります。
もちろん,雇用主が一定時間の遅刻を認めるかどうかはまったく別問題です。
いずれにせよ,結論としてノーワークノーペイ,ということになります。
むしろ,従業員が独断で欠勤した場合は,通常の無断欠勤という扱いになります。
懲戒処分などのペナルティの対象になる可能性があります。
とは言っても,交通機関の状況によってはやむを得ないものとして,懲戒処分の合理性が欠けるでしょう。

(2)雇用主の判断による場合は休業になり休業手当の支給が必要になる

一方,雇用主の判断(指示)により,『休み』にした,という場合は,休業ということになります。
休業手当(労働基準法26条)を支給すべきことになります(後述)。

4 交通障害により,電車がまったく動かない→ノーペイ

<事例設定>

計画停電や路線の損傷などにより通勤経路の電車がまったく動かない
仮にタクシーで往復すると10万円近くかかってしまう
このような事情であったため,従業員が欠勤した

この場合,事実上通勤不可能と考えられます。
不可抗力による休業です。
そうすると,ノーワークノーペイ,ということになります。
一方,欠勤の理由は従業員の責任ではありません。
そこで,懲戒処分の対象にもなりません。
また,この休業は雇用主に起因するものではありません。
休業手当の支給もありません。

5 停電で業務困難→ノーペイ

<事例設定>

計画停電により,出社しても機械やパソコンが動かない時間帯がある
業務が十分にできない
そのため,従業員が欠勤した

本当に業務ができないかどうかが重要です。
雇用主が『業務ができなくはないが効率が落ちる』から『休みにする』,と判断することもあります。
これは不可抗力ではなく,雇用主の判断による休業となります。
このような休業については,休業手当を支給することになります(労働基準法26条)。
雇用主が事業活動を行おうと思っても,実際に停電中は仕事にならないということもあります。
この場合は,雇用主の判断ではない業務不可能=不可抗力ということになります。
ノーワークノーペイです。
給与も休業手当も支払う義務はありません。
なお,通常は業務不可能と言い切れるのは停電の時間帯だけ,ということが多いでしょう。

6 災害による障害→労働困難という場合の賃金,休業手当の要否のまとめ

災害により,仕事を遂行することが困難,という場合の賃金,休業手当の扱いをまとめます。
重要な要素は,不可抗力と言えるかどうか,また,雇用主が経営上の努力を怠っていないか,です。

(1)不可抗力の場合

不可抗力に該当する場合>

・当該休業が,事業の外部的要因により発生した
・雇用主が企業経営において要求される最大の努力を尽くしても休業を避けられなかった

休業に対する休業手当・賃料は発生しません。

不可抗力の業務不能の例>

・事業所の建物が倒壊した
・工場の機械が損壊して製造不可能
・停電によりパソコン,機械を使った作業が不可能

(2)不可抗力とまでは言えないが,雇用主が経営判断として休業を選択した(命じた)場合

つまり,就業自体は不可能ではない,という場合です。
休業手当の支給義務があります。

雇用主の判断としての休業の例>

次のような事情を前提に,雇用主が休みを決定した場合
・交通機関の遅延が生じていた
・政府の通勤抑制勧告,操業短縮勧告を受けた

(3)雇用主の努力不足,過失による休業

休業を避ける容易な手段,方法があった場合
通常の賃金支払義務あり(民法536条2項)

<”雇用主の努力不足,過失による休業の例>

・原料の仕入先のうち1社が被災し製造不可能になった。
 →他の代替的な仕入先がいくらでもある
 →敢えて雇用主が当面操業を中止することを決定した

7 休業にするか否かを雇用主が判断せず,従業員に委ねる方法もある

<事例設定>

計画停電が行なわれているが,停電実行自体に予定変更がある
業務遂行の予定が立てにくい
雇用主として,一斉に休みにすべきかどうか迷っている

このような場合,休みにするかどうかの判断を,各従業員に委ねるという工夫もあり得ます。
業務遂行について,ある程度各従業員に裁量を認め,委ねている部分が多い,ということは多いです。
このような事情であれば,雇用主が確定的に指示,命令しない方法も好ましいでしょう。
具体的には,雇用主から従業員に,次のようにアナウンスするのです。

休みの判断を従業員に委ねるアナウンス例>

・停電時に行うべき業務はあるが,あまり成果は少ないかもしれないです。
・欠勤してもペナルティは加えません。
・欠勤した場合,通常どおり,欠勤控除の対象になります。

従業員が休みにした場合は,欠勤扱いになります。
原則的に結局,従業員の判断により欠勤したことになりますので,ノーワークノーペイということになると思われます。
ただし,最初から,通常の賃金や休業手当を支給する,という設定にすることも可能です。
いずれにしても,賃金,休業手当の扱いも,アナウンス内容に含めておくと良いでしょう。
別の設定方法として,有給休暇の申請を推奨するというものもあります。

8 休業手当の金額は,通常の60%以上とされるが,規定がないと通常の給与どおりとなる

休業手当の金額については,別に説明しています。
<→別項目;休業手当の金額は,通常の60%以上とされるが,規定がないと通常の給与どおりとなる