【裁量労働制|専門業務型・企画業務型|対象職種・導入手続|残業代なしになる】

1 裁量労働制では『残業』が発生しない
2 裁量労働制|『専門業務型・企画業務型』の2種類がある
3 裁量労働制の趣旨=業務成果を『時間』ではなく『業務内容』で評価する
4 裁量労働制|『専門業務型裁量労働制』の対象職種
5 裁量労働制|『企画業務型裁量労働制』の対象職種
6 裁量労働制の『対象職種』に該当しない事例|判例
7 専門業務型裁量労働制の導入手続|労使協定+労基署への届出
8 企画業務型裁量労働制の導入手続|労使委員会決議+労基署への届出
9 裁量労働制には過剰労働防止策が適用される
10 裁量労働制を導入する場合は正確な理解+周知などが重要;注意点

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<→裁量労働制では労働時間が一定時間とみなされ,残業代は支払われない>←イマココ
労働時間の把握をしない事業場外みなし労働時間制がある
管理監督者は残業代なし,名ばかり管理職,偽装請負は違反

1 裁量労働制では『残業』が発生しない

一定の職種については裁量労働制という制度を利用できます。
裁量労働制の適用を受けるためには細かい条件があります。
裁量労働制を導入すると,原則的に残業が生じません。
当然,残業代の支給も不要となります。

2 裁量労働制|『専門業務型・企画業務型』の2種類がある

裁量労働制は,2種類あります。
『専門業務型裁量労働制』と『企画業務型裁量労働制』です。
この制度を導入する場合は,事前にみなし労働時間を定めます。
例えば,みなし労働時間を8時間としてあれば,実際に働いた時間に関係なく,この時間を元に賃金を計算します。

要は,残業代が出ないということです。
もちろん,みなし労働時間が9時間であれば,1時間分については割増賃金が発生します。
逆に,5時間だけ仕事をしなかったとしても,減給などにはなりません。

3 裁量労働制の趣旨=業務成果を『時間』ではなく『業務内容』で評価する

<裁量労働制の趣旨>

給与の位置付けを,業務時間の対価よりも業務内容自体の対価として考える
一定のみなし労働時間を定め,実際の労働時間は賃金等に反映させない
専門性が高い業種や一定の管理職という裁量が大きい類型のみを対象職種とする

裁量労働制の場合,実際の業務時間が長くても短くても賃金が一定になります。
時間の拘束が緩いのです。

対象職種としては,仕事を職場だけではなく,自宅や外出先で行う形態も想定されています。
いわゆる,soho(自宅勤務の一種)やノマドワーク(外出先で仕事を行うこと)というものです。
ライフワークバランスを重視した働き方,と整合性が高いです。
ホワイトカラーに,労働時間に関する規制を除外するという意味でホワイトカラーエグゼンプションと呼ぶこともあります。

4 裁量労働制|『専門業務型裁量労働制』の対象職種

法律上規定されている『専門業務型裁量労働制』の対象職種をまとめます。

専門業務型裁量労働制の導入可能職種>

新製品,新技術の研究開発等の業務
情報処理システムの分析又は設計の業務
記事の取材又は編集の業務
デザイナーの業務
プロデューサー又はディレクターの業務
コピーライターの業務
システムコンサルタントの業務
インテリアコーディネーターの業務
ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
証券アナリストの業務
金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
大学における教授研究の業務
公認会計士の業務
弁護士の業務
建築士(一級建築士,二級建築士及び木造建築士)の業務
不動産鑑定士の業務
弁理士の業務
税理士の業務
中小企業診断士の業務

5 裁量労働制|『企画業務型裁量労働制』の対象職種

法律上規定されている『企画業務型裁量労働制』の対象職種をまとめます。

企画業務型裁量労働制の導入可能職種>

経営企画担当部署
人事・労務担当部署
財務・経理担当部署
広報担当部署
営業企画担当部署
生産企画担当部署

6 裁量労働制の『対象職種』に該当しない事例|判例

裁量労働制の対象職種に該当するかどうかでトラブルが生じるケースもあります。
判例における判断を紹介します。

<名ばかり『裁量制』=みなし労働時間制の否定判例>

あ SE

進行に関する裁量に乏しい+営業活動への従事
→『情報処理システムの分析又は設計の業務』に該当しない
※京都地裁平成23年10月31日;エーディーディー事件

い 税理士補助業務

税務書類の作成
→『税理士の業務』に該当しない
※東京地裁平成25年9月26日;レガシィ事件

7 専門業務型裁量労働制の導入手続|労使協定+労基署への届出

専門業務型裁量労働制を導入するために必要な手続をまとめます。

<専門業務型裁量労働制の導入手続>

労使協定+労働基準監督署への届出

労使協定として締結すべき事項をまとめます。

<労使協定対象事項>

ア 裁量労働制の対象となる業務イ その業務を行うのに必要とされる時間(みなし労働時間)ウ 業務の進め方及び時間配分の決定等に関し,具体的な指示をしない旨の記載エ 従業員の健康と福祉を確保するための措置の具体的内容オ 従業員からの苦情の処理に関する措置の具体的内容カ 協定の有効期間キ エとオの記録は協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

労使協定を締結後,これを労働基準監督署へ届け出ることも必要です。

8 企画業務型裁量労働制の導入手続|労使委員会決議+労基署への届出

企画業務型裁量労働制の導入手続をまとめます。

<企画業務型裁量労働制の導入手続>

労使委員会の決議+労働基準監督署への届出

労使委員会の決議が必要な事項をまとめます。

<労使委員会の決議対象事項>

ア 企画業務型裁量労働制の対象となる業務イ 企画業務型裁量労働制の対象となる従業員の範囲ウ その業務を行うのに必要とされる時間(みなし労働時間)エ 従業員の健康と福祉を確保するための措置の具体的内容オ 対象となる従業員からの苦情の処理に関する措置の具体的内容カ 裁量労働制を適用する際に本人の同意を得ること,同意しないとしても不利益な取扱いをしないことキ 決議の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされています)ク エ,オ,カの記録は決議の有効期間,その期間満了後3年間保存すること

さらに,この労使委員会の議事録を労働基準監督署に届け出ることも必要です。
なお,個々の従業員の同意がないと,従業員単位で,裁量労働制が適用できません。

9 裁量労働制には過剰労働防止策が適用される

裁量労働制は,残業代支払が不要とされています。
雇用主に,労働時間の抑制が働かない,ということは心配されています。
そこで,裁量労働制を導入する場合は,『働き過ぎを抑制する』ルールが適用されます。

<裁量労働制に伴う規定>

ア 労働者の健康と福祉を確保するための措置を講じる義務 典型例としては,次のようなものです。
・上司や産業医による健康状態のヒアリング
・健康診断の実施
・代償休日又は特別休暇の付与
・年次有給休暇の取得促進
イ 苦情の処理措置 労使の協定事項(決議事項)として苦情の処理に関する措置を取ることとされています。
典型例としては,人事部や労働組合への苦情処理窓口の設置などが挙げられます。

10 裁量労働制を導入する場合は正確な理解+周知などが重要;注意点

裁量労働制には一定の注意点,デメリットもあります。
従業員の自律性を尊重する制度の性格が,職場によってはマッチしないこともあります。
注意点をまとめます。

<裁量労働制導入の注意点>

ア 会社から従業員に具体的な業務・作業についての指示・命令はできません。 仕事の進め方について,従業員に裁量を与える制度だからです。
とは言っても,完全自由ではないので,出勤日に休むことは認められません。
イ 遅刻や早退に対するペナルティ(減給など)は与えられません。 従業員に自主性・自律性が高ければ非常に有意義ですが,職場環境によっては,却って業務効率が落ちるということもあり得ます。
そのような場合は,フレックスタイム制を試験的に導入すると良いでしょう。
フレックスタイム制は,従業員に与える裁量が,ノーマルの制度と裁量労働制の中間と言えます。
ウ 深夜業務,休日労働,休憩,に関する規定は除外になりません。 要は,深夜業務手当・休日労働手当(割増賃金)は追加して支給されることになります。
また,休憩時間を与える必要があるということは通常の形態と変わりません。

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