【有責配偶者の離婚請求の3要件のうち長期間の別居の判断】

1 有責配偶者の離婚請求の3要件のうち長期間の別居の判断
2 判例上の長期間の別居の要件
3 長期間の別居の判断の枠組み
4 別居期間と年齢や同居期間との対比
5 別居開始の理由や相手の有責性の影響
6 別居中の夫婦の交流と破綻の有無(別の結論の裁判例)

1 有責配偶者の離婚請求の3要件のうち長期間の別居の判断

有責配偶者からの離婚請求については,昭和62年の判例で3つの要件による判断基準が示されています。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
本記事では,この3要件(要素)のうち,1つ目の長期間の別居について説明します。

2 判例上の長期間の別居の要件

判例では,別居が相当の長期間であれば離婚を認めるという基準が示されています。長期間かどうかの判断では,夫婦それぞれの年齢同居期間と対比することも示されています。

<判例上の長期間の別居の要件>

夫婦の別居期間が『ア・イ』との対比において相当の長期間に及ぶ
ア 両当事者の年齢イ 同居期間 ※最高裁昭和62年9月2日

3 長期間の別居の判断の枠組み

別居が相当の長期間といえる目安は10年間程度です。当然,別居期間以外の2つの要件も合わせて判断されるので,明確な基準という意味ではありません。
なお,有責性がない一般的な離婚請求では,3〜5年程度の別居期間が,離婚請求が認められる目安です。離婚を請求する者が有責である場合はハードルが上がるということが分かると思います。

<長期間の別居の判断の枠組み>

あ 大まかな目安

10年程度の別居期間が離婚請求を認める目安とされてきた

い 10年を超える別居期間

別居期間が10年を超える事案については
夫婦の年齢や同居期間と対比するまでもなく長期間の別居である
※最高裁昭和62年9月2日
※最高裁昭和62年11月24日
※最高裁昭和63年2月12日
※最高裁昭和63年4月7日
※最高裁平成元年9月7日

う 10年未満の別居期間

別居期間が10年未満の事案については
夫婦の年齢や同居期間と対比する(後記※1
→相対的に長期間の別居であるか否かを判断する
※最高裁昭和63年12月8日
※最高裁平成元年3月28日
※東京高裁平成元年5月11日
※東京高裁平成3年7月16日
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p68,69

え 有責性のないケースの離婚原因(参考)

有責性がない一般的な離婚請求について
3〜5年の別居期間で離婚請求が認められる(離婚原因となる)
詳しくはこちら|長期間の別居期間は離婚原因になる(離婚が成立する期間の相場)

4 別居期間と年齢や同居期間との対比

前記の10年間の別居期間はあくまでも目安です。判例が示した要件としても,年齢と同居期間と比較して判断するということが明記されています。
年齢が若い場合と同居期間が長い場合には,比較的夫婦関係が修復しやすい傾向があります。そこで,離婚を認めるために必要な別居期間長くなる方向に働きます。

<別居期間と年齢や同居期間との対比(※1)

あ 復元可能性が高い事情

ア 夫婦のそれぞれが相当若年であるイ (別居前の)同居期間が長い

い 別居期間の判断

『あ』のいずれかに該当する場合
→復元可能性が強い
→相対的に長い別居期間が要求される
※『最高裁判所判例解説民事篇 昭和62年度』法曹会p584〜

5 別居開始の理由や相手の有責性の影響

別居期間はあくまでも3要件のうちの1つに過ぎません。個別的な事情によっては離婚を認めるために必要な別居期間は大きく違ってきます。
実際の裁判例の中で,特殊事情によって,1年半の別居期間で(有責配偶者の)離婚請求を認めたものがあります。
判断に大きく影響した事情は,妻(離婚請求の相手方)が自宅の鍵を交換して夫を締め出したということです。

<別居開始の理由や相手の有責性の影響>

あ 事案(概要)

同居期間=18年半
別居期間=1年半
離婚請求の相手方(妻)が自宅の鍵を交換したことにより別居が開始した
(いわゆる『締め出した』状態)
有責配偶者(夫)が離婚請求訴訟を提起した

い 裁判所の判断

別居に至った理由は妻の実力行使にある
妻にも一定の有責性がある
→夫の離婚請求を認めた
※札幌家裁平成27年5月21日
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求を認めた事例(裁判例)の集約

6 別居中の夫婦の交流と破綻の有無(別の結論の裁判例)

別居の内容が通常とは異なるケースもあります。夫と妻が別の場所で暮らしてはいても,たまに会っているというものです。
妻と,別の女性との2重生活が20年以上続いたという裁判例を2つ紹介します。夫と妻の愛情(を示す行動)があるかどうかで結論が逆になっています。このように,似ている事情でも裁判所の判断が真逆になることがあるのです。

<別居中の夫婦の交流と破綻の有無(別の結論の裁判例)>

あ 共通する事情

夫は高い社会的地位を持ち,収入も大きかった
夫が妻以外の女性と同居していた(有責行為)
(形式的な)別居期間が20年以上に達していた
夫はたまに妻の居住する建物を訪問し泊まっていた(調停申立後も継続)

い 愛情あり→離婚請求棄却

夫から妻へプレゼント・礼状を渡していた
夫と妻は一緒に映画鑑賞や食事をすることがあった
→夫婦関係の破綻(一般的な別居)ではない
→離婚請求を認めなかった
※東京高裁平成9年2月20日
詳しくはこちら|別居中の夫婦の交流により破綻を否定した裁判例(有責配偶者の離婚請求棄却)

う 愛情なし→離婚請求認容

『い』のような事情はなかった
→夫婦の交流は世間体に配慮した形式的なものであった
→夫婦関係の破綻(長期間の別居)があるといえる
→離婚請求を認めた
※大阪高裁平成4年5月26日
詳しくはこちら|別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた裁判例(有責配偶者の離婚請求認容)

本記事では,有責配偶者からの離婚請求を認めるための要件の1つである長期間の別居について説明しました。
実際には,個別的な細かい事情や,主張と立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に有責配偶者の離婚請求に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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