1 既婚と知って交際した者からの慰謝料請求
2 当事者の整理(前提)
3 既婚者の男女交際の状況による責任の違い
4 既婚オープン型の婚外女性からの慰謝料請求(基本)
5 婚外女性からの慰謝料請求を認める条件(昭和44年最判)
6 昭和44年最判の評釈
7 既婚を知って交際した者からの慰謝料請求を認める典型的事情
8 既婚者と知って交際した者からの慰謝料請求の裁判例(概要)
9 既婚者オープン型交際における婚約不履行

1 既婚と知って交際した者からの慰謝料請求

既婚者が配偶者以外の異性と交際すると、不倫(不貞)として、法的な責任が生じます。
詳しくはこちら|不倫の慰謝料の理論(破綻後・既婚と知らないと責任なし・責任を制限する見解) 通常は、不貞相手は慰謝料を支払う側です。しかし、事情によっては、不貞相手が被害者として慰謝料を請求することが認められることがあります。
本記事では不貞相手から交際相手(既婚者)への慰謝料請求について説明します。

2 当事者の整理(前提)

まずは、登場人物の関係性がややこしいので整理しておきます。夫Aと妻以外の女性Bが交際した(性的関係をもった)という状況です。妻Cは被害者というのが原則的な立場です。
なお、説明の便宜上このように設定しましたが、男女が逆のケースでも法的扱いは同じです。

<当事者の整理(前提)>

あ 当事者

既婚男性(夫)=A
婚外女性(不貞相手)=B
正妻(被害者)=C

3 既婚者の男女交際の状況による責任の違い

既婚者の男女交際については状況によって法的責任が大きく違ってきます。
要するに婚外女性Bが既婚と知っていたかどうか、がポイントです。既婚ステータスを開示していたか、していなかったかで違うのです。
ただし実際には既婚を知っていたかどうかはハッキリしないケースが多いです。
そこで、女性Bが慰謝料を請求したのに対し、既婚男性Aが、既婚であると最初から説明していたと反論する構図がよく生じます。
ここで裁判所が「既婚と知っていた」と認定するとどうなるでしょうか。
以下、既婚であることがオープンであったという前提での法的な扱いについて説明を続けます。

既婚者の男女交際の状況による責任の違い

あ 既婚ステータス不開示

婚外女性Bが『Aは既婚者』とは知らなかった
知っていたらBはAと交際しなかった
Bは精神的苦痛を受けた
BはAに対して慰謝料を請求する
詳しくはこちら|既婚を隠した交際・恋愛は慰謝料が認められやすい|恋愛市場の公正取引

い 既婚ステータスオープン

婚外女性Bは「Aは既婚者である」と知っていた
A・Bの関係は不貞行為になる
A・Bの行為により、正妻Cは精神的苦痛を受けた
CはA・Bに対して慰謝料を請求する
詳しくはこちら|不倫の慰謝料の理論(破綻後・既婚と知らないと責任なし・責任を制限する見解)

4 既婚オープン型の婚外女性からの慰謝料請求(基本)

既婚ということを知っていたことを前提にします。
婚外女性Bから既婚男性Aに対する慰謝料請求を認めると、不貞という不法行為を裁判所が助長してしまうことになってしまいます。そこで、以前は裁判所はこれを否定していました。
しかし、昭和44年の最高裁判例が、一定の状況があれば、婚外女性からの慰謝料請求を認める判断を示しました。

既婚オープン型の婚外女性からの慰謝料請求(基本)

あ 原則=請求できない

不倫(性的関係)は不貞行為であり違法性がある
→女性Bによる既婚男性Aへの慰謝料請求は、違法な者の請求である
→裁判所は不法には助力しない
→慰謝料請求は認めない
※民法708条類推適用
※東京地裁昭和58年10月27日
※大判昭和15年7月6日

う 例外=請求できる

一定の事情により例外的に慰謝料請求が認められることもある(後記)
※最判昭和44年9月26日

5 婚外女性からの慰謝料請求を認める条件(昭和44年最判)

実際の不貞行為では、既婚の男性が女性と関係をもつために、嘘をつくケースがとても多いです。そうすると、不貞相手の女性は、加害者というよりも、だまされた被害者という立場もあるといえます。
結局、加害者と被害者の両方の立場があるので、バランスによって慰謝料請求ができるかどうかが決まります。

婚外女性からの慰謝料請求を認める条件(昭和44年最判)

あ 判例の文言

女性が、男性に妻のあることを知りながら情交関係を結んだ
情交の動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合で
男性側の情交関係を結んだ動機、詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し
女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには
貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰藉料請求は、許される。
※最判昭和44年9月26日

い 要約した判断基準

交際する動機について
女性の違法性と比べて男性の違法性が著しく大きい

う 過失相殺

女性の違法性の程度によって
過失相殺により慰謝料が減額されることが多い

6 昭和44年最判の評釈

前述のように、昭和44年判例は、婚外女性からの慰謝料請求を認めるかどうかは、違法性のバランスによって決める、という判断を出しました。これについて賛成する学説も多いです。そのひとつとして、本妻(正妻)と愛人(妾)の泥仕合という様相があるので本来裁判所が介入する問題ではない、ということを前提としつつ、(男性が)うぶな女性を騙したというケースでは慰謝料を認めるべきだ、という指摘があります。

昭和44年最判の評釈

あ 原則

この判決(昭和44年最判)についても賛否両論があるが、少し考えればわかるように、先の配偶者からの慰謝料請求と相手方からの慰謝料請求は、相互に相殺しあう関係にある。
つまり、夫の不倫相手の女性から慰謝料を請求された妻が、逆に慰謝料を請求して取り返すという具合である。
これでは、本妻と愛人(妾)の泥仕合であって、いちいち法がかかわるべき問題とも思えない
したがって、原則的には慰謝料請求権を否定すべきではないかと思われる。
それが、自らの主体的判断で不貞行為に荷担した相手方の主体性を尊重することにもなろう。

い 例外(特殊事情)

ただし、設例のようなケース(昭和44年最判をベースとした設例)は、男がうぶな女性を騙したというケースであり、慰謝料請求を認めるべき特別な事情がある事案だといえる。
※内田貴著『民法Ⅳ 補訂版』東京大学出版会2004年p27

7 既婚を知って交際した者からの慰謝料請求を認める典型的事情

昭和44年判例の基準は、違法性のバランスで判定する、というもので、これだけでは抽象的で分かりにくいです。実際に、婚外女性(不貞相手)からの慰謝料請求が認められる事情の典型例をまとめます。

既婚を知って交際した者からの慰謝料請求を認める典型的事情

あ 慰謝料請求を肯定する方向性

「い・う」のような事情がある場合
→婚外女性からの慰謝料請求が認められる方向に働く

い 既婚男性が悪質な嘘を言っていた

既婚男性が『結婚の状態』を解消する内容の嘘を言っていた
「事実上離婚している」
「長期化別居している」
「妻子と会っていない」
「夫婦間で離婚することを合意している」

う 既婚男性が事実上婚外女性を支配している

仕事上の上下関係がある
年齢差が大きい

8 既婚者と知って交際した者からの慰謝料請求の裁判例(概要)

実際に既婚者であると知って交際した者から慰謝料を請求したケースの裁判例を、別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|既婚者と知って交際した者からの慰謝料請求の裁判例(肯定と否定の事例) 実例をみれば、どのような事情があれば慰謝料請求が認められるのか、ということがよりよく分かると思います。

9 既婚者オープン型交際における婚約不履行

以上は、だまされて貞操を侵害されたということで慰謝料を請求することについての説明でした。これと少し違って、既婚者が婚約をするというケースもあります。普通に考えてちょっとおかしいですが、理論的には将来離婚が成立すれば本当に婚姻(結婚)できるといえます。
そこで、状況によっては婚約が成立した(有効)ということを前提として、その婚約が不当に破棄された、して扱われる、つまり婚約破棄の慰謝料が認められることもあります。

既婚者オープン型交際における婚約不履行

あ 結婚の約束と破棄

既婚男性Aと婚外女性Bが結婚の約束をした
既婚男性Aがこの約束を破った
婚外女性Bは婚約不履行により損害を受けた
BはAに対して損害賠償(慰謝料)請求を行った

い 原則=婚約不成立

重婚は法律上、認められていない
実現不可能な合意(約束)である
この合意は無効である
→損害賠償請求は認められない

う 例外=婚約成立

AがCと離婚してBと再婚する可能性があった場合
→損害賠償請求が認められる
※東京地裁平成17年10月31日
詳しくはこちら|婚約成立のためには『婚姻の実質的成立要件』は必要ではないが例外もある

本記事では、既婚者と交際(性的関係)をした者から既婚者に対する慰謝料請求について説明しました。
現実には、主張や立証次第で結果が大きく違ってきます。
実際に既婚者の男女交際に関する具体的問題に直面している方は、本記事の内容だけで判断せず、弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。