【弁護士の汚職行為禁止規定の各要件(文言)の解釈】

1 弁護士の汚職行為の各要件の解釈
2 『受任している事件』の意味と解釈
3 『事件』の意味と解釈
4 事件に『関し』の意味と解釈
5 『相手方』の意味と解釈
6 利益の収受・要求・約束の意味と解釈

1 弁護士の汚職行為の各要件の解釈

弁護士法26条は,弁護士の汚職行為を禁止しています。
典型例は相手方から利益を受領するような行為です。
詳しくはこちら|弁護士は相手方から利益を受領できない(汚職行為禁止の全体像)
実際には,このような分かりやすい典型例ばかりではありません。
汚職行為に該当するかどうかがはっきりしないケースもあります。
本記事では,汚職行為に該当するかどうかに関わる細かい要件の解釈を説明します。

2 『受任している事件』の意味と解釈

弁護士法26条の汚職行為は『受任している事件』の相手方からの利益の受領などのことです。
この『受任している事件』は,一般的に,受任中と解釈されます。
受任していない(受任前)や受任した業務の完了後は該当しません。

<『受任している事件』の意味と解釈>

あ 基本的な解釈

『受任している事件』とは
現に受任して処理している事件をいう
※最高裁昭和36年12月20日
※仙台高裁昭和30年12月8日

い 受任の前後の一般的解釈

『ア・イ』は『受任している事件』には含まない
ア 将来受任を予定している事件イ 過去に受任して処理を終えた事件 例=和解契約成立後,和解金の授受までは終了していない
※仙台高裁昭和30年12月8日
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p220

う 受任の前後の古い見解(反対説)

『い』の事件は『受任している事件』に該当することもある
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣1996年p193

3 『事件』の意味と解釈

前記の『受任している事件』の中の『事件』の意味は,広く解釈される傾向があります。

<『事件』の意味と解釈>

あ 『事件』の解釈

『事件』とは,弁護士法3条に基づいて弁護士が行う職務全般をいう
争訟になっている事件に限定されない
ただし,利害の対立がないと『相手方』に該当しない(後記※1

い 顧問契約の具体例

顧問契約を締結している場合について
『事件を受任している』といえることがある
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p220

なお,『事件』を紛争性のあるものに限定する見解もあります。
そのような見解でも,『相手方』の解釈として実質的な利害の対立が必要であると解釈しています。
つまり『事件』か『相手方』のどちらかで一定の紛争性を要求するので,見解による違いはないといえるでしょう。

4 事件に『関し』の意味と解釈

汚職行為は,事件に『関し(て)』利益の受領などをした行為です。
この『関し』の意味は,受任している事件(前記)と受領した利益などの経済的な耐火性(関連性)です。
常識的な日本語の解釈といえます。

<事件に『関し』の意味と解釈>

あ 事件と利益の関連性(前提)

利益は,受任している事件に関して受理されなければ違反とならない

い 『関し』の解釈

利益弁護士の受任事件との間に対価的関連性があることをいう
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p221

5 『相手方』の意味と解釈

汚職行為に該当するのは,『相手方』からの利益の受領などです。
この『相手方』は,実質的な利害の対立によって判断します。
原告と被告,のような形式的な対立関係とは別です。

<『相手方』の意味と解釈(※1)

あ 『相手方』の解釈

依頼を受けている事件の当事者と実質的に利害が対立する者をいう

い 『相手方』に該当する具体例

ア 事件の相手方本人イ 実質的に『ア』と同視できる程度の利害対立状況にある者 ※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p221

う 『相手方』に該当しない具体例

弁護士が紛争関係にない複数当事者のために法律事務を処理する場合
例=裁判外のいわゆる『調整役』業務
→『相手方』は存在せず,弁護士の汚職禁止の規定を適用する余地はない
※旧弁護士倫理51条
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣1996年p192

6 利益の収受・要求・約束の意味と解釈

汚職行為の本質的な部分は利益を受領するところです。
実際に受領しなくても,依頼者の信頼を失う状況もあります。
そこで利益の受領だけではなく,利益の要求と受領する約束も汚職行為として規定されています。
規定も解釈も,刑法の収賄罪と同様です。

<利益の収受・要求・約束の意味と解釈>

あ 『利益』の解釈

人の需要or欲望を満たすに足りる一切の利益をいう
財産的利益に限らない

い 財産的な利益の具体例

ア 報酬,謝礼イ 実費弁償の性質を有するもの 例=日当,旅費など
※最高裁昭和36年12月20日
※仙台高裁昭和30年12月8日

う 財産以外の利益の具体例

ア 饗応イ 地位の供与 例=顧問会社の紹介
ウ 情交

え 収受・要求・約束の意味
収受 利益を受け取ること
要求 利益の交付を求めること
約束 利益授受の合意のこと

※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p221

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