【協議と賛助や依頼の承諾による弁護士の受任の利益相反】

1 協議や依頼の承諾による弁護士の受任の利益相反

弁護士が依頼を引き受ける(受任)することについては、一定の制限があります。
代表的なものは、利益相反による受任の制限です。
職務を行い得ない事件として弁護士法25条に規定されています。
この中でも特によく問題となるものが、法律相談を受けた事案と依頼を承諾した事案に関するものです。
本記事では、この利益相反の規定や解釈について説明します。

2 協議と賛助or依頼の承諾による利益相反の規定

最初に、受任を制限する規定の条文の内容をまとめます。

協議と賛助or依頼の承諾による利益相反の規定

あ 規定の内容

『ア・イ』に該当する事件について
→弁護士はその職務を行ってはならない
ア 相手方の協議を受けて賛助した事件 主に法律相談である
イ 相手方から依頼を承諾した事件

い 同意による適用除外(なし)

依頼者の同意による適用除外はない
※弁護士法25条1号

3 『相手方』の具体例

前記の規定で受任ができなくなるのは既に『相手方』と一定の関係がある場合です。
この『相手方』の解釈が問題となることがあります。
典型例は訴訟の敵対当事者のことです。

『相手方』の具体例

あ 典型例

民事訴訟における原告と被告との関係

い 他の関係を有する者(概要)

実質的な利害関係の有無で判断される
形式的な対立する状況だけで判断されるわけではない(後記※1

4 『相手方』の意味と解釈

弁護士が受任することを制限される『相手方』の解釈にはいくつかの見解があります。

『相手方』の意味と解釈(※1)

あ 古い判例の解釈

『相手方』とは、争議の相手方である
※大判昭和12年7月不明

い 現代の裁判例

『ア・イ』のいずれかに該当する関係(がある者)
ア 現に相反する利害をもつ当事者間(においてある法律行為をなす)イ 一定の紛争を前提とする法律上の利害相反する当事者 ※水戸地裁昭和34年5月27日

う 弁護士会の見解

同一案件における事実関係において利害の対立する状態(え)にある当事者
民事・刑事を問わない

え 利害対立の内容

利害の対立は実質的なものでなければならない
形式上は利害対立するようにみえても実質的な争いがない場合
→『相手方』に該当しない
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p185

紛争として対立関係が具体化されているものは問題なく『相手方』に含まれます。
そして、現在の一般的な解釈としては、実質的に利害が相反する関係にある関係者まで含まれます。
このように、『相手方』に該当するかどうかの基準はやや抽象的です。
そこで、以下、具体的事例についての判断(裁判例)を紹介します。

5 破産者と債権者の利益相反(否定)

破産者と債権者が破産申立をするという状況では、目的が同一であるという理由で、利害の対立はないと判断されました。
ただし、特殊な事情も判断に影響しています。

破産者と債権者の利益相反(否定)

あ 目的の同一性

自己破産の申立人と破産申立をする債権者について
いずれも財産の公平な分配を求めることを目的とする

い 『相手方』の判断(否定)

『相手方』に該当する関係ではない

う 特殊事情の影響

ただし、特殊事情があった
一般的に同じ判断になるとは限らない
※東京高裁昭和39年3月13日

6 共有物分割訴訟の共有者相互の利益相反(肯定)

共有物分割において希望が異なる共有者同士の関係について、利害の対立がある(弁護士法25条1号の「相手方」に該当する)と判断されました。
これは常識的な感覚として当然といえるでしょう。

共有物分割訴訟の共有者相互の利益相反(肯定)

あ 形式的形成訴訟の特徴(実質非訟・弁論主義の制限)

共有物分割訴訟は形式的形成訴訟である=形式上は訴訟事件であるが、実質は非訟事件である
裁判所の裁量が大きい
当事者の主張(希望)は裁判所を拘束しない
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の性質(形式的形成訴訟・処分権主義・弁論主義)

い 利害の対立→あり

・・・共有地分割請求の訴においては分割の方法を主張することは訴の要件ではないのみならず、当事者がこれを主張しても裁判所はその申立に拘束されることなく実質を審査し、民法の規定に従つて分割を実現すべきものであるから、形式上は訴訟事件であつてもその実質は非訟事件であつて、通常の訴訟におけるが如き原告と被告の対立はないということができるであろうが、共有者間に分割の方法について争があり、利害の衝突が起り得ることは勿論であるから、共有物分割の訴訟事件には弁護士法第二五条の適用がないということはできない
※東京高判昭和38年1月31日

実際には、共有物分割では共有者がいくつかのグループに分かれることが多いです。
同一グループ、つまり協力体制の共有者の間には利害の対立はありません。
実際に同一の弁護士(法律事務所)がまとめて受任することが多いですし、合理的です。

7 訴訟参加人と原告or被告との利害相反(概要)

民事訴訟で、原告・被告以外の者が当事者となる訴訟参加という制度があります。
訴訟参加があると、訴訟の当事者が3人となります。
この場合、参加人と原告や被告との関係は、現実的に、敵対することもあれば、協力する状況もあります。
弁護士の受任制限における利益相反に該当するかどうかについても、実質的な関係によって判断されます。
詳しくはこちら|訴訟参加人と原告や被告との利害相反(弁護士の受任の利益相反)

8 調停後の権利承継と元敵対当事者からの受任(利益相反否定)

紛争の対象となっている権利が譲渡・承継されることがあります。
このようなケースでは、実質的な利害対立の有無の判断は複雑になります。
調停成立後に権利承継があった時点で、弁護士が元敵対当事者から依頼を受けた事案があります。
裁判所は利害の対立はないと判断しています。

調停後の権利承継と元敵対当事者からの受任(利益相反否定)

あ 調停の遂行と成立

A・B間の調停事件において
弁護士XはAの代理人であった
調停が成立した

い 請求異議の訴えの受任

Cは、調停に基づく契約上の権利を譲り受けた
弁護士Xは、Bの代理人となった
Bは請求異議の訴えを提起した

う 裁判所の判断

弁護士XとCとの間には協議・賛助・依頼の承諾の関係はない
→利益相反に該当しない
※最高裁昭和40年4月2日;弁護士法25条1号、2号について

9 和解後の権利承継と元敵対当事者からの受任(利益相反否定)

即決和解(現行法の訴え提起前の和解)が成立した後に権利が承継されたケースです。
権利承継の後に、弁護士が元敵対当事者から依頼を受けたのです。
裁判所は利害の対立はないと判断しています。

和解後の権利承継と元敵対当事者からの受任(利益相反否定)

あ 即決和解の遂行と成立

A・B間の即決和解(訴え提起前の和解)において
弁護士XはAの代理人であった
和解調書が作成された

い 請求異議・強制執行停止の受任

Cは、Aから和解に基づく権利を譲り受けた
弁護士Xは、Bの代理人となった
Bは請求異議の訴えの提起・強制執行停止の申立をした

う 裁判所の判断

弁護士XとCとの間には協議・賛助・依頼の承諾の関係はない
→利益相反に該当しない
※大阪高裁昭和36年9月4日

本記事では、弁護士の利益相反による受任制限のルールについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断は違ってきます。
実際に弁護士にどのように依頼するか、といった問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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