1 厚生労働省の調査結果としての『ブラック』事例
2 ブラックと言われる『ひどい行為』の正体は違法行為である
3 便乗ブラックの例

1 厚生労働省の調査結果としての『ブラック』事例

別のコラムにて,『ブラック』企業たるものについて検討しました。
<→コラム;便乗ブラック;適法なビジネスも低賃金繁忙ブラックなのか!?
<→コラム;『ブラック企業』という用語に異議あり〜法規違反or価値観の相違,を峻別しよう〜
ここでは,具体例を用いて検討を進めたいと思います。

(1)厚生労働省の『使い捨て』調査

より具体的に考えるために,『ブラック』の例を挙げます。
ちょうど最近,厚生労働省が公的に調査を行っています。
『ブラック』とは言わずに『若者の『使い捨て』』という表現を使っています。
なんか『ブラック』よりも刺激的に思えます。

<厚生労働省の調査結果の紹介>

平成25年12月17日
若者の使い捨てが疑われる企業等への重点監督の実施状況
―重点監督を実施した約8割の事業場に法令違反を指摘―
<→厚生労働省のHP上の調査結果

この調査結果で,『違反・問題等の主な事例』として報告されているものを次にまとめます。
その後の分析のために,事例の番号と短いネーミングを付けます。

<『違反・問題等の主な事例』by厚生労働省>

・長時間労働等により精神障害を発症したとする労災請求があった事業場で、その後も、月80時間を超える時間外労働が認められた事例
 →『事例1;時間外80時間』
・社員の7割に及ぶ係長職以上の者を管理監督者として取り扱い、割増賃金を支払っていなかった事例
 →『事例2;名ばかり管理職』
・営業成績等により、基本給を減額していた事例
 →『事例3;基本給減額』
・月100時間を超える時間外労働が行われていたにもかかわらず、健康確保措置が講じられていなかった事例
 →『事例4;時間外100時間』
・無料電話相談を契機とする監督指導時に、36協定で定めた上限時間を超え、月100時間を超える時間外労働が行われていた事例
 →『事例5;時間外100時間』
・労働時間が適正に把握できておらず、また、算入すべき手当を算入せずに割増賃金の単価を低く設定していた事例
 →『事例6;割増賃金加算不足』
・賃金が、約1年にわたる長期間支払われていなかったことについて指導したが、是正されない事例
 →『事例7;賃金不払』

(2)違法性をピックアップ

これらの事例が,具体的に抵触する法律上の規定をまとめます。

<『事例』の違法性をまとめてみた>

呼称(上記) 労働時間 賃金不払 不利益変更禁止 健康確保措置義務違反
条文→ 労基法32条 労基法24条 労働契約法9条 労働安全衛生法66条の8第4項
罰則→ 懲役(法定刑)→ 6か月 ※1 ※2
罰則→ 罰金(法定刑)→ 30万円 30万円
罰則の条文 労基法119条1号 労基法120条1項
事例1 時間外80時間
事例2 名ばかり管理職
事例3 基本給減額
事例4 時間外100時間
事例5 時間外100時間
事例6 割増賃金加算不足
事例7 賃金不払

※凡例;『☓』=違反,違法
※1 
直接の罰則はありません。
しかし,所定労働時間の変更が無効なので,変更を前提とした労働時間は違法(超過)となります。
※2
直接の罰則はありません。
しかし,労働案線衛生法に違反することにより違法です。

なお,以上の違法性は上記の特別法に関するものだけです。
少なくともいずれも民事上も違法となります。
不法行為による損害賠償や安全配慮義務違反などに該当します(民法709条,415条)。

2 ブラックと言われる『ひどい行為』の正体は違法行為である

<『ブラックの正体』の結論>

違法行為を行う会社

単に違法ですべてカバーされるのです。

3 便乗ブラックの例

消費税増税に便乗して値上げが行なわれることが散見されます。
ブラックも同じだと思います。
違法ではないのに『ブラック』と言われる事例と定義します。
ブラックと言われるべきではないと思います。
しかしブラックと言われるシーンを見かけることがあるのです。
そんな例をまとめます。

便乗ブラックをまとめてみた>

あ 仕事の密度が濃い

残業はなく,わずかにあったとしてもキッチリ残業代は支給されるので違法ではない。
→やりがいがあるだけでしょう。

い 上司と何となく性格が合わない,改善提案を持っているのに話しかけてきてくれない

いわゆるパワハラというような嫌がらせを受けているわけではない。
→これは過剰な要求,期待でしょう。

う 将来性がない

現時点で賃金の不払いとか減給がなされているわけではない。
→これは従業員としての働く会社の選択の問題でしょう。

このテーマについては別に論じているコラムをご覧ください。
<→コラム;便乗ブラック;適法なビジネスも低賃金繁忙ブラックなのか!?
<→コラム;『ブラック企業』という用語に異議あり〜法規違反or価値観の相違,を峻別しよう〜

条文

[労働基準法]
(賃金の支払)
第二十四条  賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
○2  賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

(労働時間)
第三十二条  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2  使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

(休日)
第三十五条  使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
○2  前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条  使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○2  前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
○3  使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
○4  使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○5  第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

第百十九条  次の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一  第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第一項ただし書、第三十七条、第三十九条、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者
二  第三十三条第二項、第九十六条の二第二項又は第九十六条の三第一項の規定による命令に違反した者
三  第四十条の規定に基づいて発する厚生労働省令に違反した者
四  第七十条の規定に基づいて発する厚生労働省令(第六十二条又は第六十四条の三の規定に係る部分に限る。)に違反した者

第百二十条  次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一  第十四条、第十五条第一項若しくは第三項、第十八条第七項、第二十二条第一項から第三項まで、第二十三条から第二十七条まで、第三十二条の二第二項(第三十二条の四第四項及び第三十二条の五第三項において準用する場合を含む。)、第三十二条の五第二項、第三十三条第一項ただし書、第三十八条の二第三項(第三十八条の三第二項において準用する場合を含む。)、第五十七条から第五十九条まで、第六十四条、第六十八条、第八十九条、第九十条第一項、第九十一条、第九十五条第一項若しくは第二項、第九十六条の二第一項、第百五条(第百条第三項において準用する場合を含む。)又は第百六条から第百九条までの規定に違反した者
二  第七十条の規定に基づいて発する厚生労働省令(第十四条の規定に係る部分に限る。)に違反した者
三  第九十二条第二項又は第九十六条の三第二項の規定による命令に違反した者
四  第百一条(第百条第三項において準用する場合を含む。)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者
五  第百四条の二の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者

[労働安全衛生法]
(作業の管理)
第六十五条の三  事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。

(面接指導等)
第六十六条の八  事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。
2  労働者は、前項の規定により事業者が行う面接指導を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合において、他の医師の行う同項の規定による面接指導に相当する面接指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
3  事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項及び前項ただし書の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
4  事業者は、第一項又は第二項ただし書の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
5  事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
第六十六条の九  事業者は、前条第一項の規定により面接指導を行う労働者以外の労働者であつて健康への配慮が必要なものについては、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を講ずるように努めなければならない。

[労働安全衛生規則等の一部を改正する省令]
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-112-1-0.htm
(面接指導の対象となる労働者の要件等)
 第五十二条の二 法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当た
  り四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり百時間を超え、かつ、疲労
  の蓄積が認められる者であることとする。ただし、次項の期日前一月以内に面接指導を受けた労働者
  その他これに類する労働者であつて面接指導を受ける必要がないと医師が認めたものを除く。
 2 前項の超えた時間の算定は、毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならない。

[労働契約法]
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条  使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。