【非上場株式の株価算定・評価:相続税・贈与税の例外適用実務】
1 非上場株式の株価算定・評価:相続税・贈与税の例外適用実務
非上場株式(未上場株式)の株価算定(評価)には、いろいろな評価方式があり、また、状況によって使う評価方式は異なります。
詳しくはこちら|非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド
相続税や贈与税の計算をする状況では、財産評価基本通達を使うのが原則ですが、これを使わないケースもあります。本記事では、相続税、贈与税の算定における、非上場株式の例外的な株価算定(評価)について説明します
2 非上場株式評価の場面分類と判断基準
(1)基本的な評価方式→財産評価基本通達(概要)
非上場株式の評価は、株式を取得した者の同族関係(議決権割合)、評価対象会社の規模(従業員数・総資産価額・取引金額)、会社の業種等によって適用する計算方法が決まっています。同族株主等が取得する場合は原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式)、同族株主等以外の株主が取得する場合は配当還元方式を適用します。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)
(2)例外的取扱いが必要な場面
財産評価基本通達の単純適用では適切な評価ができないケースもあります。
具体的には、開業前・開業3年未満・休業中の会社、比準要素数0の会社、土地保有特定会社、株式保有特定会社に該当するケースです。
さらに重要なのが総則6項の適用です。財産評価基本通達6項のことで、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という規定です。これは原則どおりに財産評価基本通達どおりに評価すると妥当な金額にならない場合に、例外的に不動産鑑定評価額や専門家による時価評価額を使う、というものです。要するに、例外的な個別評価をする、というルールです。
3 例外的取扱いが必要な場面での評価戦略
(1)総則6項適用の判断と対応
最高裁令和4年4月19日判決により、総則6項の適用基準が明確化されました。
同判決では、租税負担の軽減を意図した不動産購入・借入について財産評価基本通達により画一的な評価を行うことが、他の納税者との租税負担の公平に反する場合に総則6項が適用されると判示されています。
相続開始後の株式売却の事実のみをもって総則6項を適用することは平等原則に反するとして、国の更正処分を取り消しています。">詳しくはこちら|財産評価基本通達6項(相続税評価の例外)の適用基準(令和4年最決)と回避策
非上場株式特有の6項適用場面としては、相続開始直前の組織再編による評価額の意図的な引下げ、実質的に経営権移転がないにもかかわらず配当還元方式を適用するための形式的な同族関係の解消、会社分割や現物出資を利用した評価額操作等が挙げられます。これらの取引については、経済的合理性の有無と租税回避目的の存在を総合的に判断し、総則6項適用リスクを慎重に検討する必要があります。
(2)特定会社・特殊状況での評価選択
開業3年未満、土地保有特定会社等では純資産価額方式の強制適用となりますが、同族株主以外の株主が取得する場合は配当還元方式との選択適用が可能です。土地保有特定会社の判定では、相続開始前における資産構成の意図的変動がないかを検討し、租税回避目的と認定されるリスクを回避する必要があります。
組織再編に伴う株式評価の特殊性については、合併・分割・株式交換等の前後で評価方法が変わる場合の継続性確保が重要です。特に、組織再編により特定の評価会社に該当することとなった場合は、その該当性判定における合理的理由の存在を明確にし、総則6項適用を回避するための論拠を整備しておくべきです。株式保有特定会社については、簡易評価方法(S1+S2方式)の選択適用も検討し、最も適切な評価方法を選択する戦略が求められます。
(3)通達想定外ケースでの個別対応
財産評価基本通達が想定していない特殊な状況では、個別の時価算定が必要となります。
新興企業における知的財産の価値評価、特殊な事業モデルを有する会社の収益力評価、清算価値と継続企業価値が大きく乖離する場合等では、専門家による詳細な企業価値評価が不可欠です。
裁判例で示された評価手法の活用として、DCF法による収益価値評価、市場価値倍率法、修正純資産価額法等が適用された事例があります。これらの手法を採用する場合は、前提条件の合理性と計算過程の透明性を確保し、税務調査において十分な説明ができる体制を整備することが重要です。また、複数の評価手法による検証を行い、評価額の妥当性を多角的に検討することで、課税庁との争点を予防する効果が期待できます。
4 税務調査での争点予測と立証戦略
(1)単純適用と例外適用の境界線での争点
税務調査における非上場株式評価の争点は、評価方式の選択の適否、特定の評価会社該当性の判定、総則6項適用の是非に集約されます。会社規模区分の判定における従業員数・総資産価額・取引金額の算定方法、特定の評価会社の判定における資産構成比率の計算、同族株主等の判定における議決権の帰属関係等が頻繁に問題となります。
これらの争点では、通達の条文解釈と具体的事実の当てはめが焦点となるため、関連資料の網羅的な収集と整理が不可欠です。特に、判定基準日における正確な数値の確定と、その根拠となる会計帳簿・決算書類・株主名簿等の証拠書類の完備が求められます。
(2)評価方式選択の合理性を示す立証方法
選択した評価方式が会社の実態を最も適切に反映している理由を具体的に説明する必要があります。類似業種比準方式を選択した場合は、評価会社の事業内容と類似業種との比較可能性、純資産価額方式を選択した場合は、資産・負債の個別評価の妥当性を立証します。併用方式の場合は、併用割合の根拠となる会社規模区分の正確性を証明することが重要です。
これらの立証には、決算書類の詳細分析、事業内容の具体的説明資料、同業他社との比較分析等の資料が有効です。評価に関する全ての判断根拠を文書化し、第三者による検証にも耐え得る客観性と合理性を確保することが必要です。
(3)専門家意見書の効果的活用法
公認会計士・税理士による株式評価意見書の作成が有力な立証手段となります。意見書では、評価手法選択の根拠、計算過程の詳細、評価額の妥当性検証を客観的・専門的見地から記載します。特に、複数の評価手法による検証結果、感応度分析、市場環境との整合性等を含めることで、評価の信頼性を高めることができます。
また、純資産価額方式における個別資産評価の根拠としては、不動産鑑定士による土地・建物の鑑定評価書、知的財産評価の専門家による特許・商標等の価値評価書等も重要な役割を果たします。
総則6項適用リスクの抑制のためには、取引の経済的合理性と事業目的を明確に説明できる体制を整備し、租税回避目的ではないことを積極的に立証する戦略が求められます。
本記事では、相続税・贈与税の算定における非上場株式の株価算定・評価について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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