【非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)】
1 非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)
非上場株式(未上場株式)の株価算定(評価)には、いろいろな評価方式があり、また、状況によって使う評価方式は異なります。
詳しくはこちら|非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド
本記事では、株価算定方法の1つである国税庁方式(財産評価基本通達)について説明します。
2 国税庁方式の特徴
非上場株式は上場株式と異なり、市場での取引価格が存在しないため、相続や贈与の際の課税において、適正な評価額を算定する必要があります。この評価は、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて行われ、一般的に「国税庁方式」と呼ばれています。
国税庁方式では、取引相場のない株式(上場株式および気配相場等のある株式以外の株式)の評価方法を体系化されており、株主の立場や会社の規模に応じて複数の算定方式を使い分けることが特徴です。
3 国税庁方式の仕組み
(1)株主によって評価方法が変わる
国税庁方式では、株式を取得する株主の立場によって評価方法が大きく分かれます。
同族株主等が株式を取得する場合は「原則的評価方式」が適用されます。同族株主等とは、会社の経営支配力を持つ株主のことで、具体的には同族関係者の議決権割合が30%以上の会社における同族関係者や、同族関係者以外でも5%以上の議決権を有する株主などが該当します。
一方、少数株主が株式を取得する場合は「配当還元方式」という特例的評価方式が適用されます。少数株主は会社の経営に大きな影響を与えることができないため、主に配当を受け取ることが株式保有の目的と考えられることから、この方式が設けられています。
(2)会社の規模による3つの区分
原則的評価方式が適用される場合、評価対象となる会社の規模によってさらに評価方法が決まります。会社規模は、従業員数、総資産価額、取引金額(売上高)の3つの要素によって判定され、大会社、中会社、小会社の3つに区分されます。
大会社は従業員数70人以上の会社、または従業員数が70人未満でも一定の総資産価額や取引金額の基準を満たす会社が該当します。
中会社は大会社と小会社の中間に位置する会社で、さらに大・中・小の3段階に細分化されます。
小会社は最も小規模な会社が該当し、多くの中小企業がこの区分に分類されます。
この会社規模区分によって、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはこれらの併用方式のいずれを適用するかが決定されます。
4 類似業種比準方式
(1)どんな方式か
類似業種比準方式は、評価対象の非上場会社と事業内容が類似している上場企業の株価を基準として、非上場株式の評価額を算定する方法です。この方式は主に大会社で使用され、上場企業の客観的な市場価格を参考にすることで、より合理的な評価を行うことを目的としています。
類似業種は、日本標準産業分類に基づいて評価会社の業種を特定し、国税庁が公表している「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」を用いて決定されます。国税庁は定期的に類似業種の株価や財務データを公表しており、これらの公式データを使用することで評価の統一性と客観性が保たれています。
(2)計算の流れ(3ステップ)
類似業種比準方式による算定は、以下の3つのステップで行われます。
ステップ1では、評価会社の業種に対応する類似業種を特定します。国税庁の対比表を使用して、日本標準産業分類から適切な類似業種を見つけ出します。
ステップ2では、3つの要素で評価会社と類似業種を比較します。
具体的には、1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額(帳簿価額)について、評価会社の数値を類似業種の数値で割って比率を算出します。この際、利益金額については3倍の重み付けが行われ、計算式は「(配当比率+利益比率×3+純資産比率)÷5」となります。
ステップ3では、類似業種の株価に前述の比率を乗じ、さらに斟酌率(調整率)0.7を適用して最終的な評価額を決定します。この斟酌率は、非上場株式が上場株式と比べて流通性に劣ることを考慮した調整要素です。
(3)計算例(シンプルな例)
製造業を営むA社(大会社)の評価例で計算の流れを確認します。
類似業種の株価が500円、配当金額6円、利益金額30円、純資産価額300円とします。A社の1株当たり配当金額が3円、利益金額が20円、純資産価額が200円の場合、各比率は配当比率0.5(3÷6)、利益比率0.67(20÷30)、純資産比率0.67(200÷300)となります。
比準要素の計算は「(0.5+0.67×3+0.67)÷5=0.67」となり、類似業種比準価額は「500円×0.67×0.7=234円」となります。
実際の計算では、1株当たりの資本金等の額が50円と異なる場合の調整も必要になりますが、このような手順で評価額が算定されます。
5 純資産価額方式
(1)どんな方式か
純資産価額方式は、評価時点で会社が解散した場合に株主に分配される財産の価値に着目した評価方法です。この方式は主に小会社で使用され、会社の実際の資産価値から負債を差し引いた純資産を基準とするため、会社の清算価値を反映した評価となります。
この方式では、会社の貸借対照表上の資産・負債を相続税評価額に洗い替えて時価評価を行います。帳簿価額ではなく相続税法上の評価額を用いることで、より実態に近い純資産価額を算定することができます。特に土地や有価証券などの資産については、取得時から評価時点までの価格変動が適切に反映されます。
(2)計算の流れ(3ステップ)
純資産価額方式による算定は、以下の3つのステップで進められます。
ステップ1では、会社の各資産を相続税評価額により時価評価します。土地は路線価や固定資産税評価額、建物は固定資産税評価額、有価証券は相続税評価額、その他の資産についても相続税法の定めに従って評価し直します。負債についても評価時点での実際の金額で計上します。
ステップ2では、評価差額(含み益)に対する法人税等相当額を計算します。相続税評価額による純資産価額から帳簿価額による純資産価額を差し引いた評価差額に、37%の税率を乗じて法人税等相当額を算出します。これは、会社を清算した場合に含み益に対して課される法人税等を考慮したものです。
ステップ3では、相続税評価額による純資産価額から法人税等相当額を控除し、これを発行済株式数で割って1株当たりの純資産価額を算定します。
(3)計算例(シンプルな例)
製造業を営むB社(小会社)の評価例で確認します。
B社の総資産の帳簿価額が1億円、負債が3,000万円で、帳簿上の純資産は7,000万円とします。各資産を相続税評価額で評価し直した結果、総資産が1億3,000万円、負債が3,000万円となり、相続税評価額による純資産は1億円となります。
評価差額は1億円-7,000万円=3,000万円となり、法人税等相当額は3,000万円×37%=1,110万円となります。
最終的な純資産価額は1億円-1,110万円=8,890万円となり、発行済株式数が1,000株の場合、1株当たりの純資産価額は8万8,900円となります。
6 配当還元方式
(1)どんな方式か
配当還元方式は、非上場株式を所有することによって受け取る1年間の配当金額を基準として株式の価値を評価する方法です。この方式は同族株主等以外の少数株主が株式を取得する場合に適用される特例的な評価方式です。
少数株主は会社の経営に参画する機会が少なく、株式を保有する主たる目的は配当を受け取ることと考えられます。そのため、会社の資産内容や類似業種との比較ではなく、配当金に着目した簡便な評価方法が採用されています。一般的に、この方式による評価額は原則的評価方式よりも低くなる傾向があります。
(2)計算方法
配当還元方式による評価額は、年配当金額を10%で還元(10倍)して算定します。年配当金額は、直前期と前々期の2年間の配当金額の平均値を使用します。
計算式は「配当還元価額=(年配当金額÷10%)×(1株当たりの資本金等の額÷50円)」となります。ただし、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の年配当金額が2円50銭未満の場合や無配の場合は、年配当金額を2円50銭として計算します。
なお、年配当金額の計算に際しては、特別配当や記念配当など非経常的な配当は除外し、経常的な配当のみを対象とします。中間配当がある場合は、中間配当と期末配当の合計額が年間配当金額となります。
(3)なぜこの方式があるのか
配当還元方式が設けられている理由は、少数株主の実情に配慮したものです。少数株主は議決権の行使により会社経営に影響を与えることが困難であり、株式を保有していても事実上は配当を受け取ることが主たる経済的利益となります。
そのため、会社の総合的な企業価値を反映する原則的評価方式ではなく、株主にとっての実質的な経済価値である配当に着目した評価が適切と考えられています。この方式により、少数株主の株式については相続税や贈与税の負担が軽減される効果があります。
7 どの方式を使うか
(1)判定フロー
非上場株式の評価方式を決定するためのフローは以下のとおりです。
まず、株式を取得する者が同族株主等に該当するかどうかを判定します。同族株主等に該当する場合は原則的評価方式を適用し、該当しない場合は配当還元方式を適用します。
原則的評価方式が適用される場合は、次に会社規模を判定します。従業員数が70人以上の場合は大会社となり、70人未満の場合は総資産価額・従業員数と取引金額の組み合わせにより大会社、中会社(大・中・小)、小会社のいずれかに分類されます。
会社規模が確定したら、大会社は類似業種比準方式、中会社は併用方式、小会社は純資産価額方式をそれぞれ原則として適用します。ただし、いずれの場合も純資産価額方式との選択適用が認められており、評価額が低くなる方式を選択することができます。
(2)併用方式
中会社では、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定の割合で組み合わせた併用方式が適用されます。この併用割合は会社規模の細分化に応じて決められており、中会社の大では「類似業種比準方式90%+純資産価額方式10%」、中会社の中では「類似業種比準方式75%+純資産価額方式25%」、中会社の小では「類似業種比準方式60%+純資産価額方式40%」となります。
小会社についても、原則的な純資産価額方式に加えて「類似業種比準方式50%+純資産価額方式50%」の併用方式を選択することができます。実務上は、両方の方式で計算を行い、評価額が低くなる方式を採用するのが一般的です。
8 実務での注意点
非上場株式の評価を行う際には、いくつかの重要な注意点があります。
評価時点については、相続の場合は相続開始日、贈与の場合は贈与日が原則となります。ただし、純資産価額方式では原則として評価時点で仮決算を行う必要がありますが、直前期末から評価時点までに著しい変動がない場合は、直前期末の決算数値を使用することも認められています。
評価に必要な資料としては、決算書、法人税申告書、株主名簿、定款などが挙げられます。特に類似業種比準方式では法人税の課税所得金額が必要となるため、法人税申告書の確認が不可欠です。
9 まとめ
国税庁方式による非上場株式の評価は、株主の立場と会社規模によって適用される算定方式が体系的に決められています。
同族株主等は原則的評価方式として、大会社では類似業種比準方式、中会社では併用方式、小会社では純資産価額方式をそれぞれ適用します。一方、少数株主は配当還元方式という特例的評価方式を適用することで、一般的により低い評価額となります。
各算定方式にはそれぞれ特徴があり、類似業種比準方式は上場企業との比較による客観性、純資産価額方式は会社の実際の資産価値の反映、配当還元方式は少数株主の実情への配慮といった意図があります。
本記事では、国税庁方式による非上場株式の株価算定方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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