【非上場株式の株価算定・評価:純資産価額方式】

1 非上場株式の株価算定・評価:純資産価額方式

非上場株式(未上場株式)の株価算定(評価)には、いろいろな評価方式があり、また、状況によって使う評価方式は異なります。
詳しくはこちら|非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド
非上場株式の評価方式の1つである純資産価額方式は、会社の清算価値に着目した評価方法であり、主に小規模な会社の同族株主が株式を取得する場合に使います。本記事では、純資産価額方式について説明します。

2 純資産価額方式の考え方

純資産価額方式は、「仮に会社を解散させた場合に、株主に返ってくる金額」を基準として株式の価値を算定する方法です。この方式は、会社の清算価値に着目した評価方法であり、会社が保有する個々の資産を相続税評価額により評価し直して算出します。

純資産価額方式の考え方

(注・(修正)純資産方式について)
③は、貸借対照表から算出される1株当たり純資産額に何らかの修正を加えて株価を算定する方法であるが(復成原価基準、解体価値基準等による修正を行う)、復成原価は、会社につぎ込まれたコストを表すにすぎず、収益力とは関係ないし、解体価値は、本件決定(注・広島地決平成21年4月22日)も述べるとおり、継続企業の評価方法としては相応しくない。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

3 基本的な計算式と仕組み

(1)純資産価額方式の計算式

純資産価額方式の基本的な計算式は以下のとおりです。

<純資産価額方式の計算式>

1株当たり純資産価額 = (相続税評価額による純資産価額 – 評価差額に対する法人税等相当額)÷ 発行済株式数

この計算式において最も重要なのが、「評価差額に対する法人税等相当額」の控除です。これは通称「37%控除」と呼ばれ、含み益に対する法人税等を事前に控除する仕組みです。

(2)評価差額に対する法人税等相当額の計算

評価差額に対する法人税等相当額は、次の算式により計算します。
(相続税評価額による純資産価額 – 帳簿価額による純資産価額)× 37%
37%という割合は、法人税、地方法人税、事業税、特別法人事業税、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合です。この控除率は法人税率の改正に伴い変更されており、平成28年4月1日以降は37%、改正前は38%でした。

(3)37%控除の趣旨

この控除が認められている理由は、二重課税排除の趣旨によるものです。個人が相続により非上場株式を取得する場合、非上場株式に相続税が課されます。一方、会社の清算時も清算所得に対して法人税が課税されます。両者の均衡を図る必要があるため、評価差額に対する法人税等相当額を控除することとされています。

(4)議決権割合による調整

株式の取得者とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の50%以下である場合、算定した1株当たりの純資産価額に80%を乗じて計算した金額により評価します。これは、議決権の過半数を有しない株主の影響力が限定的であることを反映した調整です。

4 具体的な計算手順(5ステップ)

純資産価額方式による株価算定は、以下の5つのステップで行います。

(1)Step1:帳簿価額による純資産価額の算定

まず、帳簿価額による貸借対照表を作成します。これは、評価をしようとする日を含む事業年度の直前期の決算書を使用します。例えば、毎年3月31日が決算の会社で、令和4年1月1日の評価額を計算したい場合は、令和3年3月31日時点の貸借対照表を使用します。
帳簿価額による純資産価額は、総資産から総負債を差し引いて算定します。ただし、ここでいう帳簿価額は、会計上の帳簿価額ではなく、法人税法の規定に基づいて税務調整を行った後の帳簿価額を使用します。

(2)Step2:相続税評価額による資産の評価替え

次に、各資産を相続税評価額により評価し直します。主要な資産の評価方法は以下のとおりです。

<相続税評価額による資産の評価替え>

あ 土地

路線価または固定資産税評価額に倍率を乗じて評価する
ただし、課税時期前3年以内に取得した土地等の価額は、課税時期における通常の取引価額相当額で評価する

い 建物

固定資産税評価額により評価する
ただし、課税時期前3年以内に新築した家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額相当額で評価する

う 上場株式

課税時期の終値等により評価する

え 預貯金

課税時期の残高に経過利息を加算した金額で評価する

お 売掛金・貸付金

帳簿価額により評価する

評価額を0円とする資産もあります。前払費用や繰延資産(創立費、開業費等)、繰延税金資産は、財産性がないものとして評価額をゼロとします。これらは換金価値のない資産であるためです。

(3)Step3:相続税評価額による負債の確定

負債については、原則として帳簿価額により評価します。主な負債の取扱いは以下のとおりです。

<相続税評価額による負債の確定>

あ 買掛金、借入金

帳簿価額により評価する

い 未払税金

課税時期現在の金額により評価する

う 退職給付債務

課税時期における要支給額により評価する
ただし、貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金その他の引当金及び準備金に相当する金額は負債に含まれない

(4)Step4:純資産価額と評価差額の算定

相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産価額を算定し、その差額である評価差額を計算します。

<純資産価額と評価差額の算定>

相続税評価額による純資産価額 = 相続税評価額による総資産価額 – 負債の金額の合計額
帳簿価額による純資産価額 = 帳簿価額による総資産価額 – 負債の金額の合計額
評価差額 = 相続税評価額による純資産価額 – 帳簿価額による純資産価額

この評価差額に37%を乗じて、法人税等相当額を計算します。ただし、評価差額がマイナスの場合は、法人税等相当額は0円となります。

(5)Step5:1株当たり純資産価額の算定

最後に、法人税等相当額控除後の純資産価額を発行済株式数で除して、1株当たりの純資産価額を算定します。

<1株当たり純資産価額の算定>

1株当たり純資産価額 = (相続税評価額による純資産価額 – 法人税等相当額)÷ 発行済株式数

なお、発行済株式数からは自己株式数を控除します。また、株式の取得者とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の50%以下である場合は、算定した金額に80%を乗じます。

5 評価上の重要な注意点

純資産価額方式による評価を行う際には、以下の重要な注意点があります。

(1)課税時期前3年以内取得土地等の特例

評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等及び家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額相当額で評価しなければなりません。これは、適正な株式評価という観点から、通常の取引価額がわかるのであれば、それを使用するのが妥当であるという考えに基づいています。
この特例の対象となる取得等の日は以下のとおりです。

<特例による取得日>

他の者から取得した土地等、家屋等 原則として引き渡し日 自ら建築または製作した家屋等 建設または製作の完了日 請負により建設等した家屋等 家屋等の引き渡し日

建物の増築があった場合、旧建物部分は固定資産税評価額で評価しますが、増築部分は新築と同様に取り扱われるため、通常の取引価額で評価します。

(2)有価証券の重複評価の禁止

評価対象会社が所有する他の非上場会社の株式の評価を行う場合において、純資産価額方式によるときは、評価差額に対する法人税等相当額の37%控除をすることができません。37%控除ができるのは、評価対象会社を評価するときの1回だけであり、その評価会社が所有する他の非上場会社の株式を評価する際に重ねて37%控除することはできません。
同族会社のオーナーが複数の非上場会社のオーナーであり、非上場会社同士が株式を持ち合っているケースも多数見受けられますので、この点には十分な留意が必要です。

(3)生命保険関係の取扱い

評価会社が被相続人の死亡を保険事故として受け取る生命保険金については、その生命保険請求権を資産に計上しなければなりません。同時に、保険差益に対する法人税等相当額については負債に計上することができます。
保険差益に対する法人税等相当額は、次の算式により計算します。
(受取生命保険金額 – 保険積立金 – 退職手当金)× 37%
保険差益が生じない場合(保険差損の場合)には、保険差益に対する法人税を計上する必要はありません。また、評価会社が欠損会社の場合は、保険差益から繰越損失額を差し引いて法人税等を計算します。

(4)財産性のない資産の取扱い

前払費用や繰延資産、繰延税金資産は、財産性がないものとして、評価額はゼロとして評価を行います。これらの資産は帳簿上は資産として計上されていますが、実際に現金化することができないため、純資産価額方式による評価では除外されます。
具体的には、創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費などの繰延資産や、前払費用、繰延税金資産などが該当します。

6 計算例とチェックポイント

(1)簡易計算例

以下の条件で純資産価額方式による1株当たりの評価額を計算してみます。

<簡易計算例>

あ 前提条件

・帳簿価額による純資産:5,000万円
・相続税評価額による純資産:8,000万円
・発行済株式数:1,000株
・議決権割合:60%(80%調整なし)

い 計算過程

①評価差額:8,000万円 – 5,000万円 = 3,000万円
②法人税等相当額:3,000万円 × 37% = 1,110万円
③控除後純資産:8,000万円 – 1,110万円 = 6,890万円
④1株当たり価額:6,890万円 ÷ 1,000株 = 68,900円

この例では、1株当たりの純資産価額は68,900円となります。

(2)計算時の重要なチェックポイント

純資産価額方式による計算を行う際は、以下の点を必ずチェックしてください。

<計算時の重要なチェックポイント>

あ 評価時点の統一

すべての資産・負債を同一の課税時期で評価しているか確認する

い 資産評価の適用基準確認

各資産が適切な評価基準で評価されているか、特に3年以内取得土地等の特例適用の要否を確認する

う 法人税等相当額の計算確認

評価差額の計算に誤りがないか、37%の控除率が正しく適用されているか確認する

え 議決権割合の正確な判定

株式の取得者とその同族関係者の議決権割合を正確に把握し、80%調整の適用要否を判定する

7 よくある計算ミスと対策

純資産価額方式による計算では、以下のようなミスが発生しやすいため注意が必要です。

(1)資産評価でのミス

土地評価において、路線価の適用誤りや地積・形状の考慮不足が生じることがあります。特に、課税時期前3年以内に取得した土地等について、通常の取引価額での評価を行わず、誤って路線価で評価してしまうケースが見受けられます。
建物評価では、固定資産税評価額の確認不足により、古い評価額を使用してしまうことがあります。また、増築部分について新築と同様の取扱いが必要であることを見落とすケースもあります。
有価証券の評価では、評価基準日の誤りにより、適切な時価で評価されないことがあります。上場株式の場合は課税時期の終値等を使用する必要があります。

(2)37%控除の適用ミス

評価差額がマイナスの場合に控除額を0円とすることを見落とし、マイナスの控除額を計上してしまうことがあります。評価差額に対する法人税等相当額は、評価差額がプラスの場合のみ計上します。
他の非上場株式への重複適用により、37%控除を二重に適用してしまうケースがあります。37%控除は評価対象会社の評価時に1回のみ適用可能です。
控除率について、法改正前の42%や38%を使用してしまうことがあります。平成28年4月1日以降は37%が正しい控除率です。

(3)株式数・議決権割合の誤り

自己株式の除外を忘れ、発行済株式数に自己株式数を含めて計算してしまうことがあります。1株当たりの純資産価額を算定する際は、発行済株式数から自己株式数を控除する必要があります。
同族関係者の範囲認定を誤り、議決権割合の計算に誤りが生じることがあります。同族関係者には配偶者、直系血族、兄弟姉妹、これらの者の配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族が含まれます。
80%調整の適用判定において、株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計数が50%以下であるにもかかわらず、調整を行わないケースがあります。

(4)対策のポイント

これらのミスを防ぐためには、専門家によるダブルチェックが有効です。税理士等の専門家に計算過程を確認してもらうことで、計算ミスを未然に防ぐことができます。
また、評価根拠資料の保存も重要です。土地の路線価図、建物の固定資産税評価証明書、有価証券の時価証明書等、評価の根拠となる資料を適切に保存しておく必要があります。
計算過程の文書化により、後日の検証や税務調査への対応が可能となります。各ステップの計算根拠を明確に記録しておくことが重要です。
関連法令の最新情報確認も欠かせません。税法改正により評価基準や控除率が変更される可能性があるため、常に最新の法令を確認する必要があります。

本記事では、非上場株式の株価算定方法である純資産価額方式について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に非上場株式の株価算定・評価に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【非上場株式の株価算定・評価:収益方式(DCF法と配当還元法)】
【非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)】

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