【非上場株式の株価算定・評価:収益方式(DCF法と配当還元法)】

1 非上場株式の株価算定・評価:収益方式(DCF法と配当還元法)

非上場株式(未上場株式)の株価算定(評価)には、いろいろな評価方式があり、また、状況によって使う評価方式は異なります。
詳しくはこちら|非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド
非上場株式の評価方式の1つである「収益方式」は継続企業としての本源的価値を測定する最も理論的で実用性の高い評価手法として位置づけられています。
本記事では、収益方式の基本的な考え方から具体的な算定手法、実務上の課題まで、体系的に説明します。

2 収益方式の理論的基礎

収益方式(インカム方式)は、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローや利益を現在価値に割り引くことで株式価値を算定します。この手法の根底には、資本は時間の経過とともにその価値が増殖する性質を持つという考え方があります。将来のキャッシュフローを現在価値に換算する際には、リスクを勘案した割引率(資本コスト)を用います。
継続企業を前提とする収益方式では、企業が永久に事業を継続することを想定し、その期間中に生み出される価値の総和を現在価値で評価します。

収益方式の理論的基礎

(注・インカム方式について)
①は、当該株式から株主が将来得られると期待されるリターンを、当該株式に固有のリスクを勘案した割引率(期待収益率)で現在価値に引き直す方法であり(江頭憲治郎『株式会社法〔第3版〕』[2009]15頁)、当該株式の個性に着目した本源的価値を計測しようとする方法だからである。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

3 DCF法(ディスカウンテッドキャッシュフロー法)による株価算定

(1)DCF法の基本構造

DCF法は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー加重平均資本コスト(WACC)で現在価値に割り引くことで企業価値を算定する手法です。企業価値は事業価値と非事業価値の合計で表され、株主価値は企業価値から有利子負債を控除して算出されます。DCF法では通常5年程度の事業計画期間のキャッシュフローと、それ以降の継続価値(ターミナルバリュー)を合算して事業価値を求めます。

DCF方式の説明(平成21年広島地決)

(i)「DCF方式は、将来のフリー・キャッシュ・フロー(=企業の事業活動によって得られた収入から事業活動維持のために必要な投資を差し引いた金額)を見積り、年次ごとに割引率を用いて求めた現在価値の総和を求め、当該現在価値に事業外資産を加算したうえで企業価値を算出し、負債の時価を減算して株式等価値を算出して株主が将来得られると期待できる利益(リターン)を算定する方法であることが認められる。」
※広島地決平成21年4月22日

(2)フリーキャッシュフローの算定

フリーキャッシュフローは企業が事業活動から生み出す自由に使えるキャッシュフローを指します。具体的な計算式は
「営業利益×(1-税率)+減価償却費-設備投資額-運転資本増加額」
となります。
営業キャッシュフローと投資キャッシュフローから算出する方法もありますが、DCF法では前述の計算式を用いることが一般的です。
フリーキャッシュフローは債権者と株主に分配可能なキャッシュフローであり、支払利息は含めません。これは支払利息が事業そのものの費用ではなく、資金調達に関する資本コストであるためです。

(3)割引率(WACC)の算定

WACCは株主資本コストと負債コストを、それぞれの時価による比率で加重平均した資本コストです。計算式は
「WACC=rE×E/(E+D)+rD×(1-T)×D/(E+D)」
で表されます。ここでrEは株主資本コスト、rDは負債コスト、Eは株主資本の時価総額、Dは有利子負債額、Tは実効税率を示します。株主資本コストはCAPM(資本資産評価モデル)により「リスクフリーレート+β×マーケットプレミアム」で算出されます。非上場企業では類似上場企業のβを参照し、必要に応じてサイズプレミアムなどの調整を行います。
裁判所が株価算定をする場面でこの方法を採用すること多いですが、割引率をどのように決定したのかを明示しない裁判例も多いです。
いずれにしても、割引率についての画一的な数値や計算方法はないといえるでしょう。

実務における割引率の決定

(広島地決平成21年4月22日について)
DCF方式にせよ配当還元方式にせよ、インカム方式においては、将来のリターンの予測およびリスクを勘案した割引率の決定が必要であり、特に難しいのは後者である(この点、②の方式は、割引率を類似会社の市場指標から借用するものといえる。(江頭憲治郎「取引相場のない株式の評価」『法学協会百周年記念論文集(3)』[1983]459頁)。
本件決定を含め、割引率をどのように決定したかが判旨から明らかでない裁判例が多いが、M&Aの実務等において多く利用されるのは、資本資産評価モデル(CAPM)の手法を用いるものであり(江頭・前掲株式会社法17頁)、裁判例にも、同手法を用いた例がある
(前掲東京高決平成22・5・24の原決定である東京地決平成20・3・14判時2001号11頁)。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

(4)継続価値の算定

継続価値は事業計画期間終了後の企業価値を表し、DCF法において企業価値の過半数を占めることが通常です。最も一般的な算定方法は永久成長率モデルで、計算式は
「継続価値=FCF×(1+永久成長率)/(WACC-永久成長率)」
となります。
永久成長率は企業が永久に成長し続ける割合を示し、実務上はインフレ率程度の0から1パーセント程度で設定されることが多いです。継続価値の算定においては、減価償却費と設備投資が一致し、運転資本増加額がゼロになると仮定して計算を簡素化します。

4 収益還元法による株価算定

収益還元法は過去数年間の平均利益を基準とし、一定の利益が永続すると仮定して株価を算定する手法です。
計算式は
「株価=(過去数年の平均利益÷資本還元率)÷発行済株式総数」
で表されます。DCF法の簡易版とも呼ばれ、比較的簡単に算定できる特徴があります。将来収益の予測には過去の決算数値等から評価対象会社の将来予想収益を推計し、その将来予想収益を資本還元率で現在価値に割り戻します。この方式は経営支配株主または経営参加株主にとって適当な算定方式とされており、利益がある程度一定となっている安定段階の会社に適用されます。DCF法に比べて株価算定の精度は劣りますが、事業計画の作成が困難な中小企業でも活用しやすい利点があります。

5 配当還元法による評価

配当還元法は株主が企業から受け取る配当金に基づいて株式価値を評価する手法で、実績配当還元法、標準配当還元法、国税庁配当還元法、ゴードンモデル法の4つの方法があります。
実績配当還元法は過去の実際の配当額を使用し、標準配当還元法は業種平均の配当性向により計算された配当額を利用します。
国税庁配当還元法は財産評価基本通達に規定する価額を使用し、過去の実績に基づいた配当額を10パーセントの資本還元率で割り引きます。
ゴードンモデル法は企業の内部留保が再投資されて配当が増加するという仮定に基づき、企業が永久に同じ割合で成長することを前提とした評価手法です。
配当還元法は株主の視点に立った評価方法であり、配当を受け取ることを期待して株式を保有している株主に相応しい算定方式といえます。

配当還元方式の説明(江頭憲治郎氏)

(ii)「配当還元方式とは、将来給付が予測される利益配当額を現在の価値に引き直して株式価値を算定する方法であり(……)、同方式の中には、
①当該企業で実際に行われている配当金額を用いる方法(実際配当還元法)、
②経営者の配当政策により配当額が左右されないよう一般に妥当とされる配当額を用いる方法(標準配当還元法)、
③企業が獲得した利益のうち配当に回されなかった内部留保額は再投資によって将来利益を生み、配当の増加を期待できるものとして評価する方法(ゴードン・モデル方式)
などがある。
……殊に③ゴードン・モデル方式は、上記①②の方式に比較し、収益の内部留保による将来の配当の増加をも計算の基礎に加える点で、より優れているものと評価されている。」
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p44

6 収益方式評価の精度を高める方法

収益方式による評価の精度を向上させるためには、まず信頼性の高い事業計画の策定が重要です。事業計画は予想損益計算書だけでなく予想貸借対照表の作成も必要となり、将来のフリーキャッシュフローを正確に算定するための基礎となります。
事業計画の妥当性については財務デューデリジェンスやビジネスデューデリジェンスを通じて検証することが求められます。類似企業データの活用においては、業界、サービス、規模、収益性などが類似する上場企業を複数選択し、それらの市場価格や財務指標を参考にします。
複数の手法による検証も重要であり、DCF法、収益還元法、配当還元法などを組み合わせて算定結果の妥当性を確認することが推奨されます。

7 適切な収益方式評価のために

収益方式による非上場株式の評価においては、各手法の特徴を理解した上で適切な使い分けを行うことが重要です。
DCF法は理論的に最も優れた手法ですが、将来予測への依存度が高く、事業計画の精度や信頼性が評価結果に大きく影響します。
収益還元法は簡便な手法ですが精度が劣るため、DCF法による詳細な分析が困難な場合の代替手段として位置づけられます。
配当還元法は株主視点での評価が可能ですが、配当政策に左右される特性があります。
いずれの手法においても、客観性と合理性を確保するための十分な検討と検証が不可欠です。評価の恣意性を排除し、適正な株価算定を実現するためには、専門的な知識と経験に基づく慎重な判断が求められます。

本記事では、非上場株式の株価算定のうち、収益方式について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に非上場株式の株価算定・評価に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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