【仮執行宣言の失効と原状回復(民事訴訟法260条)(解釈整理ノート)】

1 仮執行宣言の失効と原状回復(民事訴訟法260条)(解釈整理ノート)

民事訴訟の判決には仮執行宣言がつくことがよくあります。判決が確定しなくても、文字どおり一応執行できるというものです。未確定なので、後で仮執行宣言が失効することもあります。これについて、原状回復義務が条文上定められています。本記事では、このような規定や解釈について整理しました。

2 民事訴訟法260条の条文

民事訴訟法260条の条文

(仮執行の宣言の失効及び原状回復等)
第二百六十条 仮執行の宣言は、その宣言又は本案判決を変更する判決の言渡しにより、変更の限度においてその効力を失う。
2 本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならない。
3 仮執行の宣言のみを変更したときは、後に本案判決を変更する判決について、前項の規定を適用する。
※民事訴訟法260条

3 仮執行宣言の失効(1項)

(1)民事訴訟法260条1項の内容

民事訴訟法260条1項の内容

仮執行宣言は、上級審による仮執行宣言自体の取消し、変更または基本となる仮執行宣言付本案判決の取消し、変更をする判決の言渡しにより、その限度で失効する

(2)失効に該当しない場合

失効に該当しない場合

あ 債権者に有利方向の変更

債権者に有利な変更(条件としての担保提供を無条件にする、担保の額を減額するなど)をする場合

い 訴えの取下・和解による終了

判決の取消し等によらず、訴えの取下げや和解によって訴訟が終了した場合
※大判昭和8年9月29日集12巻2459頁

(3)失効に該当する場合

失効に該当する場合

訴えの併合において主位的請求を認容した原判決を取り消して、予備的請求を認容する場合は、民事訴訟法260条の取消しに当たる
※最判昭和31年12月20日民集10巻12号1573頁(参考)

(4)失効の効果

失効の効果

仮執行宣言の失効とは、執行力が消滅することであり、以後これに基づく強制執行はできなくなる
仮執行宣言付判決に執行文を付与することもできず、仮執行宣言を取り消す判決の正本が執行機関に提出されると、執行機関は強制執行を停止し、執行処分の取消しをしなければならない

(5)失効の効力の不遡及

失効の効力の不遡及

失効の効力は遡及しないため、それまでに強制執行が完了していればその効力は影響を受けない
※大判大正9年11月5日民録26巻1646頁
※大判昭和4年6月1日民集8巻565頁

4 本案判決変更(仮執行制限の失効)による給付物返還・損害賠償義務(2項)

(1)民事訴訟法260条2項の内容

民事訴訟法260条2項の内容

本案判決の変更により仮執行宣言が失効すると、債権者は執行によって取得したものを返還する義務を負い、かつ債務者に損害が発生した場合はこれを賠償する義務を負う

(2)給付物返還・損害賠償義務の法的性質

給付物返還・損害賠償義務の法的性質

あ 給付物の返還の性質

給付物の返還は、一種の不当利得返還義務としての性質をもつ

い 損害賠償の性質(違法性の有無)→2つの見解あり

損害賠償については、広義の不法行為とする見解と、適法行為に基づく法定責任であるとする見解があるが、いずれの見解もこれを無過失責任としている
判例も無過失責任を認めている
※大判昭和12年2月23日民集16巻133頁

(3)相殺禁止規定の適用→なし(不法行為否定)

相殺禁止規定の適用→なし(不法行為否定)

民事訴訟法260条の損害賠償義務は「不法行為によって生じた」債務ではない
これを自働債権とする相殺は許される(民法509条(相殺禁止)の適用はない)
※最判昭和53年12月21日民集32巻9号1749頁

(4)損害賠償の範囲

損害賠償の範囲

損害賠償の範囲は、「仮執行と相当因果関係がある財産上および精神上のすべての損害」である
※最判昭和52年3月15日民集31巻2号289頁

(5)給付物返還および損害賠償請求の主張方法

給付物返還および損害賠償請求の主張方法

あ 別訴での請求→可能

債務者は別訴でこの請求をすることができる
※最判昭和29年3月9日民集8巻3号637頁

い 当該訴訟での請求→可能

当該訴訟の係属中、その訴訟手続内で給付物返還および損害賠償の請求をすることができる(民事訴訟法260条2項)
この申立ては、上告審でも許される
※最判昭和34年2月20日民集13巻2号209頁
※最判昭和45年11月6日集民101号407頁

う 上告審での申立ての制限

上告審で本申立てができるのは、上告審で仮執行宣言付判決が取り消された場合に救済を与えるためであり、仮執行宣言付判決を受けた被告が控訴審の事実審係属中に申立てをすることなく、第一審の本案判決変更の判決を受け、これに対し相手方が上告した場合、上告審で初めて申立てをすることは許されない
※最判昭和55年1月24日民集34巻1号102頁

(6)相手方破産ケース→破産債権の扱い

相手方破産ケース→破産債権の扱い

民事訴訟法260条2項の裁判を求める申立ての相手方が破産手続開始の決定を受けた場合における同申立てに係る請求権は破産債権である
※最判平成25年7月18日集民244号55頁

5 参考情報

参考情報

三角比呂稿/加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール民事訴訟法2』日本評論社2017年p163、164

本記事では、仮執行宣言の失効と原状回復について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に仮執行宣言による強制執行や控訴に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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