【遅延利息の元本への組入れ権(法定重利・民法405条)】
1 遅延利息の元本への組入れ権(法定重利・民法405条)
2 民法405条の条文規定
3 民法405条の法的性質とネーミング
4 利息の元本組入れの基本的具体例
5 遅延利息への民法405条の適用(肯定)
6 利息債務の不履行による損害金の適用除外
1 遅延利息の元本への組入れ権(法定重利・民法405条)
民法405条は,遅延利息を元本に組み入れる方法を定めています。本記事では,遅延利息の元本組入れ権について説明します。
2 民法405条の条文規定
最初に民法405条の条文規定を押さえておきます。
<民法405条の条文規定>
(利息の元本への組入れ)
第四百五条 利息の支払が一年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。
3 民法405条の法的性質とネーミング
民法405条の規定を法定重利とよぶことがあります。しかし,後述のとおり,法律の定めにより(当然に)利息が利息を生じる,というものではありません。債権者の意思表示により効果を生じるメカニズムです。そこで元本への組入れ権という方が正確です。
<民法405条の法的性質とネーミング>
民法405条の制度を法定重利ということがある
しかし,法律の規定によって重利計算が当然に行われるというものではない
より正確には,延滞利息の元本への組入れ権を法定したものというべきであろう
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物権・債権- 第6版』日本評論社2019年p733
4 利息の元本組入れの基本的具体例
条文だけだとシンプルすぎて,どのような状況でどのような効果が生じるのかがわかりにくいです。具体例を挙げておきます。
<利息の元本組入れの基本的具体例>
あ 貸付
100万円の貸付
元本の返済期限=3年後
利息=年8パーセント,半年ごとに(4万円ずつ)支払う
い 元本組入れの意思表示
債務者が1年分(2期分)の利息8万円を支払わない
債権者は支払を催告したが,債務者は支払わない
債権者は,元本組入れの意思表示をした
う 効果
利息8万円が元本になった
以後,108万円に対して年8パーセントの利息が生じる
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物権・債権- 第6版』日本評論社2019年p733
5 遅延利息への民法405条の適用(肯定)
民法405条の条文では『利息』が対象となっていますが,遅延利息もこれに含まれます。この遅延利息とは,金銭債務の不履行によって生じる損害賠償金のことです。
<遅延利息への民法405条の適用(肯定)>
あ 遅延利息の意味(前提)
金銭債権の不履行によって生ずる損害賠償額は遅延利息と呼ばれることが多い
法律上,これを利息と呼ぶことがある
※民法669条など
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ 債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p363
い 昭和17年判例
遅延利息についても民法405条を適用する
※大判昭和17年2月4日
う 学説
遅延利息は元来債務の履行遅滞によって債権者のうけた損害の賠償という性質を有しているが,その損害は債権者が元本の使用によって得べかりし利得の喪失にほかならないから,元本使用の対価たる性質をも有するものということができ,この意味で経済上元本使用の対価として元本債務の弁済期までに生ずる約定利息となんらその取扱いを異にするを要しない。
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅰ 債権(1)債権の目的・効力(1)』有斐閣2003年p363
6 利息債務の不履行による損害金の適用除外
再度,前述の具体例を用います。半年ごとに利息4万円が発生することを想定します。支払日が来たけど債務者は支払いません。利息も金銭債務なので,不履行によって民法419条の損害金が発生するように,素朴に思えます。
しかし,利息債務の不履行には民法405条が適用されます(前述)。このことを裏返すと,民法419条は適用しないという解釈が出てきます。
<利息債務の不履行による損害金の適用除外>
あ 形式的な原則論
債務者が利息をその支払時期に支払わなければ,利息債務の不履行となり,その時から”損害賠償(いわゆる遅延利息の支払)をしなければならないはずである
い 民法405条の適用(前提)
しかし,民法がとくに民法405条を設けて,債権者が一定の条件のもとに利息を組入れる権利を認め,この組入れを行った場合にだけ,延滞した利息に利息がつくものとした
う 反対解釈
(『い』から)
利息は,単にこれを遅滞しただけでは,それについて損害賠償義務を生じないものとする趣旨だと解釈しなければならない
え 趣旨
民法が利息債権についてこのような特例を定めたのは,利息の延滞によって当然に損害賠償の義務を生じるものとすると,あたかも当然の重利を認めることになり,債務者に酷な結果となるからである
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物権・債権- 第6版』日本評論社2019年p733
本記事では,遅滞利息の元本への組入れ権(民法405条)について説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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