1 従業者の判断・責任と事業者の責任との関係
2 従業者の意味と判断基準
3 従業者を広く認める古い判例の事案
4 処罰対象を事業主に限定する/しない規定
5 名宛人限定型の規定形式の例

1 従業者の判断・責任と事業者の責任との関係

いろいろなサービスの提供に関する業法には違反についての罰則が規定されています。
詳しくはこちら|行政刑罰(事業主処罰規定)は刑法の原則とは違う特殊性がある
行政刑罰では,事業に関して従業者(従業員)が行った行為について事業主が責任を負うという事業主処罰規定が多いです。
そこで,実際には,従業者が行った違反行為について,どの事業主が処罰を受けるのかという問題があります。
つまり,事業者はどの事業主に属するのかという判断です。
本記事では,従業者の意味や判断を説明します。
また,従業者と事業主の負う責任(処罰)の関係についても説明します。

2 従業者の意味と判断基準

従業者の基本的な意味は,事業主の監督を受けて事業に従事する者です。
この判断については,雇用形態は直接関係ありません。

<従業者の意味と判断基準>

あ 従業者の基本的な意味

従業者とは
直接・間接に事業主の統制,監督を受けて事業に従事している者をいう
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p144

い 雇用契約の有無との関係

ア 一般的見解
雇用契約による雇人でなくても
事業主の指揮のもとでその事業に従事していれば従業者である
※大判昭和9年4月26日
イ 古い判例
古い判例には『ア』とは異なる見解もある(後記※2)

う 従業者の補助者の立場

事業主が自ら雇い入れたものではなく
事業主の雇人が自己の補助者として使用している者について
従業者である
※大判大正7年4月24日

3 従業者を広く認める古い判例の事案

原則的に,雇用主のように,従業者が直接に属する事業者が事業主になります(前記)。
この点,古い判例では,直接属しない事業者を事業主と認めたものもありました。
現在はこの見解は主流ではありません。あくまでも個別的な指揮監督の関係の有無で判断します(前記)。

<従業者を広く認める古い判例の事案(※1)>

あ 火薬運搬許可に関する事案

運送業者Aが火薬運搬の許可を受けた
Aが運送業者Bに運送業務を委託した
Bの従業者Cが違反行為をした
→Cは運送業者Aの従業者に該当する
AとCとの関係に関わらない
※大判大正2年9月30日

い 火薬使用許可に関する事案

耕地組合Aが火薬使用の許可を受けた
Aが業者Bに工事を委託した
Bの従業者Cが違反行為をした
→Cは耕地組合Aの従業者に該当する
※大判大正13年4月23日

4 処罰対象を事業主に限定する/しない規定

行政刑罰は,大きく,処罰対象を事業主に限定するものと,限定しないものに分けられます。

<処罰対象を事業主に限定する/しない規定>

あ 行政刑罰の種類

行政刑罰の処罰を受ける者の範囲について
行政刑罰の規定は2種類(い・う)に分けられる

い 名宛人非限定型

一般的に何人についても義務が課せられている場合
すべての者が違反の主体となる
例=火薬の運搬・鉄砲の所持

う 名宛人限定型

一定の営業の許可を受けた者が義務の主体とされる
ある事業を営む者(事業主)が義務の主体とされる
→違反の主体は,事業者自身or許可名義人に限られる
個々の従業者は違反の主体にならない
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p145

5 名宛人限定型の規定形式の例

処罰対象を事業主に限定する規定では,行為者自身は処罰されません。
しかし,個別的に両罰規定があれば行為者も処罰されます。
一方,事業主が関与したといえない違反行為については,事業主を処罰することはできません。

<名宛人限定型の規定形式の例>

あ 規定形式の例

『◯条の規定に違反した者』の規定について
事業主が処罰対象である
=名宛人限定型

い 行為者の処罰

原則として行為者は処罰対象ではない
両罰規定がある場合は行為者も処罰対象となる
※最高裁昭和34年6月4日
※最高裁昭和40年5月27日
※最高裁昭和43年4月30日

う 責任のない処罰の否定

『あ』の規定について
事業主が行為者ではない場合
=事業主と行為者が分離している
→刑事の一般理論から,事業主を処罰できない
結局,『あ』の規定は『事業主が行為者である場合』を規定したものである
→行為者は,両罰規定を通じて初めて処罰される
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p146

本記事では,行政刑罰(事業主処罰規定)の従業者についての解釈・判断について説明しました。
実際の事案における罰則の適用に関しては,本記事の説明内容だけで判断できるわけではありません。
実際の問題に直面している方や,新規サービスの提供を検討している方は,弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。