【裁判官の独立と判例理論による拘束と実務的な影響】

1 判例理論の規範性・拘束力(総論)

法令の解釈では判例が非常に重要です。つまり、個々の事案における法令の解釈・適用において判例理論が適用されるのです。
本記事では、判例理論の影響力の法律的な理論を説明します。

2 裁判所/裁判官の独立と拘束

裁判所・裁判官は独立性が保障されています。自由な判断ができるという明確なルールがあります。
判例理論に拘束されることと矛盾するようなルールです。
まずは裁判所・裁判官の独立性についてまとめます。

裁判所/裁判官の独立と拘束

あ 裁判官の独立

裁判官は憲法と法律にのみ拘束される
裁判官は良心に従い独立して職務を行う
※憲法76条3項

い 法律上の例外

同一事件における
上級審の裁判所の裁判における判断について
→下級審の裁判所を拘束する
※裁判所法4条

う 事実上の拘束力

一般的な法令の解釈・適用(後記※1)について
裁判所は最高裁判所の判例に大きく影響を受ける
判例理論に『事実上』拘束される状態といえる(後記※2)

裁判官が判例理論に拘束されるというストレートなルールはないのです。結果的に拘束される状態になるのです。この内容は後述します。

この点は文献でも述べられています。瀬木比呂志氏は、上告受理申立理由を論じるなかで、下級審が従来の判例と異なる判断をすることが制度としてどう扱われているかを次のように書いています。

引用:文献・公開情報

制定法国=先例拘束性の原理はない・異なった判断は制度的に保障

日本は制定法国であり、判例法国である英米法系諸国のような先例拘束性の原理はなく、裁判官は、良心に従い独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される(憲76条3項)とされている。
つまり、下級審裁判官が、この憲法の趣旨により従来の上告審判例と異なった判断を行うことは制度的に保障されている(11)。

※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p707

同じ瀬木氏は、ジャーナリストとの対談でも、制定法国であることから導かれる帰結を平易に述べています。

引用:文献・公開情報

判例に厳密な法的拘束力はない=最高裁と違う判断をしてもよい

日本は大陸法系の制定法国ですから、判例に厳密な法的拘束力はないです。
だから、裁判官は、最高裁と違う判断をしても構わないんです。

※瀬木比呂志著『裁判所の正体』新潮社2017年p317

3 『解釈・適用』の意味

前記の説明の中の『解釈・適用』は、実務では当然に使うありふれた用語です。

『解釈・適用』の意味(※1)

あ 『解釈』の意味

法令の『解釈』とは
法令の各条項の意味内容を明らかにすること

い 『適用』の意味

法令の『適用』とは
法令の各条項を具体的事案にあてはめること
※最高裁判所事務総局総務局『裁判所法逐条解説上巻』法曹会1968年p90

4 判例理論の事実上の拘束力

判例理論の事実上の拘束力が生じるメカニズムを分析します。

判例理論の事実上の拘束力(※2)

あ 法律上の効果(概要)

判例理論に反する判断は排除される
判例理論の変更には最高裁裁判官全員の関与が必要である
詳しくはこちら|判例理論の法的扱い(上告との関係・判例変更の手続)と対象範囲

い 現実的な効果

判例理論はすべての裁判所・裁判官を事実上拘束する
判例理論は変更が困難である(維持される)

う 紛争解決・予防の実務への影響

有利な判例理論の指摘(提出)が有利な結果につながる
=再現可能性の非常に高い解釈(適用)といえる
指摘・提出が不足すると不利な結果につながる
判例理論を前提にして企業活動(事業)・個人の行為が選択・判断される

え ルール生成機能

最高裁がルールを新たに作る機能とみることもできる

判例の指摘で結果を変えるというところは、弁護士のサービスの中の重要なところです。
一方、裁判官は判例を把握しきれていないとか、補足意見の扱いについての理解が不十分という実例もあります。
ますます、弁護士が主張の中でしっかりと指摘できるかどうかで結果に違いが生じるといえます。

法的な拘束力がないことと、実際に従われることは別です。瀬木比呂志氏は、その食い違いを次のように述べています。

引用:文献・公開情報

法的拘束力はないのに唯々諾々と従う傾向

一方、日本の場合には、最高裁の判例には特別な法的拘束力などないということになっているにもかかわらず、実際には、それに唯々諾々と従うという傾向が強い。

※瀬木比呂志著『裁判所の正体』新潮社2017年p319

そして、その状態を「事実上の拘束力」と呼んだうえで、どの類型の事件で強く働くかを示しています。

引用:文献・公開情報

事実上の拘束力=「統治と支配」の根幹にふれる事案ほど強い

まさに、そういう意味で、最高裁の判決は、法的には拘束力はないにもかかわらず、実際には厳然とした事実上の拘束力をもっている。
特に、「統治と支配」の根幹にふれる事案ほどそうである。

※瀬木比呂志著『裁判所の正体』新潮社2017年p320

ここから、説明のしかたについての注意も導かれます。瀬木氏は、拘束力があると述べる説明そのものに問題があるとしています。

引用:文献・公開情報

「法的な拘束力がある」という説明=問題が大きい

その意味では、先例拘束性といっても程度問題であり、また、日本の法制度について、実際には最高裁判例には法的な拘束力がある、などといった説明を行うことには問題が大きい

※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p707

5 判例理論の生成プロセスと内容による違い

前記のように、判例理論は非常に大きな影響力を持つものです。ここで誤解しやすいものがあります。
最高裁の判決・決定の中で『判例理論』として扱われる部分とそうでない部分があるのです。

判例理論の生成プロセスと内容による違い

あ 判例理論の実務的生成プロセス

判例理論は法廷意見に限られる
=レイシオ・デシデンダイと呼ばれる
法廷意見は一字一句の熟慮が徹底される
法廷意見は裁判体(合議体)による判断に限られる

い 判例理論と隔離される情報

補足意見・傍論などについて
→裁判体としての採用を否定されたものといえる
→法廷意見と同様の規範性・拘束力を持たない
詳しくはこちら|判例理論の法的扱い(上告との関係・判例変更の手続)と対象範囲

あらゆる法解釈が複数の立場・利益の調整といえます。安直に規範を加減すると、最高裁として(合議体として)判断した結果とは異なるものになります。当事者の一方(企業や個人)が不測の損失を受けます。
判例理論を基準として信頼し、事業活動や個人の行動を判断するということができなくなります。
判例理論の意味については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|判例理論の法的扱い(上告との関係・判例変更の手続)と対象範囲

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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【最低賃金法の規制と特例許可による緩和】
【判例理論の法的扱い(上告との関係・判例変更の手続)と対象範囲】

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