【著作権・著作者隣接権侵害に対する名誉回復措置請求(基本)】

1 著作権侵害に対する民事的請求(全体・参考)
2 著作者人格権の種類(概要)
3 著作者人格権侵害に対する名誉回復措置請求
4 名誉回復措置請求の具体的内容
5 謝罪広告の内容の具体例
6 名誉回復措置請求の判断基準
7 著作権侵害に対する名誉回復措置請求
8 名誉回復措置請求の実務的傾向
9 名誉回復措置請求の実例(概要)

1 著作権侵害に対する民事的請求(全体・参考)

本記事では,名誉回復措置請求の基本的事項について説明します。
名誉回復措置請求は著作権や著作者人格権侵害についての法的責任の1つです。
法的責任の位置付けは多少複雑です。そこで最初に,著作権や著作者人格権侵害の全体的な法的責任をまとめます。
まずは『著作権』の侵害についての法的責任をまとめます。

<著作権侵害に対する法的責任(全体)>

あ 侵害停止・侵害予防請求

※著作権法112条1項

い 侵害物件の組成物などの廃棄請求

※著作権法112条2項

う 損害賠償請求

※民法709条,710条

え 侵害行為に対する刑事罰

※著作権法119条〜

2 著作者人格権の種類(概要)

前記は『著作権』侵害に対する責任でした。『著作権』とは別に『著作者人格権』があります。
『著作者人格権』の内容の概要をまとめておきます。

<著作者人格権の種類(概要)>

あ 公表権

※著作権法18条

い 氏名表示権

※著作権法19条

う 同一性保持権

※著作権法20条

え みなし規定

次の行為は著作者人格権侵害とみなされる
『著作者の名誉or声望を害する方法によりその著作物を利用する行為』
※著作権法113条6項

3 著作者人格権侵害に対する名誉回復措置請求

本記事の本題である名誉回復措置請求の基本的部分を説明します。
著作権法上,名誉回復措置請求は『著作者人格権』侵害によって生じると規定されているのです。規定の内容を整理します。

<著作者人格権侵害に対する名誉回復措置請求>

あ 請求する者(被害者)

著作者or実演家

い 請求の相手方(加害者)

故意or過失により
著作者人格権or実演家人格権を侵害した者

う 要件

名誉・声望が毀損されたこと(後記※3

え 請求内容

損害の賠償に代えてor損害の賠償とともに
次のことを実現するのに必要な措置を請求できる
ア 著作者or実演家であることを確保するイ 訂正(措置)ウ 著作者or実演家の名誉or声望を回復する

お 法的性質・趣旨

原状回復という性質である
名誉毀損に対する回復措置請求権(民法723条)と同じ趣旨である
※著作権法115条

4 名誉回復措置請求の具体的内容

名誉回復措置請求の具体的内容はいくつかの種類に分けられます。

<名誉回復措置請求の具体的内容>

あ 事実関係の公表(※1)

ア 基本的事項 侵害者において
『イ』の事実関係を明らかにした説明文を作成する
これを公布・頒布するなどの行為
イ 事実関係の内容 『A(著作者)が著作した』

い 謝罪広告

謝罪の意思を表明すること(後記※2

う 訂正

ア 基本的事項 『ウ』の事実関係を関係者に周知する行為
イ 具体例 訂正文を作成,公表する行為
ウ 事実関係の内容 原著作物の表現がどのようなものであったか
原著作物の表現をどのように改変したか
※半田正夫ほか『著作権法コンメンタール3 第2版』勁草書房p604,605

5 謝罪広告の内容の具体例

謝罪広告の内容の具体例を紹介します。実務では交渉などの解決プロセスの初期段階から具体化することが多いです。

<謝罪広告の内容の具体例(※2)

あ 基本的事項

『ア・イ』の書面添付の『謝罪広告目録』として
謝罪広告の内容を明記することが多い
ア 訴状・通知書イ 和解書・合意書

い 謝罪広告目録の内容の具体例

当社は,****と題するウェブサイトを作成,公表しました。その中で,****殿の***と題する写真を修正した上で使用・表示しました。しかし,このことについて***氏の許諾を得ておりませんでした。
この点,著作者である****氏からのご注意を受け,当社は,当該ウェブサイト上の写真の表示を即時中止(削除)いたしました。本件につき著作者****氏にご迷惑を掛けたことをお詫びいたします。

う 補足説明

『い』には,『事実関係の公表』(前記※1)も含まれている

6 名誉回復措置請求の判断基準

名誉回復措置請求を認める条文上の要件は,名誉・声望の毀損という単純なものです。解釈による具体的な判断基準を整理します。

<名誉回復措置請求の判断基準(※3)

あ 基本的事項

謝罪広告を含む名誉回復措置全般について
『い〜お』の事情によって認めるか否かを判断する

い 侵害行為の悪質性

悪質性が高い具体例
=他人の著作物を自己の著作物であると偽って公表した

う 侵害行為の程度・回数(社会的な影響)

社会的な影響が大きい具体例
ア 繰り返し実施されたイ 発行部数が多い場合

え 侵害行為後の状況(原状回復の必要性)

ア 原状回復の必要性が小さい具体例 既に侵害品が回収された
侵害者が自ら誤りを認めて公表している
イ 原状回復の必要性が大きい具体例 侵害者が自らの非を認めていない
例;違法行為がなかったと公言している

お 著作者が求める原状回復の内容

原状回復内容を履行することについて
侵害者の経済的・精神的な負担の程度
※半田正夫ほか『著作権法コンメンタール3 第2版』勁草書房p608

7 著作権侵害に対する名誉回復措置請求

条文の規定上,名誉回復措置請求が認められるのは著作者人格権とされています。この点『著作権』の侵害については見解が統一されていません。

<著作権侵害に対する名誉回復措置請求>

あ 法律上の規定

『著作権』侵害に対する名誉回復措置請求について
著作権法上には規定がない

い 2つの見解

民法723条を根拠とする名誉回復措置請求について
肯定説/否定説がある
肯定説が妥当である
※半田正夫ほか『著作権法コンメンタール3 第2版』勁草書房p597

8 名誉回復措置請求の実務的傾向

実際には,名誉回復措置請求は認められない傾向にあります。もちろんこれは裁判所の判断として,という前提です。任意に応じるということは別問題です。

<名誉回復措置請求の実務的傾向>

あ 名誉回復措置請求一般

著作権・著作者人格権の侵害があったケースにおいて
実際に名誉回復措置請求が認められることは少ない
※半田正夫ほか『著作権法コンメンタール3 第2版』勁草書房p597

い 謝罪広告

謝罪広告までが認められた事例はさらに少ない
※半田正夫ほか『著作権法コンメンタール3 第2版』勁草書房p608

9 名誉回復措置請求の実例(概要)

名誉回復措置請求について裁判所が判断された実例もあります。これについては別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|名誉回復措置請求の実例(市史事件・石垣写真事件)

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