【犯人による犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪の教唆犯|判例は積極説】

1 犯人蔵匿罪/隠避罪|基本
2 証拠隠滅罪|基本
3 教唆犯|基本
4 犯人蔵匿罪×教唆犯|消極説=成立しない
5 犯人蔵匿罪×教唆犯|積極説=成立する
6 犯人蔵匿罪×教唆犯|判例=積極説
7 犯人蔵匿罪×教唆犯|昭和8年大審院|初期の判断
8 犯人蔵匿罪×教唆犯|蓄積された判例

1 犯人蔵匿罪/隠避罪|基本

刑法には『犯罪を隠す』こと自体を犯罪とする規定があります。
本記事では,このような罪と『教唆犯』との組み合わせの解釈論を説明します。
『犯罪を隠す』ことに関する罪の1つは『犯人蔵匿罪/隠避罪』です。
これについてまとめます。

<犯人蔵匿罪/隠避罪|基本>

あ 構成要件

次のいずれかに該当する者を『蔵匿』or『隠避』させた

い 蔵匿・隠避の対象者

ア 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者イ 拘禁中に逃走した者

う 法定刑

懲役2年以下or罰金20万円以下
※刑法103条

2 証拠隠滅罪|基本

『犯罪を隠す』罪としては証拠隠滅罪も挙げられます。

<証拠隠滅罪|基本>

あ 構成要件

他人の刑事事件に関する証拠について次のいずれかの行為をした
ア 証拠を隠滅or偽造or変造したイ 偽造or変造の証拠を使用した

い 法定刑

懲役2年以下or罰金20万円以下
※刑法104条

犯人蔵匿罪/隠避罪,証拠隠滅罪ともに『犯罪者自身』は排除されています。
しかし『教唆犯』となる可能性はあります。
次に『教唆犯』の基本的事項を説明します。

3 教唆犯|基本

『教唆犯』の規定・基本的事項をまとめます。

<教唆犯|基本>

あ 構成要件|教唆犯

人を教唆して犯罪を実行させた

い 構成要件|再教唆

教唆者を教唆した

う 罰則

『正犯の刑』を科する
※刑法61条

要するに『他人に犯罪をさせた』ということです。
『させた者・指示した者』も『犯罪をした者』と同じ罪になるのです。
次に『犯人蔵匿/隠避罪』の『教唆犯』に関する解釈論を説明します。
なお『証拠隠滅罪』も構造的に同様に考えられます。

4 犯人蔵匿罪×教唆犯|消極説=成立しない

犯人による『犯人蔵匿罪の教唆犯』は成立しないという見解を整理します。

<犯人蔵匿罪×教唆犯|消極説=成立しない>

あ 共犯従属性説から

教唆行為も実行行為そのものである
→『犯人による自己の蔵匿・隠匿』行為は犯罪として成立しない

い 期待可能性から

犯人による防御行為の範囲内である
=定型的に期待可能性がない
→この理由により不可罰である

う 法益侵害から

保護法益は『刑事司法作用』である
これを妨害する程度は『他人の介在』があっても変わらない
むしろ『間接的』である分,犯罪性(責任)が軽い
※植松正『刑法概論2 全訂版』p57
※平野龍一『刑法概説』p285
※滝川春雄・竹内正『刑法各論講義』p408
※川端博『基本論点刑法』p270

え 対向犯という性格から

もともと『対抗する当事者の一方のみを処罰する』規定である
『他方』については積極的に処罰を否定する趣旨である
※鈴木享子『犯人に対する犯人教唆罪の成立 警察研究33巻4号』p135
※団藤重光『刑法綱要各論 改訂版』p407

5 犯人蔵匿罪×教唆犯|積極説=成立する

犯人蔵匿罪の教唆犯についての積極説を整理します。

<犯人蔵匿罪×教唆犯|積極説=成立する>

あ 期待可能性から

『他人を関与させる』ことについて『期待可能性がない』とは言えない

い 反社会性から

2つの点で反社会的である
ア 他人の行為を利用して犯罪を実行するイ 他人を堕落させる・犯罪人を作り出す ※泉二新熊『改正日本刑法論』p351〜
※山岡真之助『刑法原理(全)訂正増補17版』p234
※江家義男『刑法各論 増補版』p45
※安平政吉『新修刑法総論』p363

う 対向犯という性格への配慮

犯人隠匿罪は『対抗犯』である
『対抗する当事者の一方のみ』が処罰対象である
『他方』について,積極的に処罰を排除するものではない

6 犯人蔵匿罪×教唆犯|判例=積極説

以上のように積極説・消極説の両方の見解があります。
これについて,判例は統一的に『積極説』が採用されています。

<犯人蔵匿罪×教唆犯|判例=積極説>

犯人が他人を教唆して自己隠避をさせた場合
→判例では犯人隠避罪の教唆犯成立を認めている
この結論は一貫している
=判例は積極説を取っている

具体的な判例については次に説明します。

7 犯人蔵匿罪×教唆犯|昭和8年大審院|初期の判断

犯人蔵匿罪の教唆犯についての初めての判例を紹介します。

<犯人蔵匿罪×教唆犯|昭和8年大審院|初期の判断>

あ 事例

犯人Aが親族Bに身代りを依頼した
Bが捜査機関に出頭して犯人である旨の虚偽の供述をした

い 裁判所の判断

Aの行為は防御の濫用に属する
Aには犯人隠避罪の教唆犯が成立する
※大判昭和8年10月18日

8 犯人蔵匿罪×教唆犯|蓄積された判例

前記の判例以降にも多くの判例が蓄積されています。
これをまとめます。

<犯人蔵匿罪×教唆犯|蓄積された判例>

あ 積極説|全面的

犯人隠避罪の教唆犯は成立する
※大判昭和10年9月28日
※大判昭和11年11月21日
※最高裁昭和35年7月18日
※最高裁昭和40年2月26日
※最高裁昭和43年7月9日

い 積極説|少数意見あり

犯人隠避罪の教唆犯は成立する
裁判官の1人が『否定』の見解を表明した
※最高裁昭和60年7月3日

昭和60年の判例では『反対意見』がありました。
ただし,結論としては従前から変わらず『積極説』で統一されています。

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