【インターネット上の投稿によるわいせつ物陳列罪の行為地(国内犯)の判断】

1 表現系の犯罪|基本・典型例
2 国内犯に関する犯罪行為地の解釈
3 わいせつ物陳列罪×偏在説|不合理性
4 海外サーバーへのわいせつ画像投稿→有罪判例

1 表現系の犯罪|基本・典型例

『表現』については憲法上尊重されています。
しかし一方で『表現』が犯罪となることもあります。
表現に関わる犯罪の基本事項をまとめます。

<表現系の犯罪|基本・典型例>

あ 表現の自由|『表現』の尊重

一般論として『表現』は重視・尊重されている
→国家の介入は『最小限』であることが要請されている
※日本国憲法21条;表現の自由

い 表現の自由|例外

『最小限』の国家の介入は認められている
→一定の範囲を超えた『表現』は規制されている

う 表現系の犯罪|典型例

ア わいせつ物陳列罪イ 児童ポルノ陳列罪ウ リベンジポルノ法違反

詳しくはこちら|児童ポルノ単純所持罪・公然陳列罪(基本・サーバー運営者の責任)
詳しくはこちら|リベンジポルノ法|元恋人とのセクシャル画像のインターネッツ拡散→犯罪

2 国内犯に関する犯罪行為地の解釈

典型的なものは『わいせつ画像・動画』をインターネッツに投稿(うp)することです。
投稿(アップロード)先が『海外のサーバー』である場合には問題が生じます。
まず,児童ポルノ法・リベンジポルノ法には『国外犯』の規定があります。
当然に処罰対象となります。
しかし,わいせつ物陳列罪には国外犯規定がありません。
『国内犯』のみが処罰対象です。
『国内犯』についての解釈論によって違いが生じます。
ここでは『国内犯』の解釈論の概要をまとめておきます。

<国内犯に関する犯罪行為地の解釈(概要)>

行為結果いずれかが国内で生じた場合を国内犯とする
※判例・通説
※大判明治44年6月16日
詳しくはこちら|国内犯|解釈論・基本|インターネッツ経由の賭博系・表現系犯罪

これを前提にして,わいせつ物陳列罪の国内犯の解釈論を次に説明します。

3 わいせつ物陳列罪×偏在説|不合理性

偏在説を前提にわいせつ物陳列罪の対象を考えると不合理な結果となります。

<わいせつ物陳列罪×偏在説|不合理性>

あ 事例

A国で適法な範囲内のエロ画像を投稿(サーバーにうp)した
この画像はA国刑法では適法だが,日本の刑法では『わいせつ物』に該当する(違法)

い 仮説(あてはめ)

日本国内でもこの画像を閲覧することができる
形式的には『偏在説』によると投稿者が『日本の刑法違反=犯罪』となる

う 社会通念の判断(常識論)

インターネッツ上の表現行為については,行為説をとらない限り,世界中の情報発信行為が日本刑法の適用範囲となってしまうという困難な問題がある
※『新基本法コンメンタール刑法』日本評論社p13

形式的に考えると,処罰対象が異様に拡がってしまうのです。各国の主権が及ぶ範囲の問題ともいえます。

4 海外サーバーへのわいせつ画像投稿→有罪判例

実際に,海外サーバー経由の『わいせつ画像陳列』に関する判例を紹介します。

<海外サーバーへのわいせつ画像投稿→有罪判例>

あ 事案

海外プロバイダーにわいせつ画像を投稿した

い 判決

わいせつ物公然陳列罪成立(有罪)

う 重視された点

ア アップロード(うp)の場所=日本国内イ ダウンロード(閲覧)の場所=日本国内を想定していた オンラインの案内がすべて日本語であった
ウ 中継時点=日本国内 会員用ページのプロバイダ(サーバー)が日本国内所在(画像保管の米国内サーバーとは別)
※大阪地裁平成11年3月19日;あまちゅあ・ふぉと・ぎゃらりー事件

このように海外サーバーへの投稿もわいせつ物陳列罪の対象となる傾向があるのです。
この結論はオンラインカジノへの賭博罪の適用とはちょっと異なります。
詳しくはこちら|国内犯|解釈論・基本|インターネッツ経由の賭博系・表現系犯罪

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