【訴訟の信義則・禁反言|別訴訟で反対の事実主張・自身の訴訟行為の無効主張】

1 民法/民事訴訟法上の信義則|信頼を裏切ってはいけない
2 別訴訟で『事実の存在の有無』について反対の主張→原則不可
3 訴訟手続の遂行後に『共同相続人不足による無効』主張→認められない
4 訴訟手続の遂行後に『当事者死亡のため無効』主張→認められない
5 太平洋戦争ごちゃごちゃ時代判決|35年間の休止→訴訟追行権能喪失

本記事では『民事訴訟上の信義則』についてまとめます。

1 民法/民事訴訟法上の信義則|信頼を裏切ってはいけない

民法の根本的なルールの1つに『信義誠実の原則』があります。

<民法上の『信義誠実の原則』|信義則>

当該具体的事情の下において相手方から一般に期待される信頼を裏切ることのないように誠意をもって行動すべきという原則
※民法1条2項
※四宮和夫『民法総則 第4版』弘文堂p30

これは民事的な『権利義務』の解釈一般に広く当てはまる原則です。
この『信義則』の発展編として『民事訴訟』における信義則もあります(民事訴訟法2条)。
民事訴訟の手続上『信頼を裏切る訴訟行為をしてはいけない』ということになります。
信義則の内容はいくつかにカテゴライズされます。
代表的なカテゴリの1つが『自分の過去の行為と矛盾した行為をしない』というものです。
『禁反言(の原則)』と略して呼びます。
以下,民事訴訟上の『禁反言』が判断された判例をまとめます。

2 別訴訟で『事実の存在の有無』について反対の主張→原則不可

2つの別個の訴訟で,ある事実が『ある/ない』と正反対の主張がなされたケースです。

<『事実の存在の有無』について別訴訟で反対の主張>

あ 矛盾する主張

ア 先行する訴訟 ある事実の存在を極力主張・立証した
イ 別の訴訟 一転して同一事実の存在を否認した

い 裁判所の判断|原則論

『訴訟上の信義則』に著しく反する
=無効となる

う 裁判所の判断|例外

ア 特殊事情 ・先行する主張内容の事実が『虚偽』である
・先行する訴訟が『訴えの取下(みなし)』によって終了している
イ 結論 信義則に反しない
=無効とはならない
※民事訴訟法2条
※最高裁昭和48年7月20日

原則的には『禁反言』として『主張できない』という基準が示されました。
ただ,具体的事案の特殊性から例外的に『主張できる』という結論となっています。

3 訴訟手続の遂行後に『共同相続人不足による無効』主張→認められない

訴訟のルールで『複数の者が訴訟に参加することが必須』というケースがあります。
1人でも欠けると『訴訟行為が無効』となるのが原則です。
特殊事情があったために例外的扱いがなされた判例を紹介します。

<訴訟要件を欠く『自身の行為』による無効の主張>

あ 不合理な主張

ア 必要的共同訴訟人の1人が死亡したイ 共同相続人は『受継手続』しなかったウ 共同相続人は控訴申立→控訴審における訴訟行為を遂行したエ 共同相続人は『訴訟行為が無効である』と主張した

い 裁判所の判断

共同訴訟人らは上告審において『訴訟行為の無効』を主張できない
※民事訴訟法2条
※最高裁昭和34年3月26日

4 訴訟手続の遂行後に『当事者死亡のため無効』主張→認められない

訴訟の根本的なルールとして『当事者以外の行為は無効』というものがあります。
これ自体は当たり前の内容です。
実際には『死亡=相続』の時の手続的な『引き継ぐ手続』の不備があったケースで問題になります。
『受継手続』を行っていない場合『当事者以外の訴訟行為』として無効になるのが原則です。
特殊事情があり,これが判断された判例を紹介します。

<『被告の死亡』に異議なく手続を遂行→『無効』の主張>

あ 不合理な主張

訴状に被告として表示されている者が,訴状送達前に死亡した
相続人は,異議を述べずに,被告の訴訟を承継する手続を取った
相続には,第1,2審を通じて,自ら進んで訴訟行為をした

い 裁判所の判断

相続人は『被告が死者である』ことを理由とした『訴訟行為の無効』を主張できない
※民事訴訟法2条
※最高裁昭和41年7月14日

5 太平洋戦争ごちゃごちゃ時代判決|35年間の休止→訴訟追行権能喪失

訴訟の『中断』していた期間があまりに長すぎた,というマンガのような実話です。
背景部分がレア過ぎます。再現可能性はほぼゼロです。
ただ『訴訟上の信義則』の適用事例としては参考になります。

<35年間の『休止』→『再開』はするが『却下』>

あ 戦時中ごちゃごちゃ事態発生

ア 訴訟が提起されたイ 開戦が布告された→太平洋戦争勃発 『布告の有無』の認定は諸説あり『奇襲説』が有力
ウ 日本中がてんやわんやとなったエ 空襲で裁判の資料自体が紛失したオ 当事者も裁判どころではなくなった

い 30年後に『どうなったんだろう,あれ?』

30年以上後に当事者が裁判所に照会した

う 裁判所で案件サルベージ

ア 裁判所で資料を調査した 『訴訟が終了した形跡がない』ことが発覚した
イ 裁判所は『弁論再開決定』を行った

え 裁判所の判断|過程

原告は35年以上にわたり,訴訟進行の措置を取らなかった
→もはや訴訟を追行する権能を失った

お 裁判所の判断|結論

訴えを『却下』した
※民事訴訟法2条
※最高裁昭和63年4月14日

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