【飲酒運転|酒気帯びor酒酔いの違い|自転車にも適用される】

飲酒運転の罪はどのように決まっていますか。
飲酒運転は「酒気帯び」「酒酔い」の2ランクに分けられています。
酒酔いの場合の法定刑は5年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
自転車の飲酒運転も一定の範囲で刑罰の対象となっています。

1 『酒気帯び』と『酒酔い』は違う
2 『酒気帯び』未満の『ほろ酔い』でも「道交法違反」となる
3 飲酒運転の量刑は幅広い
4 自転車でも飲酒運転は禁止だが,罰則は「酒酔い」のみ
5 飲酒運転の結果,『人を負傷させた』場合は一気に罪が重くなる|危険運転過失致死傷罪
6 飲酒運転に関与した者も道交法違反の罰則が適用される
7 過労・薬物影響下での運転に関与した者も『幇助犯』として罰則が適用される
8 飲酒運転中に事故発生→酒がぶ飲み→飲酒運転隠蔽,という裏ワザは封印された|発覚免脱罪

1 『酒気帯び』と『酒酔い』は違う

道交法において,飲酒運転は重い刑罰の対象とされています。
「飲酒運転」は,その程度がさらに分類されています。

<「飲酒運転」の分類>

あ 酒気帯び運転

※道交法117条の2の2第3号,道交法施行令44条の3
(あ)飲酒の程度
 アルコール濃度
 血液1ml中0.3mgまたは呼気1リットル中0.15ml
(い)罰則
 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

い 酒酔い運転

※道交法117条の2第1号
(あ)飲酒の程度
 酒に酔った状態=アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態
(い)罰則
 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金

2 『酒気帯び』未満の『ほろ酔い』でも「道交法違反」となる

道交法上「酒気帯び」は一定の定義があります(上記『1』)。
逆に言えば,『飲酒したけど『酒気帯び』の定義未満』という状態もあるのです。

いわば「ほろ酔い」と言われる状態です。
この場合の道交法の適用は次のようになります。

<『酒気帯び』未満のほろ酔い状態での自動車運転>

あ 道交法65条1項が適用される

「酒気を帯びて車両等を運転してはならない」という禁止規定に違反します。
罰則とは別に,純粋な「禁止規定(規範)」に抵触する,ということです。

い 罰則規定は適用されない

罰則規定は「道交法117条の2の2第3号」と「同法117条の2第1号」の2つです。
「酒気帯び未満」の場合は,いずれにも該当しません(上記『1』)。

結局,「法律違反」であることは間違いないが『刑事罰の対象ではない』という状態です。
ところで「犯罪」は「刑事罰の対象」とされています。
この定義上「犯罪ではない」と言えることになります。

現実の対応としては,「法律違反」に起因する次のような対応がなされる可能性があります。

<「酒気帯び未満」での自動車運転に対する現実的対応の例>

あ 警察官から「注意します」という内容の誓約書へのサインを求められる
い 公的な立場,または雇用関係上,組織内のペナルティや懲戒処分の対象となる

3 飲酒運転の量刑は幅広い

実際に,飲酒運転で検挙され,刑事責任を問われることは多いです。

飲酒運転については,実務上,起訴されて公判(裁判)を受ける可能性は高いです。
一方で,略式裁判を経て罰金で済むこともあります。

起訴されて正式裁判となるか,略式起訴で罰金で済むか,は多くの事情により決められます。
最近は,厳罰化の傾向があり,罰金で済む可能性は低くなっています。
公判か罰金かを判断する主な事情は次の通りです。

<処分の種類の判断要素>

あ 飲酒の程度
い 交通事故の有無
う 過去の交通違反歴
え その他の前科・前歴

4 自転車でも飲酒運転は禁止だが,罰則は「酒酔い」のみ

(1)禁止規定の適用

自転車の飲酒運転,についても,一般的な禁止規定,は適用されます(道交法65条1項)。

(2)刑事罰の適用

飲酒運転の刑事責任は2ランクがあります。
「酒酔い」と「酒気帯び」です(上記『1』)。

<自転車の飲酒運転のまとめ>

あ 酒酔い運転

酒酔い運転については,自転車も自動車同様に適用されます(道交法117条の2第1号)。
刑事罰の対象です。

い 酒気帯び運転

酒気帯び運転については,『自転車』は,刑事罰の対象から除外されています(道交法117条の2の2第3号)。
刑事罰の対象にはなっていないのです。

いずれも「法律による禁止規定の対象」であることは違いありません。
泥酔でない「ほろ酔い」での「自転車」運転ならば適法,ということではありません。
また,道交法以外を根拠とするペナルティの対象となることはあります(上記『2』)。

自転車事故についての特徴については別に説明しています。
別項目;自転車事故の特徴

5 飲酒運転の結果,『人を負傷させた』場合は一気に罪が重くなる|危険運転過失致死傷罪

以上は,『飲酒運転』単体での罰則の説明でした。
一方で『飲酒運転の結果,人が負傷した』という場合は,別の罪になります。
危険運転過失致死傷罪,というものです。
平成26年の法改正によって整備されています。
別項目|自動車運転→死傷事故における罪;平成26年自動車運転死傷行為処罰法施行

6 飲酒運転に関与した者も道交法違反の罰則が適用される

上記のとおり,飲酒運転や薬物・過労での運転は,当然ですが,道交法違反となります。
この場合に,運転者以外の,『一定の関与をした者』も違反として罰則が適用されます。
『飲酒運転』と『薬物の影響下・過労時の運転』の2つで扱いが異なります。
まずは『飲酒運転』への関与,についてまとめます。

<飲酒運転へ関与した者の罰則>

関与者の行為 運転者の飲酒の程度 法定刑 条文(※1)
車両の提供 酒酔い 懲役5年以下or罰金100万円以下 65条2項,117条の2第2号
車両の提供 酒気帯び 懲役3年以下or罰金50万円以下 65条2項,117条の2の2第4号
酒の提供orすすめる 酒酔い 懲役3年以下or罰金50万円以下 65条3項,117条の2の2第5号
酒の提供orすすめる 酒気帯び 懲役2年以下or罰金30万円以下 65条3項,117条の3の2第2号
自分の同乗を要求・依頼 酒酔い(を知っていた) 懲役3年以下or罰金50万円以下 65条4項,117条の2の2第6号
自分の同乗を要求・依頼 酒気帯び 懲役2年以下or罰金30万円以下 65条4項,117条の3の2第3号

※1 条文について
法律名の記載がないものは道路交通法です(以下同様)。

7 過労・薬物影響下での運転に関与した者も『幇助犯』として罰則が適用される

過労運転や薬物の影響下での運転に関与した者も罰則の対象となることがあります。
ここでの『薬物』とは,病院で処方されたものと,『危険ドラッグ』などの医療以外のものの両方が含まれます。

<薬物,過労,病気の影響下の運転へ関与した者の罰則>

関与の態様 法定刑 条文(※1)
薬物の影響下の運転への関与(※2)=『幇助』 懲役5年以下or罰金100万円以下を減軽 66条,117条の2第3号,刑法68条
過労・病気時の運転への関与(※2)=『幇助』 懲役3年以下or罰金50万円以下を減軽 66条,117条の2の2第7号,刑法68

※2 過労等運転への関与について
運転者が『正常な運転ができない』ことが前提です。
また,関与の程度が一定の基準(幇助)に達する場合に『関与者』に罰則が適用されます。
別項目|犯罪の手助け,そそのかしだけでも,幇助犯,教唆犯が成立する

8 飲酒運転中に事故発生→酒がぶ飲み→飲酒運転隠蔽,という裏ワザは封印された|発覚免脱罪

仮に飲酒運転をして事故を起こした場合,警察に発覚するので一巻の終わりとなるのが通常です。
これを打破する悪質な方法が編み出されていました。

<かつて流行った悪質な飲酒運転検挙キラー|ワンカップ大関作戦>

常時,自動車内に『酒』を用意しておく(ワンカップ大関が普及していました)
→飲酒運転の最中に事故を起こし,警察官が登場する
→検査前に警察官に見えるように『酒』を飲み干す
→アルコール検知・検査実施
(呼気検査器(通称『はーのやつ』)による検査などです)
→アルコールが検知される
→運転者『今飲んだ酒の影響です。私は今から友達に迎えに来てもらう予定なんです』

このような検挙逃れに対して警察は手をこまねいていたのです。
ようやく,平成26年の法改正によって,この検挙逃れの封印が実現しました。
『過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪』という規定(罪名)です(自動車運転死傷行為処罰法4条)。
なお,この規定は『人身事故を生じた場合』だけが対象です。
『単なる飲酒検問』は含まれていません。
とは言っても,飲酒検問でワンカップ大関作戦を実行したら免脱が可能,というわけではありません。
犯罪の判定(事実認定)は,そんなに単純ではありませんのでご注意ください。

条文

[道路交通法]
(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条  何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2  何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
3  何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
4  何人も、車両(トロリーバス及び旅客自動車運送事業の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項、第百十七条の二の二第六号及び第百十七条の三の二第三号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。

[道路交通法]
(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条  何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2  何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
3  何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
4  何人も、車両(トロリーバス及び旅客自動車運送事業の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項、第百十七条の二の二第六号及び第百十七条の三の二第三号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。

(過労運転等の禁止)
第六十六条  何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。

第百十七条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
二  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第二項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の提供を受けた者が酒に酔つた状態で当該車両等を運転した場合に限る。)
三〜五(略)

第百十七条の二の二  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一〜二(略)
三  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの
四  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第二項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の提供を受けた者が身体に前号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で当該車両等を運転した場合に限るものとし、前条第二号に該当する場合を除く。)
五  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第三項の規定に違反して酒類を提供した者(当該違反により当該酒類の提供を受けた者が酒に酔つた状態で車両等を運転した場合に限る。)
六  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第四項の規定に違反した者(その者が当該同乗した車両の運転者が酒に酔つた状態にあることを知りながら同項の規定に違反した場合であつて、当該運転者が酒に酔つた状態で当該車両を運転したときに限る。)
七〜十一(略)

[道路交通法施行令]
(アルコールの程度)
第四十四条の三  法第百十七条の二の二第三号 の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラムとする。

[自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律;自動車運転死傷行為処罰法]
(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
第四条  アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。

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