最判平成25年11月29日|遺産共有と通常の共有が併存する共有物の分割と賠償金の保管
1 最判平成25年11月29日|遺産共有と通常の共有が併存する共有物の分割と賠償金の保管
共有している不動産の共有者の1人が亡くなり、その持分を複数の相続人が承継すると、1つの不動産の上に、相続とは関係のない共有持分(通常の共有持分)と、遺産分割がまだ済んでいない共有持分(遺産共有持分)とが並ぶことになります。この2つが併存している状態を裁判で解消しようとするとき、どの手続へ進むのか、そして相続人の側が受け取る金銭はその時点で誰のものになるのかが問題になります。
最高裁判所第二小法廷は、平成25年11月29日、この問題について3つのことを判断しました。併存する共有関係の解消は共有物分割訴訟によること、価格賠償の方法で分割したときに相続人へ支払われる賠償金は遺産分割まで保管する義務を負うこと、そして判決でその保管すべき範囲を定めて支払を命ずることができることです。事案は、会社と夫婦が共有していた土地のうち、亡くなった妻の持分が72分の3しかない、というものでした。
この記事では、この判決が何を判断したのかを、事案と訴訟の経過から順に見ていきます。併存する場合にどの手続を使うのかという法律上の扱いは、別の記事で説明しています。
賠償金の保管義務とその範囲についても、別の記事で説明しています。
2 結論——共有物分割の後に遺産分割、賠償金には保管義務
この事件で争われたことと、最高裁の答えを先にまとめます。
この判決には、『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』に収められた解説があります。以下ではこれを判例解説と呼びます。ほかに、金融・商事判例と銀行法務21に載った評釈も引きます。判例解説は、この判決を、共有物分割と遺産分割が交錯する事案について、昭和50年11月7日の最高裁判決の後も残されていた問題に踏み込んだものだと位置づけています。銀行法務21の評釈は、判示された事項を3つに整理しています。
<結論——共有物分割の後に遺産分割、賠償金には保管義務>
争われたこと最高裁の答え遺産共有持分と他の共有持分が併存する共有物について、共有関係の解消を裁判で求める手続はどれか民法258条の共有物分割訴訟による。その判決で相続人の側に分与された財産は、同法907条の遺産分割の対象になる併存するに至った経緯や、分割を求める者がどちらの持分を有するかで、扱いは変わるか変わらない。遺産共有持分を有する者が求める場合も同じ理が当てはまる価格賠償の方法で分割したとき、相続人が受け取る賠償金は、その時点でその人のものになるかならない。帰属は遺産分割によって確定されるべきもので、支払を受けた者は遺産分割がされるまで保管する義務を負う判決は、その保管について何を定めることができるか各自が遺産分割まで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、その範囲に応じた額の支払を命ずることができる保管義務を明記せず、法定相続分と異なる均等の割合で支払を命じた原審の判決は、違法か裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない。ただし、保管義務を明記せず、割合の根拠も説示していない点は批判された
この判決が判示した3つのこと
本件は、
①共有不動産の持分について相続が発生し、遺産共有持分と他の共有持分が併存する場合、その併存を解消する方法は共有物分割訴訟による旨、
②遺産共有持分について価格賠償による分割が判決で命じられた場合は、賠償金は遺産分割により帰属が決定されるべきものであり、その支払いを受けた者らは分割までこれを保管する義務を負う旨、
③その判決では遺産共有持分を有していた者らが各自において賠償金を保管する権利義務を負う範囲を定めて、各自の保管すべき範囲で賠償金の支払いを命じることができる旨を判示したものである。
※谷本誠司稿/『銀行法務21 784号』経済法令研究会2015年3月p113
昭和50年の最高裁判決の後に残されていた問題に踏み込んだ
本判決は、共有物分割と遺産分割が交錯する事案における分割実現の在り方について、昭和50年判決後も残されていた困難な問題に踏み込んで、解決の道筋を示したものであり、実務的にも、理論的にも、重要な意義を有すると思われる。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p565
3 事案——遺産分割の済んでいない72分の3の持分が、土地全体の分割に混じっていた
舞台は東京都内の、地積およそ240平方メートルの宅地です。登記上の持分は、会社が72分の30、その会社の元代表者である夫が72分の39、その妻が72分の3でした。土地の上には会社と夫が所有する建物が建っています。妻の持分は、相続税対策として夫から妻へ贈与されたものでした。
判例解説は当事者を記号で呼んでいます。会社がX1会社、その元代表者である夫がX2、現代表者である長男がX3、亡くなった妻がA、長女がY1、二男がY2です。以下の引用もこの記号によります。
平成18年9月に妻が亡くなり、夫と3人の子が相続しました。妻の持分72分の3——面積にすると約10平方メートル——が、遺産分割の済んでいない遺産共有の状態になります。こうして1筆の土地の上に、会社と夫が持つ通常の共有持分と、相続人4人の遺産共有持分とが並ぶことになりました。
会社・夫・長男は、この持分を会社に取得させ、会社が相続人4人に賠償金を支払う形の分割を求めて訴えを起こしました。全面的価格賠償と呼ばれる分割方法です。これに対し長女と二男は、夫の名義で登記された持分の2分の1も妻の遺産に属すると主張して争いました。
当事者と持分——会社・夫・妻の共有に相続が起きた
本件は、Xらが、Yらに対し、XらとYらの共有に属する土地(以下「本件土地」という。)の共有物分割を求めた事案である。
Xらは、X1会社(本件土地に本社を置く。)、X2(X1会社の元代表者)、X3(X1会社の現代表者、X2の長男)の3名であり、Yらは、Y1(X2の長女)、Y2(X2の二男)の2名である。
本件土地は、X1会社(持分72分の30)、X2(持分72分の39)及びその妻であるA(持分72分の3)の共有であったが、Aの死亡により、Aが有していた共有持分(以下「本件持分」という。)は、夫であるX2及び子であるX3、Y1、Y2の4名の遺産共有状態となった。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p548
妻の持分は相続税対策として夫から贈与されたものだった
これらのうちAの持分は、平成2(1990)年に、相続税対策としてX2からAに贈与されたものである。
※本山敦稿『共有物分割訴訟において遺産共有持分を全面的価格賠償させる場合の賠償金の支払い方法』/『金融・商事判例1439号』経済法令研究会2014年4月p8
求めた分割方法と、争われたこと
本件土地上にはX1会社及びX2の所有する建物が存在し、本件持分は僅少であることなどから、Xらは、本件持分をX1会社が取得し、X1会社がAの共同相続人らに賠償金を支払うという全面的価格賠償の方法による共有物分割を希望したが、Yらは、X2名義で登記された持分の2分の1もAの遺産に属するなどと主張して争い、協議が調わなかったため、Xらが本件訴えを提起した。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p548
4 1審は競売を命じ、原審は全面的価格賠償を認めた
1審の東京地方裁判所は、全面的価格賠償を認めませんでした。その方法によると賠償金が各相続人に確定的に支払われてしまい、遺産分割の対象として確保されなくなる、というのが理由です。1審は、土地について競売による分割を命じました。
原審の東京高等裁判所は、反対の結論をとりました。全面的価格賠償の方法をとっても、賠償金は相続人らの共有とされ、その後ほかの遺産と一緒に遺産分割に供されることになるのだから、遺産分割に関する相続人の利益は保護される、という組み立てです。原審は会社に持分を取得させ、会社に対し、相続人4人に466万4660円を支払うよう命じました。次の引用は、金融・商事判例の評釈が引いている原審判決の判示です。
上告受理の申立てをしたのは長女と二男です。1審の見解に依拠して、全面的価格賠償の方法が採用されると賠償金が遺産分割の対象として確保されなくなると主張しました。上告審で取り上げられたのは、遺産共有持分の価格を賠償させる方法による共有物分割が許されるかという争点であり、その前提として、この方法による判決がされた場合に賠償金が遺産分割の対象として確保されるかが問題になりました。
1審——賠償金が遺産分割の対象として確保されないから許されない
1審は、本件持分は遺産分割の対象とされるべきものであるのに、Xらの求める分割方法によると、賠償金が各相続人に確定的に支払われてしまい、賠償金が遺産分割の対象として確保されず、共同相続人の有する遺産分割上の権利を害することになってしまうし、現時点では、他に賠償金を遺産分割の対象として確保する方法が存在しないのであるから、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許される場合に当たらないと判示して、本件土地について、競売による分割を命じた。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p549
原審——賠償金は遺産分割に供されるから相続人の遺産分割に関する利益は保護される
なお、上記Aの持分については、現在、X2、X3及びYらにおいて遺産共有の状態となっているが、Aの持分について全面的価格賠償による分割方法が採用された場合には、価格賠償による価格が共同相続人の共有とされた上で、その後に他のAの遺産とともに遺産分割に供されることになるから、全面的価格賠償による分割方法によっても共同相続人の遺産分割に関する利益は保護されているというべきである。
※本山敦稿『共有物分割訴訟において遺産共有持分を全面的価格賠償させる場合の賠償金の支払い方法』/『金融・商事判例1439号』経済法令研究会2014年4月p9
5 共有関係の解消は共有物分割訴訟、そこで相続人側に分与された財産は遺産分割
最高裁はまず、手続の選択を述べました。遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合、その間の共有関係の解消を裁判上求める手続は民法258条の共有物分割訴訟であり、その判決によって遺産共有持分を有していた者に分与された財産は遺産分割の対象になる、という判示です。根拠として昭和50年11月7日の最高裁判決(以下「昭和50年判決」)を引いています。
昭和50年判決は、相続人の1人から持分を譲り受けた第三者が分割を求めた事案についてのものでした。この事件はその逆で、もともと通常の共有だったところに相続が起きた形であり、しかも分割を求めた側には遺産共有持分を有する者も含まれています。判例解説は、併存するに至った経緯や、分割を求める者がどちらの持分を有する者であるかにかかわらず同じ理が当てはまることを明らかにした点に、この判決の意義があるとしています。注釈書も、遺産共有の側の権利者からも共有物分割訴訟で求められることを明確にした点を挙げています。
併存する場合に手続をどう選ぶのかという法律上の扱いは、別の記事で説明しています。
併存する共有関係の解消は共有物分割訴訟により、分与された財産は遺産分割の対象になる
共有物について、遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい、これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合、共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり、この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照)。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
経緯や請求者の立場にかかわらず同じ理が当てはまることを明らかにした
本判決は、昭和50年判決を踏襲しつつ、共有物について遺産共有持分と通常の共有持分との併存が生ずるに至った経緯や、共有物分割を求める者が遺産共有持分と通常の共有持分のいずれを有する者であるかにかかわらず、同様の理が妥当することを明らかにした点に意義がある。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p559
遺産共有の権利者からも共有物分割訴訟で求められることを明確にした
この平成25年判決は、まずは、1個の財産について遺産共有と一般の持分による共有が併存する場合に、その併存状態の解消を、共有物分割訴訟によって、遺産共有の権利者からも求めることができることを明確にした点に意義を有する。
※川淳一稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)』有斐閣2019年p206
6 賠償金は確定的に取得するものではなく、遺産分割まで保管する義務を負う
次が賠償金の性質です。遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その価格を賠償させる方法で分割の判決がされたとき、遺産共有持分を有していた者に支払われる賠償金は遺産分割によって帰属が確定されるべきものであるから、支払を受けた者はその時点で確定的に取得するのではなく、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負う——最高裁はそう述べました。
判例解説も、この判示を同じように読んでいます。賠償金は、支払を受けた者にその時点で確定的に分割帰属するものではない、という読み取りです。注釈書は、この判決が採らなかった見解のほうを名指ししています——賠償金債権が各共同相続人にその相続分に応じて分割単独債権として確定的に帰属する、という見解です。金銭債権は相続で当然に分かれるのが原則ですが、この賠償金はそうならない、ということになります。
この保管義務がどういう仕組みで、実際にどう働くのかは、別の記事で説明しています。
賠償金は確定的に取得するものではなく、遺産分割がされるまで保管する義務を負う
そうすると、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから、賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は、これをその時点で確定的に取得するものではなく、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
判例解説による判示の読み取り
本判決は、上記のような考え方を前提として、遺産共有持分の価格賠償の方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであり、その支払を受けた者にその時点で確定的に分割帰属するものではない旨を判示したものと解される。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p562
賠償金債権が相続分に応じて分割単独債権として確定的に帰属する、という見解を採らなかった
さらに、それだけではなく、この判決は、共有物分割訴訟において全面的価格賠償の方法が取られた場合に、賠償金の最終的帰属は遺産分割によってはじめて確定するとして、賠償金債権が各共同相続人にその相続分に応じて分割単独債権として確定的に帰属するという見解を採らなかった点にも重要な意義を有する。
※川淳一稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)』有斐閣2019年p206
7 判決で保管すべき範囲を定め、その範囲に応じた額の支払を命ずることができる
3つ目は、判決で何を命ずることができるかです。民法258条の共有物分割訴訟は、その本質において非訟事件であって、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを法は期している——最高裁はそこから、価格賠償の方法による分割の判決をする場合には、判決の中で各遺産共有持分権者が遺産分割まで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、持分を取得する者に対し、その範囲に応じた額の賠償金を支払うよう命ずることができる、としました。
判例解説も、この判示を同じように読み取っています。
給付の方式をどう選ぶのか、保管すべき範囲をどう割り付けるのかは、別の記事で説明しています。
保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、その範囲に応じた額の支払を命ずることができる
そして、民法258条に基づく共有物分割訴訟は、その本質において非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと、裁判所は、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には、その判決において、各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、遺産共有持分を取得する者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができるものと解するのが相当である。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
判例解説による判示の読み取り
本判決は、上記のような考え方に立って、裁判所は、遺産共有持分の価格賠償の方法による共有物分割判決をする場合には、その判決において、各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、現物取得者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金の支払を命ずることができる旨を判示したものであると解される。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p563〜564
8 最高裁は原審の判決を維持した
ここからは、最高裁がこの事件の原審判決をどう扱ったかです。分割の方法そのもの——持分を会社に取得させ、その価格を賠償させ、賠償金を遺産分割の対象とする全面的価格賠償——は、上の判示と同じ見解に立つものとして是認されました。残ったのは、賠償金の支払を命ずる主文の書き方です。
ここに食い違いがありました。原審は理由の中で、賠償金は相続人らの共有とされ、その後ほかの遺産と共に遺産分割に供されることになる、と書いています。つまり賠償金は各自のものにはならないという前提です。ところが主文は、各自に4分の1ずつ渡す書き方になっていました。
最高裁は、主文を書き直させることはしませんでした。その4分の1を、各自が確定的に取得する給付ではなく、遺産分割までの保管の割り付けとして読むことで、原審を維持しています。順に見ていきます。
原審が採った全面的価格賠償の方法は是認することができる
原審は、上記と同旨の見解に立って、本件土地の分割方法として、本件持分を被上告会社に取得させ、被上告会社に本件持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする全面的価格賠償の方法を採用したものと解することができ、その判断は是認することができる。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
(1)原審の主文は、賠償金を各自に4分の1ずつ渡す書き方だった
原審の主文は「被上告会社は、被上告人X2、被上告人X3及び上告人らに対し、466万4660円を支払え。」というだけのもので、「連帯して」とも「各自」とも書かれていません。この書き方は、相続人4人に4分の1ずつ渡すという意味にしかならない、というのが最高裁の読みです。
判例解説はこれを分割給付と呼びます。給付の形——各自に4分の1ずつ払わせるのか、各自に全額を払わせるのか(不可分給付)——を指す言い方で、受け取った金銭が各自のものになるかどうかとは別の話です。この2つが別だということが、以下の読み替えの鍵になります。
金融・商事判例の評釈も、原判決が各人への具体的な支払額を書いていないことを指摘し、民法427条に従って各人が4分の1ずつを受け取ることになるのだろう、と読んでいます。
原審の主文は4分の1ずつの支払を命じたものと解するほかはない
もっとも、原判決中賠償金の支払を命ずる主文は、「被上告会社は、被上告人X2、被上告人X3及び上告人らに対し、466万4660円を支払え。」というものであって、被上告会社に対し、Aの共同相続人ら4名に466万4660円の4分の1ずつの額の支払を命ずるものと解するほかはない。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
主文の読み方についての一般的な理解に従えば、各4分の1の分割給付になる
遺産共有持分の賠償金に関する原判決の主文は、
「X1会社は、X2、X3及びYらに対し、466万4660円を支払え。」
というだけのものであって、主文の読み方についての一般的な理解(司法研修所編・10訂民事判決起案の手引12頁参照)に従えば、Aの共同相続人ら4名に対して賠償金の各4分の1の分割給付をすることを命じたものと解さざるを得ない。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p564
原判決は各人に対する具体的な支払額を判示していない
ただし、原判決は、各人に対する具体的な支払額を判示していない。
したがって、X1社は、民法427条に従い、各人に1/4(116万6,165円)ずつ支払うことになるのだろうと解される。
※本山敦稿『共有物分割訴訟において遺産共有持分を全面的価格賠償させる場合の賠償金の支払い方法』/『金融・商事判例1439号』経済法令研究会2014年4月p9
(2)保管させる趣旨も、法定相続分と違う割合にした理由も、原審は判決に書いていない
最高裁は、原審の判決に2つの点で批判的に言及しました。1つは、賠償金が遺産分割の対象になることは理由の中で説示しているのに、各相続人がその時点で確定的に取得するのではなく遺産分割がされるまで保管する義務を負うことを、判決の中に明記していないことです。判示③に従えば、保管すべき範囲を定めた上で命ずるべきものでした。
もう1つは割合の根拠です。この事案の法定相続分は夫が2分の1、3人の子が各6分の1でした。原審が命じたのは均等の4分の1ずつで、法定相続分とは違います。最高裁は、法定相続分によらずこれと異なる割合での支払を命ずることを相当とする根拠について、原審が何ら説示していないことを指摘しました。
判例解説は、この2つの指摘から、原判決の給付命令や理由の記載が一般的に望ましいものだとは最高裁が考えていないことが明らかだ、としています。
保管する義務を負うことを判決中に明記していない
原審は、理由中でAの共同相続人らに支払われる賠償金が遺産分割の対象となる旨を説示するものの、各相続人がこれをその時点で確定的に取得するものではなく、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うことを判決中に明記していない。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
法定相続分と異なる割合による支払を相当とする根拠を説示していない
また、Aの共同相続人らの法定相続分によるのではなく、これとは異なる上記のような割合での賠償金の支払を命ずることを相当とする根拠についても何ら説示していない。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
望ましいものだとは考えていないことが明らかである
その判示からは、原判決の給付命令や理由の記載が一般的に望ましいものであるとは考えていないことが明らかである。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p565
(3)最高裁は、その4分の1を遺産分割までの保管の割り付けとして読んだ
それでも最高裁は原判決を破棄しませんでした。共同相続人間の関係や紛争の実情に鑑み、遺産分割がされるまでの間、対立する当事者の双方に単純に平等の割合で賠償金を保管させておくのが相当だという考慮に基づいて、その趣旨で支払を命じたものと解し得ないこともない——そう述べて、原審の判断に裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない、と結んでいます。
主文の文言は動いていません。動いたのはその意味です。「4分の1ずつ支払え」は、各自が確定的に取得する給付としてではなく、遺産分割までそれぞれが保管する範囲を定めたものとして読まれました。判示②③が、原審の主文の読み方そのものを変えたことになります。
判例解説は、そこへ至る手前で、原審の理由の記載と主文とを併せ読めば、相続人4人の賠償金支払請求権を不可分債権として各自に全額の支払を命ずる意図だったようにもうかがわれる、と指摘しています。最高裁はその読み方は採らず、主文の記載自体から理解されるところに従って読みました。
裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない
しかしながら、原審は、共同相続人間の関係、紛争の実情等に鑑み、Aの遺産分割がされるまでの間、対立する当事者の双方に単純に平等の割合で賠償金の保管をさせておくのが相当であるとの考慮に基づき、その趣旨で被上告会社にその割合に従った賠償金の支払を命じたものと解し得ないこともないのであり、結局、原審の判断にその裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない。
※最高裁判所 2013-11-29 民集 67巻8号1736頁/裁時 1593号2頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1396号150頁/判時 2206号79頁/金法 1995号100頁/金商 1434号14頁
不可分債権とする意図もうかがわれるが、本判決は主文の記載自体に従って読んだ
原審は、その理由中において、「賠償金がAの共同相続人らの共有とされた上で、その後に他のAの遺産と共に遺産分割に供されることになる」と判示しており、この理由中の記載と上記の判決主文とを併せ読むと、Aの共同相続人ら4名がX1会社に対して取得する賠償金支払請求権を不可分債権として、X1会社にAの共同相続人ら各自に対する賠償金全額の支払を命ずる意図であったようにうかがわれなくもないが、
本判決は、判決主文の記載自体から理解されるところに従い、原判決がX1会社にAの共同相続人4名に対する賠償金の各4分の1の分割給付を命じたものと解した上で、結論として、その判断を是認した。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p564
(4)維持したのは破棄する必要がなかったからで、原審の書き方を是としたのではない
維持したからといって、最高裁が原審の書き方を良いものと見たわけではありません。判例解説は、この結論を、あえて破棄して審理をやり直させるまでの必要を認めなかったにとどまるものと読んでいます。この事件では、持分を取得する会社と夫・長男との間に利害の対立がなく、対立する側である長女・二男の法定相続分に応じた賠償金は各約78万円で、原判決ではそれを上回る各4分の1の分割給付が命じられた形になっていました。
金融・商事判例の評釈には、法定相続分と異なる割合を許す「裁量の範囲」について、最高裁の説示が不十分だという指摘もあります。
破棄して審理をやり直させるまでの必要は認めなかったにとどまる
本件の事案では、現物取得者となるX1会社とX2及びX3(X1会社の代表者)との間には利害対立がなく、対立する側のYらの法定相続分(各6分の1)に応じた額の賠償金は各約78万円で、X1会社にはその支払意思と支払能力がある上、原判決ではYらに対しその法定相続分を上回る割合(各4分の1)による分割給付が命じられた形となっていることなどに照らして、あえて原判決を破棄して再度の審理判断をさせるまでの必要があるとは認めなかったにとどまり、特段の説明も加えることなく各自の法定相続分とは異なる割合による賠償金の分割給付を命じた原審の判断を積極的に支持することはできないというのが本判決の立場であると解される。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p565
裁量の範囲についての説示は不十分だという指摘
それと異なる裁判所の「裁量の範囲」について、本判決の説示は不十分であるように思われる。
※本山敦稿『共有物分割訴訟において遺産共有持分を全面的価格賠償させる場合の賠償金の支払い方法』/『金融・商事判例1439号』経済法令研究会2014年4月p12
9 決めていないこと——各自へ全額を命ずる形と、競売したときの売得金
判決が判断したのは、目の前の事案についてです。この判決が決めていないことを2つ挙げておきます。
1つは、賠償金支払請求権を不可分債権とみて、遺産共有持分を有していた者が各自で全額の支払を求められるとする形です。判例解説は、そのような考え方も成り立ち得るとした上で、これは本判決が明言するところではない、と断っています。
もう1つは、競売の方法で分割したときの売得金です。判例解説は、本判決が本件の事案に即して、価格賠償の方法による分割がされた場合の賠償金の性質についてのみ言及していると述べています。同じ理が売得金にも当てはまると考えられる、というのはその先の判例解説の理解であって、この判決が述べたことではありません。
賠償金の給付方式の選択については、別の記事で説明しています。
不可分債権として全額の支払を命ずる形は、本判決の明言するところではない
本判決の明言するところではないが、事案によっては、このような形で賠償金の給付を命ずる判決も、裁判所の裁量の範囲を逸脱するものとはいえない場合があろう。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p562〜563
本判決が言及しているのは価格賠償の場合の賠償金の性質だけである
本判決は、本件の事案に即して、遺産共有持分の価格賠償の方法による分割がされた場合における賠償金の性質についてのみ言及しているが、その趣旨からすれば、遺産共有持分と通常の共有持分が併存する共有物につき競売による分割がされた場合における売得金の性質についても同様の理が妥当すると考えられる。
※谷口園恵稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』法曹会2016年p569〜570
10 おわりに
平成25年11月29日の最高裁判決は、遺産共有持分と他の共有持分が併存する共有物について、共有物分割訴訟で分けた上で相続人の側に渡る財産を遺産分割へ引き継ぐ道筋を、それが賠償金という形になる場合まで含めて示したものです。原審の主文の書き方を批判しながら破棄はしなかった判断の運びからは、この分割方法がまだ実務に定着していなかった時期の事情もうかがえます。
遺産共有と通常の共有が混在する場合に、どの手続を使うのかの判別は、別の記事で説明しています。
遺産共有と物権共有の混在における分割手続(まとめ・令和3年改正前)
同じ問題に現在どう当たるのかも、別の記事で説明しています。
遺産共有と物権共有の混在における共有物分割(令和3年改正民法258条の2)
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。実際に問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
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