【建物買取請求権の行使後の建物「収去」判決による「退去」の強制執行(可能)】

1 建物買取請求権の行使後の建物「収去」判決による「退去」の強制執行(可能)

借地期間が満了して更新されない場合や借地権譲渡を地主が承諾しない場合などに、建物買取請求権が行使されるケースがあります。この建物買取請求権は地主からの建物収去土地明渡請求訴訟の判決が出た後に行使されることもあります。
詳しくはこちら|土地明渡請求訴訟における建物買取請求権行使のタイミング(時機遅れ・判決確定後の行使)
このようなケースでは、建物収去土地明渡請求を認める判決で建物退去の強制執行ができるのか、という問題が生じます。結論としては可能ですが、本記事ではこのことを説明します。

2 問題の所在

まず前訴の判決の内容は地主から借地人への建物収去土地明渡請求を認めるものです。
その後の建物買取請求権行使によって、建物は地主の所有になっています。「建物を収去(解体)すること」を請求できなくなっています。請求異議訴訟の判決により執行力が一部否定された、ということです。
そこで結果的に地主が借地人に請求できるのは土地明渡と建物「退去」請求だけ、ということになります。
地主の手元にある判決書は「建物収去土地明渡」を認めるもの、実際に求める内容は「建物退去」だけ、という状態です。これについて、包含関係にある、つまり、「建物収去土地明渡」の判決書で「建物退去」の強制執行ができる、という見解が一般的です。

3 新版注釈民法→再度の提訴不要・執行力維持

新版注釈民法は、原則論どおりにすると再度の提訴が必要になるが、これは不合理(酷)であるとして、判決の執行力が維持される、という見解をとっています。なお、建物「引渡」と書いてありますが、「退去」の方がベター(より正確)だと思われます。

新版注釈民法→再度の提訴不要・執行力維持

(ウ)判決確定後の買取請求権行使の場合
土地所有者の建物収去・土地明渡請求認容の判決の確定後にも、建物所有者が買取請求権行使を理由として請求異議の訴をなしうるとする立場にかりに立つとしても(→III2イb①)、もし、この請求異議の訴により前の判決が全面的に執行力を失うと解す(畑・前掲論文353)れば、土地所有者は新たに建物引渡・土地明渡訴訟を提起せねばならぬことになり、かれに酷である。
したがって、前の判決は、建物引渡・土地明渡を命ずる判決としての範囲内で、執行力を維持する、と解すべきであろう(浦和地判昭33・8・14下民集9・8・1612、東京高判昭38・11・30東高民時報14・11・312、村松俊夫「既判力と建物買取請求権の行使」法時30巻2号〔昭33〕91、星野・借地借家367、水本=遠藤編・前掲書113〔伊藤〕)。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p600、601

4 昭和33年浦和地判・質的一部→包含関係あり

昭和33年浦和地判も、判決と執行内容に包含関係があると判断しています。

昭和33年浦和地判・質的一部→包含関係あり

而して買取請求権を行使した場合には建物の所有権は買取請求権行使の時に地主に移り、建物所有者は建物の所有権を失う代りに時価による建物代金の請求権を取得する。
地主は建物の所有者として、建物を収去することができることは当然であるが、これを強制執行なし得るとなす必要はないし、民事訴訟法第七三三条第二項によつて、債務者の費用においてなすことを許すわけにはいかないから被告の債務は建物収去土地明渡から、建物退去土地明渡と内容が変更されるのである。
而してこの両者の関係は建物退去土地明渡は、建物収去土地明渡請求に包含され(大審院判昭和九年六月一五日、昭和一四年八月二四日、最高裁判所昭和三三年六月六日判決参照)その質的一部をなすと解すべきであるから、建物収去土地明渡の勝訴判決によつて、建物退去土地明渡の強制執行をもなし得るし(債務名義の債務者の同一性が認められる限り)、その反面建物の買取請求権を行使したのに拘らず建物収去の強制執行をなすことは、建物退去土地明渡と言う範囲を超えた部分については債務名義の効力は消滅するのであつて、この範囲においては許されず買取請求権行使の効果を請求異議の原因となすことは許されると解すべきである。
※浦和地判昭和33年8月14日

5 昭和38年東京高判・退去は収去の前提→包含関係あり

昭和38年東京高判は、建物からの退去は建物収去の前提である、というところに着目して、包含関係を認めています。

昭和38年東京高判・退去は収去の前提→包含関係あり

所論は、本件債務名義は、建物収去、土地明渡を命ずる確定判決であつて、建物退去を命ずるものではないから、右債務名義によつて抗告人を前記建物から退去させることは許されない、と主張するけれども、債権者は右債務名義による建物収去の前提として同建物に居住する債務者をこれから退去させることができるものと解するのを相当とする。
そしてこのことは、判決確定後において抗告人が相手方に対し収去すべき建物につき買取請求の意思表示をしたということだけによつては、なんらかわることがないばかりでなく、これがため建物収去の執行が許されない場合においても、右債務名義により抗告人に対し建物退去を強制することを妨げないものと解すべきである。
※東京高判昭和38年11月30日

6 昭和40年札幌高判・収去の時に退去義務あり→包含関係あり

昭和40年札幌高判は、建物収去の執行の際には実際に債務者が建物を退去する、という構造から包含関係を認めています。

昭和40年札幌高判・収去の時に退去義務あり→包含関係あり

そこで、進んで、このような場合の買取請求権行使の効果について考えるに、建物所有権が土地所有者に移転した以上、従前の建物所有者に対する収去明渡の執行がもはや不能に陥つたことは言うまでもないが、その故にこの債務名義が全く無効に帰したと解すべきではない。
けだし、右のように、建物所有者が自身居住する場合、建物収去の時期に建物から退去する義務があるとされる以上、この場合の収去明渡の債務名義には事実上建物退去の債務名義も含まれているのであるが、前者の執行の過程において後者も必然的にこれに付随して実現されるから、後者を明文を以て表現していないだけなのである。
従つて、付随的実現の可能性がなくなれば、従来潜在していたものが顕在するに至ると見るべきであつて、買取請求によつて建物所有権を失つたが、なお居住を続けているという場合は、まさにこれに当るのであるから、本件において、収去明渡の債務名義は退去明渡の限度においてなお効力を保存するとした原審の判断は、正当であり、原判決に所論の違法はない。
※札幌高判昭和40年9月27日

7 「建物収去土地明渡」と「建物明渡」「建物退去」の用語の意味

(1)「引渡」「明渡」「退去」の意味(違い)(前提)

以上の説明の中で、「明渡」と「退去」という用語が出てきました。実務上の決め事で当たり前のようになっているので説明しませんでしたが、ここで押さえておきます。
「明渡」は(「引渡」の中の1カテゴリで)占有者を退去させた上で債権者(執行の申立人)に占有を移転するものです。
「退去」は、占有者を退去させるだけで、債権者への占有移転はないものです。
<「引渡」「明渡」「退去」の意味(違い)(前提))>

あ 「引渡」「明渡し」→占有取得あり

ア 「引渡」の意味→主にモノが移動 「引渡し」とは、物の直接支配を移転することをいい、
イ 「明渡」の意味→ヒトが移動 「明渡し」とは、引渡しの一態様であるが、当該不動産に居住し又は物を置いて占有をしている場合に、立ち退き又は引き払うことによって、回復者に物の完全な直接支配を得させることをいう
(総研・書記官和解69頁注2、藤田=小川・不動産訴訟実務128頁)。
※岡口基一著『要件事実マニュアル 総論・民法1 第5版』ぎょうせい2016年p350

い 「退去」の意味→占有取得なし

なお、建物明渡し(又は引渡し)の執行は、建物の占有を執行債務者から執行債権者に移転させるものであるが、建物退去の執行は、執行債務者による建物の占有を排除するだけであって、執行債権者は建物の占有を取得しない
※岡口基一著『要件事実マニュアル 総論・民法1 第5版』ぎょうせい2016年p361

(2)「建物収去土地明渡」と「建物明渡」「建物退去」の包含関係

「建物収去土地明渡」の中身は、「建物を収去(解体)すること」と、「土地を明け渡すこと=土地の占有を債権者(=原告)が取得すること」です。「建物の占有を債権者が取得すること」は含まれません。
建物買取請求権の行使により、建物が地主(債権者)の所有となります。
そこで実体上認められる請求は「建物を明け渡すこと=建物の占有を建物所有者(地主=原告)が取得すること」となります。
しかし、手元にある「建物収去土地明渡」の判決は「建物の占有を原告が取得する」ことは形式的に含まれていません。解釈によって含まれるといえるとしても「占有者(被告)が建物から退去すること」まで、というのが結論です。

本記事では、土地明渡請求訴訟の判決後に建物買取請求権が行使されたケースの判決の効力について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地期間満了における更新拒絶など、土地明渡請求に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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