【本人確認情報による登記申請(制度内容・司法書士の調査義務・高額報酬問題)】
1 本人確認情報による登記申請
平成16年の不動産登記法改正によって、本人確認情報の制度が新たに作られました。
本記事では、本人確認情報の制度の内容、関与する司法書士の注意義務と司法書士の報酬の問題について説明します。
2 保証書の廃止と本人確認情報の制度新設
不動産登記法改正前にあった保証書の制度は、形式的な名義貸しが行われることが多く、また、保証人に支払う謝礼が高く、負担が大きいという問題がありました。
そこで、平成16の法改正で保証書が廃止され、本人確認情報が新たに導入されたのです。
保証書の廃止と本人確認情報の制度新設
あ 保証書制度のデメリット
保証書の制度は、その悪用による不正登記が絶えなかった
申請人が保証人を見つける手間や保証人に支払う謝礼などの負担が大きかった(後記※1)
い 保証書制度の廃止
保証書の制度は、申請人の負担(あ)の軽減と手続の合理化という観点から廃止された
※藤縄雅啓稿『副本・保証書から登記原因証明情報・本人確認情報へ』/『月報司法書士561号』日本司法書士会連合会2018年11月p23
う 事前通知制度の強化と本人確認情報の新設
平成16年不動産登記法改正によって
保証書の制度を廃止し、事前通知制度を強化した
さらに、資格者代理人による本人確認情報の提供制度を導入した
これにより、登記官の判断により事前通知を省略できることとした
※不動産登記法23条
※藤縄雅啓稿『副本・保証書から登記原因証明情報・本人確認情報へ』/『月報司法書士561号』日本司法書士会連合会2018年11月p23
3 不動産登記の本人確認情報の制度の内容
原則として、登記済証や登記識別情報がない場合には、事前通知制度を使うことになります。この方法だと、登記申請の時点では申請手続の一部が完了していない状態となります。登記申請(書類の受領)と代金の決済を同時に行うことができなくなります。
この点、本人確認情報があれば、事前通知を回避できます。登記申請(書類の受領)と代金支払の同時履行がしやすくなるのです。結局、本人確認情報は、保証書に代わるものであるといえます。
不動産登記の本人確認情報の制度の内容
あ 本人確認情報制度の内容
資格者から本人確認情報の提供がなされた場合
(かつ、登記官がその内容を相当と認めた場合)
登記義務者本人に対する事前通知が省略されたまま登記が実行される
=登記義務者への意思確認手続が回避される
い 面談義務の明確化
本人確認情報の作成において
資格者代理人が申請者と面談する義務が明示されている
※不動産登記規則72条1項1号
4 本人確認情報の重大性と作成の注意義務
本人確認情報は、これによって事前通知による本人や申請意思の確認を回避することになるのでとても重大なものです。そこで、これを作成して登記所に提供する司法書士は高度の注意義務を負います。
なお、本人確認情報を使わない普通の(登記済証や登記識別情報による)登記申請でも司法書士は重い確認・調査義務を負っています。しかし本人確認情報の作成では、調査義務がより高度になるのです。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
本人確認情報の重大性と作成の注意義務
あ 本人確認情報作成における注意義務
司法書士が本人確認を行うにあたっては
事前通知制度に代替しうるだけの高度の注意義務が課せられる
登記義務者、登記権利者に対して負うべき義務である
い 適切な調査義務の履行の立証責任
適切な方法による調査の立証責任は司法書士側にある
※石谷毅ほか著『司法書士の責任と懲戒』日本加除出版2013年p362
5 本人確認情報作成における調査不足の責任(概要)
司法書士が保証書や本人確認情報を作成する司法書士には、通常のケースよりも高いレベルの調査・確認が要求されます(前記)。
仮になりすましを見抜けたかったような場合は、司法書士の責任が認められやすいです。ひどいケースであったために、懲役刑の実刑判決がなされた実例もあります。
本人確認情報作成における調査不足の責任(概要)
司法書士が本人確認情報(or保証書)を作成する際
司法書士は、一般的な本人確認よりも高いレベルの確認・調査が要求される
調査が不十分であった場合は司法書士の責任が認められやすい
例=司法書士に実刑判決がなされた
詳しくはこちら|司法書士による虚偽の本人確認情報(保証書)作成の懲戒処分事例
6 保証書・本人確認情報の高額報酬問題
ところで、過去の保証書や現在の本人確認情報に関しては、司法書士の報酬が高すぎるという批判もあります。
司法書士は、通常の(登記済証や登記識別情報による)登記申請よりも高レベルの調査義務を課され、大きなリスクを負うので、作成の費用が高くなることは当然です。しかし高すぎる金額の設定がなされているケースもあるという指摘がなされています。
保証書・本人確認情報の高額報酬問題(※1)
あ 本人確認情報の作成報酬の実情
司法書士が、本人確認情報を作成する報酬として平成16年の不動産登記法改正以前の保証料と変わらぬ感覚での高額報酬を請求する例が少なくないと言われる
改正法の手続に合わせて形は変わったが、執務の姿勢と意識は残念ながら変わらない例と言えよう
※藤縄雅啓稿『副本・保証書から登記原因証明情報・本人確認情報へ』/『月報司法書士561号』日本司法書士会連合会2018年11月p24
い 過去の保証料の相場
保証料は20万円以内という基準であった
推奨価格と思しき金額は4万円であった
(当時の報酬基準は、課税標準価格1000万円の不動産の所有権移転登記の報酬が2万1000円〜2万4800円であった)
※埼玉司法書士会の支部長会決議
※藤縄雅啓稿『副本・保証書から登記原因証明情報・本人確認情報へ』/『月報司法書士561号』日本司法書士会連合会2018年11月p26
本記事では、不動産登記申請における本人確認情報の制度の内容や、作成する司法書士の調査義務、高額報酬問題を説明しました。
このようなことが表面化するのは、なりすましなどの登記事故が生じたケースです。
実際には個別的な事情や、その主張・立証のやり方次第で判断結果は変わります。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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