【建物の建築工事の瑕疵の種類と判断基準(仕様や性能の基準)】

1 建物の建築工事の瑕疵の種類と判断基準
2 建築工事の瑕疵の種類の分類
3 契約違反型の瑕疵の判断基準
4 法規違反型の瑕疵の判断基準
5 仕様と性能の意味(前提)
6 建築基準法の仕様規定から性能規定への変化
7 現在の建築基準法における仕様の位置づけ
8 設計図書・設計図・仕様書の意味(前提)
9 設計図書と瑕疵の判定の関係

1 建物の建築工事の瑕疵の種類と判断基準

建物の建築工事に欠陥があった場合,請負人の瑕疵担保責任が発生することになります。
詳しくはこちら|売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像
本記事では,建築工事の瑕疵の種類を分類して,それぞれの判断基準を説明します。

2 建築工事の瑕疵の種類の分類

まず,瑕疵という用語の基本的な意味は,品質・性能が一定の基準に達していないという抽象的なものです。
詳しくはこちら|『瑕疵』の意味・品質や性状の基準・種類(物理・法律・心理的)
瑕疵の判断をしやすくするためには,もう少し具体的な瑕疵の種類に分類することが必要です。そこで,建築工事(請負契約)の瑕疵を大きく分類します。契約違反・法規違反・美観損傷という3つのタイプになります。契約違反のタイプはさらに,約定性能違反と約定仕様違反に分けられます。

<建築工事の瑕疵の種類の分類>

あ 契約違反型

ア 約定性能違反 当事者が特に契約で特定した性能に違反する
イ 約定仕様違反 設計図書で示された仕様のとおりに施工されていない

い 法規違反型

施工内容が法規に違反するケース

う 美観損傷型

施工内容(結果)が美観を損ねるケース
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p309,310

3 契約違反型の瑕疵の判断基準

建築工事の瑕疵のうち,契約違反型の瑕疵についての基本的な判断基準をまとめます。
基本的に,建物としての機能・品質が一定のレベルに達しているか,ということがベースとなります。その上で,契約当事者(発注者=施主)が個別的に重視していた内容も判断基準に含まれます。
機能や品質(性能)のレベルの評価については,一般的な技術水準が基準となりますし,また,個別的な設計図書も大きく影響します。

<契約違反型の瑕疵の判断基準>

あ 基本的な判断基準

構造的に安全であり,機能的,品質的に同等であっても,当事者が重要視した約定内容(特に定めた性能基準)に違反すれば,契約違反としての瑕疵に当たる
※最高裁平成15年10月10日

い 判断材料

『あ』の判断をする元となるものには『ア〜エ』などがある
ア 設計図書イ 技術水準 JASS・日本建築学会標準仕様書
ウ 社会通念エ 住宅工事仕様書(いわゆる機構仕様) 住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の融資の対象となる建物の場合にはこれも判断材料となる
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p310

4 法規違反型の瑕疵の判断基準

建築工事の瑕疵のうち法規違反型の瑕疵の判断とは,簡単にいうと,法規(法令)違反だと瑕疵にあたるということになります。ただし,法規の内容はとても幅広いです。軽微,つまり,安全性などの本質的な規制目的への影響が小さいもの(規定)に違反するケースでは,瑕疵として認められないこともあります。
とはいっても,建築基準法は,最低限の基準を定めたものといえますので,建築基準法違反は通常瑕疵にあたります。

<法規違反型の瑕疵の判断基準>

あ 基本的な考え方

注文者は通常,法規に違反するような建物の建築を注文することはない
→明示の合意がないとしても,法規適合性は,契約の当然の前提とされている
→瑕疵性の判断基準となる

い 典型例

建築基準法,都市計画法,安全条例などの公法的規制に違反するケースが典型である
建築基準法,施行令は最低限の基準を定めている
→これらに違反する場合には,原則として瑕疵が認められる
※東京地裁昭和47年2月29日(建築基準法違反について)
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p310

5 仕様と性能の意味(前提)

建物建築の瑕疵にあたるかどうかの判断では,仕様や性能が関係してきます。判断基準の説明の前に,仕様と性能の意味を整理しておきます。仕様は,客観的な性格が強く,性能は主観(評価)的な性格が強いといえます。

<仕様と性能の意味(前提)>

あ 仕様の意味

仕様とは,建築物の種別や部材のつくり方をいう

い 性能の意味

性能とは,建築物に備わるべき機能の水準である
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p311

6 建築基準法の仕様規定から性能規定への変化

建築基準法は,建物の建築工事の水準を定めています。以前は仕様を定めていましたが,現在では性能を定める方向にシフトしています。当然,瑕疵の判断にも影響しています(後述)。

<建築基準法の仕様規定から性能規定への変化>

あ 旧法の仕様基準

建築基準法施行令,旧建設省告示,条例には,仕様を定めている規定がある
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p311

い 性能規定への変化

平成12年の建築基準法改正により,仕様規定の性能規定化が図られた

う 性能規定の意味

性能規定とは,建築物に備わるべき性能,機能の水準を定めた規定である
性能規定のもとにおいては,その性能が十分に達成されれば,そのつくり方は自由である
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p311

7 現在の建築基準法における仕様の位置づけ

現在の建築基準法では,施工の水準を性能で定めています(前記)。とはいっても,仕様は関係なくなったというわけではありません。標準的仕様は法令上定められています。そしてこの仕様をクリアしていれば性能をクリアしているとみなされます。逆に,標準的仕様をクリアしていない場合は,具体的に法令が求める性能をクリアしていることを証明(検証)する必要があるということです。

<現在の建築基準法における仕様の位置づけ>

あ 標準的仕様

建築基準関係法令が定める基準を確実に実現できる具体的な仕様を予め定めてある

い 適合みなし規定

標準的な設計方法や施工方法のとおりに施工すれば,建築基準法関係法令が要求する性能を満たしているものとみなされる
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p311

う 標準的仕様以外の仕様の施工

標準的仕様と異なる仕様で施工しようとする場合
国土交通省が定める試験や構造計算によって性能が確保されていることを検証しなければならない
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p311

え 標準的仕様以外の仕様での立証責任

標準的仕様と異なる仕様で施工する場合
建物の品質および機能(性能)が確保されていることの事実上の立証責任は請負人が負う
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p313

8 設計図書・設計図・仕様書の意味(前提)

以上のように,建築瑕疵の判断は,施工内容のレベルの評価で決まります。ところで,施工のレベルの評価では,設計図などの書面や図面が大きく影響します。
瑕疵の判断を説明する前に,関係してくる書面の種類を整理します。

<設計図書・設計図・仕様書の意味(前提)>

あ 設計図書の意味

設計図書とは,設計図(い)と仕様書(う)の総称である
現場説明書・質問回答書によって補足することもある

い 設計図の意味

設計者が工事の範囲を数量とを一定の約束に従って図示したもの

う 仕様書の意味

仕上げの程度を詳記したもの
作業の順序や使用材料の品質,数量や施工方法を記載することもある
共通仕様書を用いた上で,更に特記仕様書を作って添付することもある
※滝井繁男著『逐条解説 工事請負契約約款』酒井書店1998年p27

9 設計図書と瑕疵の判定の関係

建築の施工は,設計図書つまり,設計図と仕様書どおりに行われます。つまり,設計図書が施工者を拘束するということです。
実際にはそこまで単純ではなく,設計図書どおりに施工することが妥当ではない,とかできないということもあります。そこで,設計図書と異なる施工であっても,実質的に注文主に不利益が生じるようなものでない場合には瑕疵にはあたりません。

<設計図書と瑕疵の判定の関係>

あ 設計図書と瑕疵の判定の基本的な関係

施工者は,設計図書に基づいて工事をする義務を負う
施工者が設計図書のとおりに施工しさえすれば責任を免れる
設計図書と異なる施工がなされた場合,原則として瑕疵となる
※滝井繁男著『逐条解説 工事請負契約約款』酒井書店1998年p28

い 設計図書からの逸脱における例外

設計図書と異なる施工であっても
工事目的物の価値や機能などに影響を与えず,かつ,特に注文者が要求した点にも反することがない場合には瑕疵に当たらない
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p314

う 設計図書からの逸脱の実例

ア 施工困難 設計図書は立体である建築物を平面で表現している
→設計図面に誤りや疑義がある程度生じることがある
→その結果,設計図面どおりでは施工できない状態であった
→施工現場において,改造する必要が生じた
イ 資材調達困難 予定していた資材が使用できなくなった
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p314

本記事では,建物の建築工事の瑕疵の分類(種類)と判断基準について説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に建物建築の瑕疵の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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