1 積水ハウスvs地面師事件の内容
2 積水ハウスvs地面師事件の経緯
3 不正な登記申請に関する事情
4 本登記が実行されなかった理由の想定

1 積水ハウスvs地面師事件の内容

平成29年に,積水ハウスが,詐欺集団である,いわゆる地面師から土地を購入し,結果的に63億円を払ったけど土地を取得できないことになってしまいました。
このケースは,不動産の取引一般にひそむ,だまされるリスクの典型例として,不正を見抜いて被害を予防するために参考となるものです。
本記事では,積水ハウスが地面師にひっかかってしまったケースの内容を説明します。

2 積水ハウスvs地面師事件の経緯

この不動産取引について,登記上の記録や報道された内容などを時間の経過順に整理します。
大雑把にいえば,中継をはさんだ土地の売買です。これ自体は珍しいものではありません。法的には買主たる地位の状態で登記をします。
この後,代金の支払と引き換えに登記を移転させることになります。
ここで,だまされたことが発覚します!積水ハウスが代金を支払った後に,法務局で登記されない状態になったのです。
要するに,この取引に土地の所有者が関与していなかったことが発覚したのです。
結局,積水ハウスは約63億円を騙し取られたと報道されています。

<積水ハウスvs地面師事件の経緯>

あ 平成2年4月19日受付

昭和50年12月相続による所有権移転登記(甲区1番)
所有者=A

い 平成29年4月24日受付(連件・※1)

所有権移転請求権仮登記(甲区2番)
原因=同日付売買予約
A→I社(買主たる地位)

う 平成29年4月24日受付(連件・※2)

所有権移転請求権の移転請求権仮登記(甲区2番付記1号)
原因=同日付売買予約
I社→積水ハウス(買主たる地位の買主たる地位)

え 代金の支払(登記外)

売買代金の一部の支払が行われたと思われる

お 平成29年6月1日登記申請・残金決済(登記外・※3)

『ア・イ』の登記申請と残金支払(決済)が行われた
ア 『い・う』の仮登記の本登記(所有権移転登記)申請
イ 残金のうち大部分の支払

か 平成29年6月9日登記申請の却下(取下)(登記外)

登記申請の書類に偽造のものがあったことが発覚し,登記申請が却下(取下)された

き 平成29年6月24日所有者A死亡
く 平成29年7月4日受付

『き』の相続による所有権移転登記(甲区3番)
所有者(相続人)=B・C

け 平成29年7月5日受付

2番付記1号所有権移転請求権仮登記の移転請求権仮登記の抹消(甲区4番)
原因=平成29年6月13日解除
積水ハウス→I社

なお,甲区2番のI社の仮登記は残ったままになっています(平成30年3月6日時点)。
この仮登記に真の権利者が関与していなかったとすれば,I社の仮登記は後から訴訟で抹消されることになるはずです。

3 不正な登記申請に関する事情

後になって,I社や積水ハウスの登記には真の所有者が関与していない不正なものであることが判明したのです。
なぜ,不正な登記申請ができたのか,つまり,不正が発覚しなかったのか,という疑問があります。これについては,地面師所有者名義位の印鑑証明書とパスポートを偽造してこれを使ったと思われます。
登記済権利証も偽造したのか,それとも紛失したことにして,司法書士が本人確認情報を作成する方式をとったのかは不明です。
また,最初の仮登記は受理して実行されて,次の(仮登記の)本登記の申請は実行されなかったという違いの理由も明確には分かりません。

<不正な登記申請に関する事情>

あ 判明している事情

偽造した所有者名義の印鑑証明書とパスポートが使われた

い 判明していない事情

2回の登記申請(前記※1,※2と※3)において
真正な登記済証が使われたかどうか
司法書士が行った調査の内容
1回目の登記申請が実行された理由

4 本登記が実行されなかった理由の想定

前記のように,本登記の方は実行されなかったのですが,この理由として考えられる事情の1つとして,『不正登記防止申出』があります。
仮登記がなされた後に所有者(やその親族)が気づき,すぐに法務局に不正登記防止申出を提出したという仮説です。
この申出をした場合には,積水ハウスなどが本登記の申請をした時点で法務局から(真の)所有者に連絡することになるのです。

<本登記が実行されなかった理由の想定>

あ 不正登記防止申出の可能性

真の所有者が『不正登記防止申出』を行った可能性が考えられる

い 不正登記防止申出の効果

『あ』の申出がなされた後に,当該物件について登記申請がなされた場合
→申請人以外が申請していると疑う状況であることになる
→登記官から申請人への出頭要請などによる確認をすることになる
※不動産登記法24条1項
※不動産登記事務取扱手続準則(通達)33条1項2号,35条

なお,本記事では,読みやすさを優先させるために,厳密な表記・表現を省略しています。あくまでも登記簿や報道の内容から判明している,あるいは予想される事情をまとめたものです。
本記事では,積水ハウスが地面師にだまされた取引について説明しました。
似ている事件は多くありますが,個別的な事情によって法的扱いが変わります。
実際に不正な取引や登記に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。